割れた墨はくっつければ大丈夫!
この記事は2019年にブログに掲載したものを加筆・再録したものです。
品質の高い墨は決して割れることはない、というのは迷信のようです。以前、ある和墨メーカーのサイトで「粗悪品でなければ墨は割れない」という内容を読んだことがあります。
私もずっとそうだと思っていたのですが、その後さまざまな本やサイトを見ていくうちに、「それでも墨は割れることがる」というのが実際のところだと考えるようになりました。
また実際に、知人の割れた墨を見たことがありますし、ご覧のように私が購入した墨も割れていました。
1.割れた墨の修復方法
割れてしまった墨をくっつけるには、私の知る限り3種類の方法があります。ちなみに割れた墨だけでなく、小さくなった墨同士をくっつけて、無駄なく使うこともできます。
a.市販の墨用接着剤を使う
「スミノセイ」という商品があります。手軽で便利で実用性があります。以前使用してそのすごさに驚きました。
b.墨用の膠を接着剤として使う
おそらくこの方法が墨の補修には最良だと思われます。墨は煤と膠と香料からできていますので、その膠を使うのが最も自然です。そもそも膠は接着剤ですから。
c.濃いめにすった墨を接着剤として使用する
墨用の膠を一般人が入手するのは困難ですよね。なので、墨を使ってしまいます。墨に含まれる膠が接着剤となり、膠で修復するのと同じような効果が得られるわけです。
2.実際に割れた墨をくっつけてみよう
先日購入した古めの唐墨が、割れた状態でした。比較的キレイに割れているので、この程度ならくっつけてしまえばいいと考えて購入したのです。写真がその唐墨で、曹素功の「鉄斎翁書画宝墨」です。おそらく1970年代後半に製造されたものと思います。
割れた断面は破片と合わせるとぴったりと適合しました。なのでまず、接着剤となる墨をすります。使用する墨は、くっつける墨と同じ種類の墨を使用するのが一番良いのです。
墨は古くなると膠の加水分解が進み、膠が弱くなひます。なので、数年前に買って、普段使いしている「鉄斎翁書画宝墨」を接着剤用の墨として使うことにしました。
墨量はほんの少しで良いのですから、硯面に少しだけ水を垂らし、できるだけ濃く墨をすります。ドロドロする感じまで極めて濃くすります。そして、その濃墨をさらにしばらく放置して、水分が蒸発するのを待って濃縮させます。
小筆を使って割れの断面両側に塗ってゆきます。断面両側に塗った後、さらに少しだけ乾燥させてから、慎重にズレのないように断面を合わせます。ぴったり合っているのを確認したら、1〜2分手でしっかりと押さえておきます。場合によっては、塗った墨が隙間からはみ出す場合もありますので、後ほどうまく拭き取ってください。
1〜2分でもうくっついてしまいますので、そのあと輪ゴムで固定します。
この状態で、丸1日も乾燥させればビクともしなくなります。ちなみに乾燥するときは、墨に風が直接かからないように、和紙をふんわりかけておくと良いでしょう。
3.墨の保管方法
墨は湿気が大敵です。また気温の変化もよくありません。一年中、温度と湿度の変化が少ないところが保管に適しています。最もその条件に合うのは土蔵だと言われます。美術品、あるいはお宝の一つとして墨を保存するには土蔵が一番良いのでしょう。
ですが、実用品として墨を所有する場合は、土蔵にしまうというわけにいきません。そもそも私のような一般人は土蔵なんかありません(笑)。
とにかく、湿気が大敵で気温の変化も少ない方が良いですので、私は引き出しに入れてしまっています。
これまでの経験や参考にした本やサイトの情報から、墨の保管に良い方法を以下に書いてみたいと思います。
a.ビニールは捨ててしまって和紙で巻く
最近は箱の中にビニール袋に入れられた状態で墨が売られています。転売目的なら、買った状態のまま取っておけば良いでしょうが、自分で使用するものでしたら買ってすぐにビニールから出して、和紙で包み直して箱に入れると良いと思います。墨の多くは紙の箱か桐の箱に入っています。桐箱は湿度を一定に保ちます。紙の箱でも墨自体の保護のために箱に入れた状態で保存するのが良いでしょう。
ちなみに私は、新品の墨を購入したら、箱の片隅に購入年月を書き留めておくようにしています。
b.引き出しにしまっておく
前述した通り、できるだけ温度・湿度の変化の少ないところということで、引き出しにしまうことをお勧めします。机の引き出しでもタンスの引き出しでもいいでしょう。
引き出しに墨用のスペースがとれない場合は、箱に入れておくのも良いと思います。その場合、最も良いのは桐箱です。桐箱に入った高級お菓子などをいただく機会があったら、ぜひ箱を取っておいてください。
c.大前提、使った墨は水気をしっかり拭いておく
墨をすったあと、水分をしっかりと書き捨て半紙などで拭き取ってください。水気が残ったまま、箱に入れたり引き出しに入れてしまっては、せっかくの保管場所が意味をなしません。すり終わったら、しっかりと水気を拭き取り、しばらくの間墨床においておいて、しっかりと乾燥させてから和紙で包んで購入した時の箱に戻し、引き出しなり桐箱なりに入れて保管するようにします。