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街道をゆく〜いざ台湾〜

「いつまでも紙粘土でつくったドラえもんを見せびらかしている」
女から漏れ出た愚痴の一節である。もう七年ほど前の話になるであろうが、これほど独特な愚痴を聞いたことはない。そんな記憶がふと蘇ったのは、暇を持て余し、ぼうっとテレビを眺めていたときのことである。

「哆啦A夢」と書く。「青狸」のような形容ではなく当て字である。いよいよ私は外国人になったらしい。

2022年5月26日の話である。桃園機場に降り立った。
防護服に身を包み私の名前が書かれている札を掲げている。彼が煩雑な手続きをすべて助けてくれた。この国は急速な緩和政策を打ち出している最中であるが、かつて世界の模範とまで称賛された国家運営の香りが色濃く残っている。

入国手続きが無事に終わり、隔離ホテルへと移動する。タクシーに乗車する前に、スタッフが柔らかい笑みを浮かべながら消毒液をまんべんなく浴びせかけてくる。明らかにやりすぎだと感じるが、そこに異を唱えるのは立ち居振る舞いとしては相応しくない。

運転手はスマートフォンをいじりながら器用に運転をしている。メーターの針は120を行ったり来たりしている。これほど快適な移動を日本で味わうことができるだろうか。車窓を慌ただしく堪能し、あっという間に到着を見た。

ホテルに入る前にできる限り周囲を見渡した。これからの7日間は私の視野が制限されるからである。どう過ごすにしても時間は絶対的なものであると自分に言い聞かせ、重い重いドアを開けたのである。


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