ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 170ページ

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″ドンッ!″

「いったい、いつまで我らを閉

じ込めておくつもりだ!」

机をたたく音と、怒りのこもっ

た女性の声が、部屋いっぱいに

響きわたった。

女性にしては低めの声だが、

それがかえって威圧感を増して

いる。

美人だが、どこか肉食獣を思

わせる鋭い眼光と、口からのぞ

く二本の牙が、彼女が獣人であ

ることを示していた。

顔には白と赤の染料で、炎の

ような模様が描かれている。

金属の輪っかが張り巡らされ

たような防具を身につけている

が、露出部が多く、それが彼女

の、野性的な印象を強めていた。

彼女の怒りは、目の前にいる

黒犬の獣人に向けられている。

「まあまあ、落ち着きなさいセ

クメト殿、ホルス殿の行方が知

れぬ今、不用意に動くべきでは

ないと、アヌビス殿は、お考え

なのではないかな?」

初老なのだろう、白髪混じり

の長いあごひげを持つ、猿に見

える獣人がなだめに入る。

「ヴァーリン殿は、黙っていてい

ただきたい!私は、アヌビス殿に

問うているのだ!」

しかし、彼女の勢いは止まら

ない。

ここは、自由国クルンの中心、

獣人の長たちが話し合いをする

ために設けられた専用の部屋だ。

今、ここには、怒りをぶつけ続

ける、東の草原、爪[クロー]を

治める戦士ギルドの長[マスタ

ー]で、獅子の獣人[レプリカン

ト]のセクメト、そのセクメト

に詰め寄られている、中央の谷、

心臓[ハート]を治める魔術師ギ

ルドの長[マスター]で、黒犬の獣

人[レプリカント]のアヌビス、

二人の間に入り、なんとか丸く

おさめようとしている、南の山

岳地帯、脳[ブレイン]を治める

ハトホル教団の長[マスター]で、

猿の獣人[レプリカント]のヴァ

ーリン、そして、その表情から

は何を考えてるか読み取れない

が、無言で微笑んでいる、北の

砂地、足[フット]を治める商人

ギルドの長[マスター]で、象の

獣人[レプリカント]のガネーシ

ャと、クルンの五大長のうち四

人が集まっていた。

西の羽毛地帯、翼[フィン]を

治める盗賊ギルドの長[マスタ

ー]で、鳥の獣人[レプリカント]

であるホルスは、側近のカラカ

ス共々、だいぶ前から行方知れ

ずのため、出席していない。

「ホルスたちが姿を消してから、

どれだけ経つと思っている!外

では、また人間どもが我がもの

顔で争っているそうではないか!

いまこそ人間どもに思い知らせ

てやる絶好の機会だというのに」

「やつらの尖兵が紛れ込んだよ

うなのだ」

セクメトの言葉にかぶせるか

のように、アヌビスが発した言葉

に、ガネーシャの笑みも消えた。

「そんな馬鹿な!タルタロスの

檻が、すでに破られていて、そな

たの眼をかいくぐり、この世界

に現出したというのか!?・・

・にわかには信じられんわい」

ヴァーリンが細い目を見開く。


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