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【外苑前野球ジム】動作解析プランから紐解く投球動作~運動連鎖から考えるステップ脚膝関節~

本日のお客様は障害による影響から思うように投球ができなくなったというお悩みを受けました。

これまでのnoteで投球動作の運動連鎖の重要性に関して述べてきました。

ここで運動連鎖に関してもう一度考えてみましょう。

運動連鎖とは、
身体の中心部あるいは大きな仕事のできる下肢によって生み出された力、エネルギー、速度などがタイミングよく順次加算されて、あるいは伝達されて末端へ伝わり、末端のエネルギーや速度を大きくするという原則のことである。¹⁾

この運動連鎖が生じるには、
1.末端部の慣性(質量、慣性モーメント)は中心部よりも小さいこと
2.中心部は末端部よりも大きな力やエネルギーを発揮できること

が前提となります。

身体の構造上、下肢、体幹と比較して上肢の慣性は小さく、発揮できる力やエネルギーは大きくありません。

しかし、投球動作ではボールをリリースする上肢遠位端(投球側の手)の速度やエネルギーを大きくしなければボールに対して大きな速度やエネルギーを伝達できません。

そのため、投球動作では運動連鎖の原則のもと、大きな筋群がある身体の中心部や下肢で生み出されたエネルギーを関節を介して狙いとする部位(投球側の手)へ流すことが重要となります。

逆に言うと、下肢や体幹で大きなエネルギーを生み出すことができないと、上肢に伝えるエネルギー量が減少し、ボールに伝えることができるエネルギーは小さくなってしまいます。

お客様カルテ

カテゴリー:社会人
ボール:軟式
特筆事項:左膝前十字靭帯断裂 経験あり

Before


アセスメント前の投球動作

お客様から話を聞く中で気になった点は、左前十字靭帯断裂後のリハビリ不足です。
可動域の左右差は特に感じられませんでしたが、筋力の左右差が感じられました。

以前のnoteで述べていますが、左脚は並進運動にブレーキをかけ、回転運動の支点となる役割を果たします。

しかし、この選手は、術後の影響により左脚で身体を支えることが右脚と比較して明らかに劣っていました。
このような状態だと、高速な運動を行う投球動作で身体を支持することは困難になってしまいます。
下記のグラフは、左脚(ステップ脚)の膝外側の位置の変位を表しています。

上:左脚膝関節外側部X座標値の変位
下:左脚膝関節外側部Y座標値の変位

縦線の入っている地点がステップ脚が着地した時点で、青のマーカーがある時点がボールをリリースした時点です。
X座標の変位とは、前額面(捕手方向から見た面)での位置の変化を表し、ここで正の値は3塁側方向を示します。
Y座標の変位とは、矢状面(1,3塁側方向から見た面)での位置の変化を表し、ここで正の値は投球方向(捕手方向)を示します。

この結果からわかるように、この選手は、ステップ脚が着地してからボールリリースまでに膝関節が約7㎝外側(1塁側)に、約15㎝前方に変位しています。

このようにステップ脚の膝関節が動いている状態では、回転運動のエネルギーを体幹、上肢に適切に伝達することができません。

通常、ステップ脚が着地してからボールリリースにかけてステップ脚股関節は内転運動の方向に作用します。²⁾
しかし、膝関節が外側に動いてしまうということは、ステップ脚の股関節が外転運動していることになります。

ここでステップ脚が外転運動してしまう(膝関節が外側に変位してしまう)理由として考えられることは、

1.大腿の筋群が適切に発揮できておらず、骨盤の回転運動につられてしまう
2.股関節の可動域が狭く、骨盤の回転に伴い外側に動かざるを得ない


という2つの理由が考えられます。

この選手の場合、左脚大腿部の筋力が劣っているため、1の理由により変位してしまう可能性が考えられます。
しかし、股関節の可動域も不十分であったことから上記の理由2つとも作用した結果であると考えられます。

アセスメント内容

左脚大腿後部の使う感覚と左脚足底部の感覚に関して指導いたしました。
過去のnoteで述べたステップ脚の使い方には左脚の筋力が十分にあることが前提となります。

そこで今回はその前段階として、地面を足裏全体でとらえる感覚を養うために以下のようなトレーニングを実施しました。

・フロントランジ

フロントランジ

このフロントランジでは、足裏全体で地面をとらえ、地面を踏む感覚で上体を上へ持ち上げます。
両脚で身体を支えていることで、片足時より安定性が増すことから不良動作の誘発を防ぎやすくなります。

この時に気をつけることとして、knee-outしていないかということです。

この写真を見るとわかりやすいと思いますが、左は足関節の真上に膝関節があります。
しかし、右の写真では膝関節が足関節の外側にあります。

右のようにknee-outしていると、地面反力の方向が身体の外側にずれてしまうので、下肢から上肢への伝達が適切に行えません。

左の写真のようにknee-outせずまっすぐ上下降するように、足裏全体で地面を踏む感覚を養います。

この状態で感覚をつかんでから、片足、ステップ有、横向きからと段階的に投球動作に近づけていくと効果的になります。

After


アセスメント後の投球動作


上:左脚膝関節外側部X座標値の変位
下:左脚膝関節外側部Y座標値の変位

アセスメント後は、ステップ脚が着地してからボールリリースまでに膝関節が約6㎝外側(1塁側)に、約2㎝前方の変位となりました。

外側変位 : 約7㎝ → 約6㎝
前方変位 : 約15㎝ → 約2㎝

アセスメントの前後で外側変位はあまり変わりませんでしたが、前方変位は大きく改善されました。
これにより並進運動へのブロッキング力は増加し、回転運動への移行で伝達のロスが減っていると思われます。

外側変位の変化は、股関節の可動域、左脚の筋力の問題もあるので即時的な効果は得られませんでしたが、これらの要因が改善するにつれ投球動作にも影響を与えると考えられます。

みなさんも、自分の身体、動作の弱点をみつけて改善してみてください!

参考文献

1.阿江通良,藤井範久, スポーツバイオメカニクス20講, 朝倉書店
2.島田一志, 阿江通良, & 藤井範久. (2000). 野球のピッチング動作における体幹および下肢の役割に関するバイオメカニクス的研究. バイオメカニクス研究= Japanese journal of biomechanics in sports & exercise: 日本バイオメカニクス学会機関誌/「バイオメカニクス研究」 編集事務局 編, 4(1), 47-60.

このような動作解析を受けてみたいという方はぜひ上記よりお申し込みください!お問い合わせもお気軽にご連絡ください!


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