ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 187ページ

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「ふぅ~」

神楽は、ゆっくりと息を吐き

出した。

もう何十回目になるだろう、

その度に緊張と安堵を繰り返し、

精神が疲弊していくのがわかる。

頭の中に靄[もや]がかかり、

すべてがどうでもよく思えてき

そうな自分を、必死で押さえ込む。

こんな時、従姉ならどうしただ

ろうか。

神楽は、今までも、辛い時、

悲しい時は、自分を従姉に置き

かえて考え、乗り越えてきた。

憧れの女性であり、なにより、

彼女よりも強い生物をみたこと

がなかったからだ。

ふと、従姉が夜の道場で、目

をつぶり、半身に剣を構える姿

を思い出す。

手には、何も持っていなかった。

幼い自分は、不用意に近づこ

うとし、剣を突き付けられた気

がして腰を抜かしたんだった。

「沙織か、剣が見えたようだな、

なかなかやるじゃないか」

従姉に肩を叩かれると、不思

議と抜けていた腰が元に戻った

のを憶えている。

「いいか、沙織、誰の心にも剣

はある、剣を構えることは、守

ることでもあるんだ、攻撃は最

大の防御とも言うしな、知って

いれば、無闇に振り回して自分

を傷つけることもない、忘れる

な」

それから従姉は、教えたがら

ない父に代わり、剣を教えてく

れた。

神楽にとって、従姉こそが剣

の師であり、人生の師匠なのだ。

神楽は、毎回後退りしてしま

う夜道で、半身に剣を構えてみ

た。

もちろん、手に持っているの

は、視認できない心の剣だ。

神経を集中させ、恐怖から身

を守るための剣を研ぎあげてい

く。

(・・・!震えが・・・止まっ

た・・・ありがとう従姉さん)

普段は無表情な従姉が、時折

自分に向けてくれる愛らしい笑

顔が浮かび、さらに力をもらっ

た気がした。

(そうだ、私は、みんなを守る

んだ!こんなとこで立ち止まっ

てるわけにはいかない!)

神楽は、半身のまま、一歩、

また一歩と夜道を進んでいく。

そこには、一人の少女がいた。

こちらに背を向けて泣いてい

る。

年の頃は、9歳ぐらいだろう

か、おかっぱ頭に、白いシャツ、

お気に入りのピンクのスカート・・

・後ろ姿でもわかる、隣の家に

住む、二階堂早苗[にかいどう

さなえ]だ。

早苗は、神楽や従姉の吹雪を、

さおり、ふぶきと呼び捨てにし、

言動も生意気ざかりの女の子で

あったが、なにかと後ろをつい

て回り、一人っこの神楽にとっ

ては妹のような存在だった。


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