GTO WizardでFlop分析してみた
ポーカーの座学としてGTO Wizardを使ってFlopの集合分析をしたときの雑記です。
分析結果を具体→抽象→応用でまとめていきます。
自分で言うのもアレですが、そこそこ面白い分析ができたなと思います。
1. [具体1] SBvsBTN 3bpのFlop集合分析
1-1. Flopの集合分析
特定Flopの最適戦略を知りたいときは、WizardのSolutions機能を使えばハンド単位で戦略を確認できます。
試しに適当なFlopでアクション頻度を調べてみます。
選んだのはSBvsBTNの3bp*のK-7-3r。
このボードではSBは高頻度でCBを打てることがわかります。
こんな風に、Solutionsでは特定ボードでの各ハンドの最適戦略を確認できますが、「SBは〇〇なボードだと積極的にbetできるけど、逆に〇〇なボードでは消極的にcheckを多くしたほうがいい」 みたいな大まかな傾向を、複数ボードで比較してみたいという願望が湧いてきます。
そんな時に便利なのが集合分析=Reports機能。
集合分析ではハンド単位での戦略は確認できないかわりに、レンジ全体のアクション頻度を全Flop横並びで一覧できます。
これを使って極端な戦略(bet100%, check100%等)となっているボードを俯瞰で探し、深堀りして考察すれば、他のボードにも転用できる考え方が見つかるかもしれません。
では早速、SBvsBTN 3bpの集合分析から特徴的なボードを探してみます。
1-2. Preflopレンジの確認
集合分析の前に、まずは双方のPreflopレンジを見てみます。言うまでもなくPreflopはPost-flopの戦略に大きく影響を与えるので、きっちり確認します。
もう少し特徴を正確につかむため、SBにしか存在しないレンジを赤、BTNにしか存在しないレンジを緑に塗りつぶしてみます。
これを見ながら双方の特徴を確認します。
SB
レンジはやや狭い(198combos)。
AA〜TT, AK, AQなどの強いハンドが多い。
AXsの弱キッカーが多い
ブロードウェイのオフスートが多い。
スーコネやローポケなど投機的ハンドが少ない。
BTN
レンジはかなり狭い(59combos)。
3betにcallしているため、AA~TT, AK, AQ, KQo などの4betに回るハンドがない(レンジがcapされている)。
ブロードウェイのオフスートが少ない。
スーコネやローポケなど投機的ハンドが多い。
両者の特徴を整理すると以下の通り。
1-3. データセットの絞り込み
改めて集合分析を見てみます。
AAA~222の全1,755種類のFlopが右からランク順に表示されています。縦軸はアクション頻度に対応し、上から順にcheck→小bet→中bet→大betで色分けされています。
画面の左下の全体概観を見るとごちゃごちゃしていますが、これはペアボード・モノトーンボードなど特殊なものも含め様々なボードが混ざっているからです。
これを解消すべく、フィルター機能でFlopパターンを絞り込みます。
今回はペアのないレインボーボードに絞ります。
Suits→Rainbow、Paring→Not pairedを選んだあと、さらに絞り込むためハイカードをA,K,Qに限定。
先ほどより傾向がかなり鮮明になりました。
この中からSBのbet頻度が極端に高いボード、極端に低いボードをピックアップして分析します。
1-4. SB有利ボード/Q-J-Tr
まずはSBのbet頻度が高いボードであるQ-J-Tr。
集合分析チャートの軸ラベル[QJT]をクリックして詳細戦略を別タブ表示してみます。
このように、SBは全レンジbetが推奨されています。その理由を探るためRangesタブから双方のレンジ全体のEquityを見てみます。
EQgraphを見るとSB(赤)はBTN(緑)に対してレンジ全体で圧勝。要するに、このボードは3betしたSB側が超有利なボードとなっています。
その理由を考えてみましょう。
まず、このボードで完成しうる強い役とそのハンドを書き出し、SB/BTNどちらが多く持っているかを色分けしてみます。
強ハンドはことごとくSBが持っていて、逆にBTNのレンジのハンドでは強い役が作れません。
こんなボードではSB側はやりたい放題で、小さいbetから大きいbetまでなんでも打てます。逆にBTN側はディフェンスするのがかなり苦しく、raiseを返すのはほぼ不可能です。
この要因は事前に確認した両者のPreflopレンジにありそうです。
BTN側はAK, K9がない、セットがない、ブロードウェイハンドのオフスートが少ない、といった特徴が全て裏目となり、このボードとの相性は最悪なので、SB側が高頻度でbetするのも頷けます。
この時のSBは、「Nutsアドバンテージがある状態」と言えそうです。
1-5. SB不利ボード/A-9-8r
続いてはSBのbet頻度が極端に低いA-9-8r。
Rangesタブを見るとレンジEVがSB<BTNとなっています。
EQgraphも拮抗し、特に強ハンドはBTNが優勢。その理由について、強い役とハンドを見ていくことで探ってみます。
ボードが完全にはコネクトしていないのでFlop時点のNutsはセットです。ただしこういったボードでのOESD(=Open End Straight Draw)のように、完成すれば大きな利益を獲得できるポテンシャルのあるドローハンドのEVは高くなる傾向があるので、メイドハンドと一緒に確認しています。
このボードはQ-J-Trとは違ってSB優勢とは言い切れず、どちらも同程度に強い役を作れます。
こうなった理由として「レンジ内のコネクターの有無」が考えられそうです。
BTNレンジはQJs~54sのコネクターを多く含み、現状強い2ペア(98s)、Turn以降で強くなるOESD(JTs, 76s)、GSSD(QJs, 65s)があります。一方SB側のコネクターはQJs, JTsだけで、逆にCBに対してBTNからraiseされると苦しいハンドを多く抱えています。
トップペアになるAXはSB側に多く含まれますが、BTN側にもそこそこ含まれていますし、その強さはRiverまで保証されず、2ペアやセットには現状負けており、Turn以降でQ〜T, 7〜5などのドロー完成カードが落ちると身動きが取りづらくなります。
「A以外の2枚が連続していること」がBTN側に有利に働くことは分かりましたが、もう少し踏み込むと「A以外の連続する2枚がハイカードとローカードの中間に位置する9と8であること」も意味がありそうです。
まず、SB側はKK~TTを一方的に持っていますが、今回のFlopはK~Tがないので、セットによる優劣はほぼイーブン。
また、Aが落ちている関係上、オーバーペアになれなかったKK〜TTや、KQ, KJ, KTなどのブロードウェイハンドの価値が暴落し、これらを多く含むSBのレンジを弱くする要因になっています。
そして、BTN側は前述の通りミドル〜ローコネクターである98~54を一方的に持っているので、「BTNのレンジ内のハンドで2ペア・OESD・GSSDを一番多く持てる状態」になるちょうどいいFlopはX-9-8、X-8-7、X-7-6あたりになりそうです。
以上をまとめると、A-9-8rというボードはBTN側から見て「相手のハイポケットやブロードウェイハンドに対してはレンジ内のAXで睨みを利かせ、逆に相手のAXに対してはレンジ内のスーコネで作る2ペアやドローで対抗できる」というスイートスポットになっているため、SBのbet頻度が極端に低くなっているようです。
ちなみにA-8-7rやA-7-6rもSBはcheck優勢となっており、↑の仮説は的を外していなさそうです。
1-6. さらなる疑問
ここまで、SBvsBTN 3bpの集合分析から特徴的なボードを発見・確認しました。Aハイボードは何となくaggressor側に有利という印象があったので、A-9-8rが3bet-call側にこんなに有利なのは意外でした。
と、ここで一つの疑問が。
「コネクターを含む側vs含まない側になる他スポットで調べてもA-9-8rでのアクション頻度は同じようになるの?」
コネクターを含む側vs含まない側…と聞いて頭に浮かぶのはUTGvsBBのsrp*。
UTGの狭いopenレンジには低ランクのスーコネは少ない一方、BB側はオフスートコネクターや1gapperまで様々なハンドがレンジに含まれそうです。
それを踏まえると、UTGvsBB srpのA-9-8rでのUTGの戦略もcheck頻度が100%近くになるのでは?と思ってしまいますが、実際はどうでしょう?
次のチャプターで詳しく見ていきます。
2. [具体2] UTGvsBB srpとの比較
先ほどと同じ手順でUTG vs BBのsrpを分析します。
2-1. Preflopレンジの確認
まずは基本のPreflop。
それぞれが一方的に持っているハンドについて、OOPであるBBを赤、IPであるUTGを緑で色分けしています(aggressor/callerのポジションがSBvsBTN 3bpと逆になっていることに注意)。
BB
レンジがとても広い(456combos)。
AA~QQ, AKsなどの強いハンドは3betに回すため少ない。
ただしBBの3betレンジはポラー&狭いため、JJ~TTやAKoの一部、AQなど強ハンドが残る。
スーテッド系がかなり多く、コネクトの弱い2Xs, 3Xs, 4Xs以外はほとんどレンジに含まれている。
ローポケが多い。
AX, コネクターはオフスートも多い。
ブロードウェイのオフスートが多い。
UTG
レンジはやや狭い(262combos)。
ハイカードが多く、ローカードは極端に少ない。
スーコネやローポケなど投機的ハンドは少ない。
AXs, KXsは多いが、Q以下のスーテッドは極端に少ない。
AX, コネクターのオフスートは少ない。
ブロードウェイのオフスートが少ない。
こちらも特徴をまとめておきます。
2-2. A-9-8r / 3bpとの違い
以上を踏まえ、満を持してSolutionを見てみると…A-9-8rは先ほどと異なりcheck/bet比率が56% : 44%で、想定よりcheck頻度が少なくなっています。
続いてRangesを見てみます。
ここで、3bpとの明確な違いが見えてきます。
それは…
「 「 「 BBにゴミハンドが多すぎる 」 」 」
Nuts近辺の高EQ域(グラフ右上)は強さが拮抗しているものの、先ほどの3bp-callerのBTNはレンジが狭かったのに対してsrp-callerのBBはレンジが広すぎるせいでトラッシュハンドが増え、全体に占める強ハンドの割合が薄まっています。
この時のUTGは「レンジアドバンテージがある状態」と言えます。
UTGはレンジ全体の優位性からBBレンジの弱い部分に圧をかける意味でbetするインセンティブが生まれ、その結果check頻度が減ったと考えられます。
もしBB側のレンジがもう少し狭く、弱いハンドが少なかったら…
EQgraph左側のトラッシュ部分は削られ右側部分が引き延ばされて、先ほどの3bpのような拮抗したEQgraphとなり、UTGのcheck頻度はもっと高くなっていたでしょう。
アクション頻度を考える際は、Nutsアドバンテージだけでなく互いのレンジの広さも判断材料にする必要がありそう、ということがわかりました。
3. [抽象] Flop戦略の検討ポイント
今回は集合分析を起点に特徴的なスポットを3つ確認しましたが、たった3つでもたくさんの気づきを得ることができました。
Flop戦略を検討する上でのポイントをまとめます。
3-1. Nuts級ハンドは何か
Flopのアクションを判断する際、まずそのボードでのNuts級ハンドは何か、の確認が最初のポイントになりそうです。具体的には、ドライボードではセット・2ペア・オーバーペアが最上位に位置しますし、モノトーン/コネクテッドボードではストレートやフラッシュがセットよりも上位になります。
Flop時点で完成しうる役の強さは以下の通り。
Nuts級の役を作るためのハンドは以下の通り。
ポケットペア
セットの材料。ハイポケはaggressor、ローポケはcallerに多い。スーテッド
フラッシュの材料。AXsはaggressorに多い。コネクター
ストレートの材料。ミドルランク以下のコネクターはcallerに多い。
3-2. 強いドローハンドは何か
フラッシュドローやOESDなどの強ドローは、EQこそ30-40%程度ですが、ドロー完成後のバリューターゲットであるペア系のレンジをブロックしないことも好材料となり、価値の高いハンドとなります。
Flopではモノトーン/コネクテッドボードでなければフラッシュやストレートを作れませんが、2トーン/OESD possibleのボードでは強ドローにも注意する必要がありそうです。
強ドローを作りやすいハンドは以下の通り。
スーテッド
フラッシュの材料。AXsはaggressorに多い。コネクター
ストレートの材料。ミドルランク以下のコネクターはcallerに多い。
3-3. 互いのレンジの差分はどこか
上記の強ハンドを確認する際に重要なのは「どちらのレンジが一方的に多く含んでいるか」です。アドバンテージを生み出すのは両方に同じくらい含まれるハンドではなく、片方にのみ多く含まれるハンドなので、レンジの差分になるハンドがNuts級や強ドローを作るときにこそ戦略に影響を与えます。
6maxでaggressor/callerのレンジの差分になりやすいハンドを簡単にまとめておきます。
実際のプレーでも、Flopが開く前から相手と自分のレンジの差分はどこなのか?に注意します。
ハイポケット(AA~TT)
ローポケット(66~22)
AK, AQ
AXs(A9s~A2s)
AXo(A9o〜A2o)
KXs(K8s~K2s)
ブロードウェイオフスート(AQ~To, KQ~To, QJ~To)
スーテッドコネクター(T9s~32s)
スーテッド1gapper(J9s~42s)
オフスートコネクター(T9o~54o)
3-4. 互いのレンジの広さ
互いのレンジ内の強ハンドのコンボ数に差がなくても、レンジ自体のコンボ数に差がある場合、レンジが狭い方が間接的に強ハンドを多く持っている状態になります。
特に、一方のレンジが極端に広い側(ex. srpのBBcc)はトラッシュハンドを多く抱えることになるケースが多く、その場合はレンジの狭い側からbetする頻度が生まれます。
4. [応用] 実戦への転用
4-1. 丸暗記ではないGTOの使い方
ここまで分析すると、次のような思考が脳裏をめぐります。
「SB=自分vsBTNの3bpでFlopがA-9-8rのとき、これまでは高頻度でCB打ってたけど、明日からは鉄checkするぞ!」
…この思考は本当に正しいでしょうか?
今回分析したのは「Wizardが想定する通りのレンジ・アクションでプレイするプレイヤー同士の戦い」を前提とした戦略です。
アミューズに立ち寄り、店舗のリングにエントリー。1時間ほどプレイしていたところ、初対面のプレイヤーがBTNからopenし、自分はSBから3bet。
このときのBTNプレイヤーは、
Wizardに近いレンジでcallできている?
AAだけでなくAK, KK, QQなども4betせず潜っていない?
スーコネを適正頻度で守れずfoldしていない?
AXo, QJo, KToなど本来foldすべきハンドをcallしていない?
自分がWizard通りプレイしても、相手のレンジが少しズレれば最適戦略も簡単に変動します。
つまり、WizardやSolverの戦略を丸暗記しても実戦で上手くいくかは別問題で、実戦では相手のレンジやプレイの特徴を的確に捉えて戦略を再構築する必要があります。
奇妙なレンジのプレイヤーに自分のチップを全て奪われたあとで、Wizardを確認して「GTO的に正しいからOK」と満足していたら搾取されっぱなしです。
そうならないようにするためには「Wizardの戦略の丸暗記」を避け、
Wizardの戦略を抽象化・簡略化し、レンジの特徴と関連付ける
相手のプレイ履歴からレンジを想定し、戦略を微調整する
の2つを意識する必要がありそうです。
今回のケースだと、SBからの3betにBTNで適切にコネクターやミドル~ローポケットを守らず、ブロードウェイオフスートを広くcallしてしまうタイプのプレイヤーには、A-9-8rでも一定頻度でbetすることが正当化されるでしょう。
逆に、スーコネだけでなくスーテッド1gapper(97s, 86s...etc.)もcallするクセのあるプレイヤーであれば、A-9-8rだけでなくA-9-7rやA-8-6rのようなA以外の2枚が連続しないボードでもcheck頻度を上げた方がいいかもしれません。
こういった微調整ができるのは、「A-9-8rはBTNに有利なボード」という結果だけでなく、分析・考察によって「その要因がコネクターからきている」ことまで踏み込んで認識できているからです。
このように、Wizardの戦略を分析して得られたコアとなる考え方を自分なりに解釈し、それを個別の状況にアジャストしていく、というプロセスを踏むのが良さそうです。
4-2. 効率的な勉強の方針
6maxのFlopを全網羅しようとするとsrp/3bpに絞っても数万通りとなり、暗記はほぼ不可能です。
そこで、全スポットをざっくりカテゴライズし、ある程度似たスポットをまとめて押さえる形で勉強していこうと思います。
本記事では計3つのスポットを取り上げましたが、それだけでも色々考察できたので、100種類程度のスポットを確認すれば大概のFlopをカバーできそうな気がしています。
ポーカーの座学においては、「いかに多くのパターンを暗記できるか」ではなく「いかに少ない暗記量で多くのパターンをカバーできるか」にこそエッジが生まれると思っているので、それを目標に狭く深い考察にも力点を置いていきます。
表現が正しいかわかりませんが、壺の中にまずは岩を敷き詰め、その後に石→砂利→水の順で中身を埋めていくイメージです。
5. おわりに
長文にも関わらず最後まで読んでいただきありがとうございました。
GTO Wizardを使った具体的な勉強方法はあまり見たことがなかったので今回記事にしてみました。
孤独に座学しているのでこれが最適な勉強法かはよくわかりませんが、もっといい方法があればDMなどで教えてください🙇♂️
↓ ↓ ↓ 著者Twitter垢 ↓ ↓ ↓
この記事を読んでくれたということは、あなたも絶賛ポーカー勉強中ということだと思います。僕も引き続き勉強するので、お互い頑張りましょう🔥
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