ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 71ページ

すでに化け物の射程範囲だろ

う。

完全に逃げる機会を失ってし

まったようだ。

~~~~~~~~~~~~~~

「はぁ、はぁ、はぁ」

(なんでこんな事に?)

辛く苦しかったが、一ヵ月間

順調に修業し、晴れて盗賊とな

り、すべてがうまくいっていた

はずだ。

なのに加賀は今、岩の影に息

をきらしながら逃げ込み、身を

隠している。

″カツンッ!カツンッ!カツン

ッ!″

岩肌に、靴音がゆっくりと響きわたる。

「逃げても無駄です、でてきな

さい」

黒い犬の頭をした獣人[レプ

リカント]が静かに呼びけてく

る。

白と黒の、祭衣と呼ばれる、

ゆったりとした豪華なローブに

身を包み、左手には、上部を三

日月に意匠化したロッド、右

手には白と黒の皿をのせた天秤

を持っている。

彼は、クルンの中央にある

深き谷、心臓[ハート]を治める、

アヌビス。

魔術師ギルドの長[マスター]

であり、盗賊ギルドの長[マス

ター]ホルスに、絶対に出会って

はいけないと言われていた人

物の一人でもある。

アヌビスが持つ天秤は、裁定

の天秤[はかり]という魔法の品

で、問いかけられると、心臓が

天秤にかけられ、嘘をついた瞬

間に消滅、つまり、死を与えられ

る恐るべきものだという。

嘘をつかなければいいと、単純

に考えていたところ、ホルスの

側近であり、加賀に修業をつけ

てくれているカラカスに、自分

の事をすべて理解しているか?

と問われて、何も返せない自分

がいた。

盗賊になれた事で浮かれてし

まい、油断していた。

まさか、知った顔の獣人[レプ

リカント]に崖から突き落とさ

れるとは・・・。

日頃の修業を真面目にしてい

たおかげで、一命はとりとめた

が、重傷を負ってしまった。

ホルスから、同盟締結の祝い

にと、アイテムを魔法空間にし

まえる魔法の小袋と、かなりの

怪我もたちどころに治してしま

う、ハマヲの霊薬というのをも

らっていたおかげで回復できた。

どちらも、買うとかなりの高値ら

しい。

なんとか上に戻れる道を探し

ていたら、祭壇のような所に迷

いこみ、アヌビスと出会ってし

まったのだ。

「逃げても無駄だと言ったでし

ょう?」

声は加賀の後ろから聞こえる。

「!!」

岩を背にしていたはずだ。

しかし、振り返ってみると、

岩は影すらなく、ひらけた空間

にアヌビスが立っているだけだ

った。

そして、その手に持つ天秤の

皿には、心臓らしきものがのせ

られていて、鼓動を刻んでいる。

(くそ!こんなとこで死ぬのか

!?)

すでに、体は何かに縛られた

ように身動きがとれない。

加賀は、迫りくる死に恐怖す

ることしかできなかった。

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