ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 189ページ

神楽は、一か八か、魔法を唱

えてみた。

これなら、早苗を救えるかも

しれない。

「聖炎[セントフレイム]!」

邪悪な者を焼き尽くす、聖な

る力を宿した炎。

見事、魔法は発動し、白い炎

が髪の束を燃やしていく。

「ぐぎゃぁぁぁー!」

おぞましい断末魔の叫びを残

し、髪の束は跡形もなく燃え尽

きた。

軽い火傷を負ってはいるもの

の、元の姿に戻った早苗が倒れ

ている。

抱き抱えようと手を伸ばした

瞬間、早苗の体が弾けて消えた。

「さおり、ありがと」

神楽の耳に微かに聞こえる早

苗の声。

気がつくと、目の前には、二

人のエルフが立っていた。

「よくやった」

「おめでとうございます」

そう言う二人の姿は、ぼやけ

ている。

神楽の目から、とめどなく涙

が溢れだしていたからだ。

ああ、そうだ、全てを思い出

した。

実際は、早苗を助けるどころ

か、自分は腰を抜かしていただ

けだ。

髪の束は増殖し、早苗の体を

すっぽり包みこんで、従姉を苦

しめた。

追い詰められた従姉が、何か

に目覚めたかのように、どうい

う仕掛けか、竹刀で斬り刻み、

殴り、ひきちぎって、早苗もろ

とも、髪の化け物を細切れにし

てしまったのは、仕方のないこ

とだったのだろう。

後に残ったのは、早苗だった

であろう、無数の肉片と、その

返り血を全身に浴びた従姉の姿

だった。 

それを最後に気を失った自分

は、今までその記憶を失ってい

た・・・いや、封じ込めていた

だけなのかもしれない。

三年ぐらい従姉が消息不明に

なったのは、おそらく、この事

件のすぐ後のことだったのだろ

う。

帰ってきてからも、あまり道

場に顔をださなくなり、自分に

も、めったに会おうとしなかっ

たのは、記憶が蘇らないように

気を使っていたに違いない。

元の世界に戻ったら、早苗の

墓参りに行こう、そして従姉に

も会いたい。

神楽は、涙を拭い立ち上がっ

た。

「無理するな、今は休め」

ネイが気遣う様子で魔法をか

けようとするが、神楽は、それ

を手で断ると、笑う膝を抑えな

がら、ゆっくりと仲間の元へと

歩きだす。

「・・・あのこ、強くなります

ね」

「ああ」

ビスタの言葉に、ネイが微笑

みながら、静かに同意した。

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