ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 73ページ

「まさか!フィエルとは個体名じ

ゃなく、種族名かなにかか!?」

それなら、伝えられている魔

王より、角が一本多い事も、初

対面のような口振りにも納得が

いく。

「あら?そんなことも知らなか

ったんですの?うふふっ」

凱の推測への返答は、意外に

も後ろから聞こえてきた。

いつのまにか、黒いドレスを

着た女性の姿が消えている。

『!!』

全員が急いで振り返るが、最

後尾にいる葵の後ろにも、その

姿は見えない。

「フィエルとは、わたくしたち

の世界、あなたたち人間が、魔

界だとか呼んでいる、バノイの

表層に棲む邪鬼たちの高位種の

ことですわ」

再び後ろから聞こえた声に、

全員が振り返ると、女性は、消

える前にいた位置に、何ら変わ

ることなく立っていた。

いや、手にもっている空のグ

ラスが、なにやら赤黒い液体に

満たされている。

″ドッ!ドサッ!″

急に、葵が腹をおさえて倒れ

こむ。

「葵ちゃん!?」

優が、あわててよびかけるが、

葵は、気を失ってるようで反応が

ない。

地面には、赤黒い染みが、か

なりの速さで広がっていく。

「300年前に、こちらへ来たおば

かさんは、魔王だなんて調子に

のってたみたいですけれど」

「ぐくっ!」

気にもとめずに女性は話を続

け、フィエルが怒りを堪える表

情をみせた。

「私が!聖なる癒し[セントキュ

ア]!」

神楽が、葵に向けて癒しの魔

法を唱える。

先程もそうだが、神楽は、み

んなが知らない内に、僧侶[プリ

ースト]としても祝福を受け、

聖魔法まで使えるようになって

いたようだ。

(頼もしいな)

″ビシュッ!″

凱がそう思った瞬間、葵に向

けてかざした神楽の手の皮膚が

裂け、血が滴りおちる。

「くっ!?」

葵は、まったく回復していな

い。

「うふふ、本当に可愛いこたち

ですわ、呪い[カース]も見抜け

ないなんて」

女性は笑いながら、グラスの

中の液体に口をつける。

「呪いだと!?まずい!急いで

ハマヲの霊薬を飲ませるんだ!」

グエンが、あわてた様子で指

示をだす。

「あぁ、さすが六勇者というだ

けあって、力強い味ですわ、こ

の魔のアクセントも、たまらな

くってよ?他のこたちは、どん

な味かしら?」

女性は、恍惚[こうこつ]の表

情を浮かべたあと、獲物を狙う

ような、愛するものを抱き締め

たいというような、複雑な笑み

を浮かべる。

遠目のせいで、今まで気付か

なかったが、女性の瞳は、燃え

ているかように赤い。

優が葵に、魔法の小袋から取

り出した、ハマヲの霊薬を飲ま

せ、なんとか傷はふさがったよ

うだが、葵は、まだ苦しそうだ。

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