ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 230ページ


封樹の笛・・・ダークエルフに

代々受け継がれてきた至宝の

一つで、魔王樹の根を削って

作り出された、その笛の音色は、

魔王樹の力を封じると言われ

ている。

先ほど受けた傷が治らないところを

みると、その効力は疑いようがない。

爪が伸びなくなったのも、その

ためだろう。

「こしゃくなっ!迷宮弾[ラビ

リンスバレット] !」

マカラトが放った魔力の塊が、

ムアガを囲むように開いた無数の

次元の穴から、一斉に飛び出す。

「くっ!・・・むぐっ!」

驚くべき身体能力で、その全てを

寸でのところでかわしたムアガ

であったが、治りきっていない

傷口が開き、思わず膝をつく。

(やはり、まだ早かったか!)

天馬騎士団の奇襲により、

大きな深手を負ったムアガは、

里までもたないと判断し、

闇の森に生息する、人喰い樹

[マンイーター]に、その身を預け

たのだ。

人喰い樹は、餌である生物の傷を、

完全に治してから喰らう習性が

あり、それを利用したのだが、

その時に、眠らされてしまうため、

魔法耐性の高い、ダークエルフ

ならではの荒業であった。

しかし、いくら耐性があるとはいえ、

大怪我を負った状態で眠気に抗い

続けるのは、並大抵のことではない。

眠ってしまうギリギリで脱出した為、

やはり、まだ傷が、かろうじて

ふさがった程度だったようだ。

”ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダダッ!

と、その時、謁見の間に、

一人の男が駆け込んできた。

「レーラ!?」

男は、気を失っているレーラ姫に

気づくと、駆け寄り、上半身を起こす。

"タッタッタッ!タタッ!"

「!!」

そこに、その後ろから現れた

女性が、レーラ姫に駆け寄ると、

回復魔法を唱え始めた。

「神楽、レーラを頼んだぞ!」

男は、レーラ姫を、そっと床に

寝かしつけると、マカラトへと

視線を移す。

その瞳には、遠くからでもわかる

ぐらいの、怒りの炎が宿っていた。

おそらく、彼らが噂に伝え聞く、

異世界より召喚されたという

人間の勇者たちなのだろう。

(あとは頼んだぞ、人間の勇者

たちよ・・・)

ムアガは、全ての意識を、自身の

傷の回復に集中させ、目を閉じた。


"タッタッタッ!タタッ!"

「レオさん!神楽ちゃん!レーラは!?」

二人に少し遅れて、優が謁見の間に

たどり着くと同時に、レオの叫びが

響きわたった。

「てめえかぁーーー!!」

レオが、玉座付近に立っている男に

飛び掛かって行く。

その近くに倒れている黒髪の男は、

アグリア王子だろう。

レーラがやったのだろうか?

しかし、レーラは倒れ、神楽が

回復魔法をかけている。

もう一人、右の壁際に、ダーク

エルフらしき男がうずくまって

いるが、動く気配はない。

この場合、何が起きたかは、

推測するしかない、それより、

これから何をすべきかが重要なのだ。

優は、瞬時に状況を把握し、

自分の役割を導きだすと、

目を閉じ、弓に矢をつがえる。

(目でみるんじゃなく、感じるんだ!)

師匠である、ルドラの教えを

心の中で繰り返し、神経を研ぎ

澄ませていく。


(・・・六勇者とかいう、ひよっこ

どもか)

マカラトに焦りはなかった。

初めて会った時からは、多少

成長はしているようだが、

魔王樹の力が封じられたとはいえ、

束になってかかってこられても、

問題ないぐらいの力の差を感じて

いたからだ。

ただ一つ警戒するべき事がある

としたら、いま向かってきて

いる男が、先の戦いで見せた、

強大な炎獣の力だが、使えた

としても、制御できるとは思え

なかった。

いくら強い力でも、当たらなければ

意味はない。

「狼形態《ウルフフォーム》!」 

男が、狼の獣人に変身しながら

向かってくる。

「ふん、次元の穴《アビスフォール》」

マカラトは、魔法の穴を床に

創り出した。

しかし、男は、それを見越して

いたかのように、床に出現した

穴を、軽々と跳び越える。

「ソレハ、モウクラワネェ!」

「ふっ、少しは戦いというものを

経験したようだな」

マカラトは、余裕の笑みを

崩さない。

「次元の扉《アビスゲート》」

空間に開いた穴へと自ら入り、

レオの攻撃を回避する。

完全に攻撃をすかされたレオは、

マカラトの姿をさがし、辺りを

見渡した。

すると、レーラを回復する

神楽の後ろの空間に、穴が開く。

「カグラ!」

(ダメだ!間に合わねぇ!)

"ヒュンッ!ズッ!"

レオが、そう感じた刹那、

穴から姿を現したマカラトの背に、

何かが突き刺さる。

「ぐあ!?」

空間の揺らぎを、いち早く

察知した優が、矢を放っていたのだ。

優が放った矢は、神楽に攻撃

しようとしていたマカラトの背中に、

深く突き刺さっていた。

(あいつ、やるじゃねぇか)

レオが感心する。

"ヒュッ!ズバッ!"

「くっ!?むぐふっ!」

"ドッ!"

さらに、神楽の斬撃がマカラトの

身体をかすめ、マカラトは、

思わず膝をつく。

殺気を感じ、咄嗟にかわそうと

したが、間に合わなかったのだ。

「バ、バカな!回復魔法を唱え

ながら攻撃だと!?」

攻撃と回復は、いわば相反する

行為であるため、熟練の聖騎士

ですら、同時に行うのは、

至難の技であった。

「・・・どうやら、貴様たちを

ナメすぎていたようだ」

「ひゃぁ!」

マカラトに、怒りの視線を向けられ、

優が、慌てて柱の陰に身を隠す。

魔王樹の力が封じられた今、

傷の回復は望めない。

「いいだろう、ここからは、

全力で貴様らを葬り去ってくれる!」

マカラトが吼える。

マカラトの雰囲気は一変し、

膨れ上がる魔力が見える

かのようだ。

「クッ!クソッ!」

レオは、すくむ足に力を込め直し、

なんとか走り出した。

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