ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 65ページ

~~~~~~~~~~~~~~

「風の音、風の匂いを感じるの

じゃ」

背は低いが、がっしりとした

体型の老人が、目を閉じて弓を

構える優に、言い聞かせるよう

につぶやく。

短く角刈りにした髪と、豊かな

口髭は真っ白だが、どこか若々

しさも感じられる。

そのがたいと、半袖の白いシ

ャツに茶色のズボンとブーツと

いう服装は、木こりのイメージ

そのものだ。

″ヒュンッ!″

優が放った矢は、的に当らず、

遠くへと消えていった。

「あぁ~ん、もう!なんで当た

らないのー!?」

優が、頬を膨らませる。

「わっはっはー!そんな簡単に

的に当てられるなら、誰でもみ

んな、わしと同じ狩人[ハンタ

ー]になっとるわい」

「むぅ」

老人の言葉に、さらにむくれ

た優だったが、レオと凱がこち

らに歩いてくるのをみつけ、顔

を輝かせた。

「レオさんに凱さんまで、どう

したのー?」


レオから話を聞いた優もまた、

興奮をおさえきれずにいた。

いまではもう、目を開いてさ

えいれば、的をはずすことはな

い。

そこまで成長した弓の腕前を、

試したくてウズウズしていたの

だ。

それに、目を閉じて射つよう

に言われてからは、的に全く当

てられず、ストレスを感じてい

たのもあったから、嬉しくて仕

方なかった。

「じゃ、ルドラじいちゃん!そ

ういうことだから、またあとで

ねぇー!」

「師匠と呼べ!師匠と!わっは

っはー!」

優の呼び方が照れくさかった

のか、老人は訂正した後で、豪

快な笑い声をあげた。

~~~~~~~~~~~~~~

葵は、ここ一ヵ月、イライラ

しどおしだった。

この男には、すべてを見透か

されているようで、気味が悪い。

初めて会った時も、いきなり

ロッドの事を言われた。

「あのロッドは、器にすぎませ

んから、いまではもう、ただの

ガラクタです、持ってこなくて

正解でしたね、それから・・・

隠す必要はないと思いますよ?」

葵は、心臓が止まるかと思っ

た。

あれからロッドの事には触れ

てこないが、いつもニコニコと

笑顔を絶やさない、その表情か

らは、何も読み取る事はできな

い。

葵は、この男が嫌いで仕方な

かった。

男のくせに膝あたりまで伸ば

している、やたら綺麗なオレン

ジ色の髪も気にいらないし、草

色のロングローブから微かに見

える、女のように細い指先も気

にいらなかった。

それに加え、額に赤い塗料で

描かれた、目を意匠化したよう

な紋様も気持ちが悪くて仕方な

かったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?