ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 188ページ

「早苗、どうしたのです?」

早苗が泣くのは珍しい。

負けず嫌いの早苗が、こんな

風に泣いているのは、初めて見

た気がする。

神楽が早苗の肩に手を置こう

とした瞬間、早苗が振り向いた。

と同時に、早苗の口から何かが

吐き出され、神楽の頬をかすめ

る。

危なかった・・・反射的に避

けていなければ、顔を貫かれて

いたかもしれない。

「さ、早苗?」

頬に生暖かい血の感触を感じ

ながら、目の前の少女の姿に困

惑する。

その少女は、早苗に間違いな

い・・・はずだ。

しかし、少女は白目をむいて

おり、口からは、髪の束のよう

なものが垂れていた。

先端に、鋭い鉤爪のようなも

のを生やした手がぶらさかって

いて、血がついていることから、

神楽の頬を切り裂いたものだと

いうのがわかる。

(・・・)

神楽は、パニック状態であっ

た。

ここは、エリュオンではなく、

神楽が元々いた世界、平和とは

言えなくても、エリュオンのよ

うな、妖魔や化け物とは無縁の

世界・・・だったはずだ。

いや、エリュオンに飛ばされ

る前に、獣人やら悪魔やらの噂

は耳にしたが、それよりも10年

ぐらい前の出来事だったと思う。

そんな神楽の脳裏に、フラッ

シュバックのように記憶が次々

と蘇っていく。

「!」

そうだ、これは、紛れもなく

現実に起こった出来事。

あの時は、従姉の吹雪が現れ

て、神楽に襲い掛かる鉤爪を竹

刀で弾いてくれたのだ。

そして・・・。

″ズキッ!″

鈍い頭痛が神楽を襲う。

″ヒュン!″

再び襲い掛かる鉤爪を、神楽

は、横に転がるようにしてかわ

しながら、もう一度少女に目を

向けた。

(そして・・・どうなった?・

・・思い出せない)

そもそも、現実では現れたは

ずの吹雪が現れない。

(どういうこと?)

そんなことを考えているうち

に、少女の耳からも、髪の束が

顔を出し始めていた。

まずは、この状況を何とかし

なければならないようだ。

思い出すのは、それからでい

い。

神楽は、まずは、髪の束を斬

ろうと剣を・・・そうだ、今は

剣は持っていな・・・持ってい

る!

いつの間にか、神楽の腰には、

一振りの剣が差されていた。

(これなら戦える!)

剣を抜いた神楽の脳裏に、再

び記憶の断片が浮かんでいく。

それは、従姉の戦う姿だった。

それをなぞるように動くと、

鉤爪の攻撃をかわし、弾くこと

ができた・・・だが、体がつい

ていかず、かわしきれない攻撃

に、神楽の体に無数の傷が刻ま

れていく。

(強い!)

エリュオンで、いくつもの修

羅場をくぐり抜けた神楽であっ

たが、この頃の従姉にさえ、ま

だまだ遠く及ばないようだ。

このまま、従姉の真似をして

いても、殺されるだけだろう。

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