「ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニク」の呪文

呪文でわかる人は通ー

このタイトルで「野菜非常に多め、スープのタレ多め、背脂少なめ、ニンニク多め」というのが一発でわかる人はジロリアンさんですね。商品のスペックを並べて注文する人はマニア、その世界のことに精通している人というのはジャンルを問わないでしょう。

これは、一昔前(40-50年ぐらい?)は自家用車の世界でも近いことがありました。ファミリーセダンに「Twincam24」なんてエンブレムが貼られていたのですが、意味わかりますか?ツインカム、つまりエンジンのカムシャフト(給排気のタイミングを制御する棒)が吸気専用・排気専用にそれぞれ一本づつ用意されている、という意味で、24は24時間走っても壊れない、ということではなく、24 Valve、つまり内燃機の吸気・排気で合計24本のバルブ(空気の開け締めをする蓋)がついている、という意味なんです。そのエンブレムが車のフロントライトの間(フロントグリルといいますが)に燦々と輝いていました。自動車は当時、機械工学的な知識がないと買えなかったんでしょうか。あまりそういう記憶はないですが。

不動産探しは昔と今が逆?

不動産だと、これはたとえば、ワイドバルコニー、2面採光、ディスポーザー、グルニエとかの設備特記項目や、築年数8年、駅徒歩12分とか、そうしたことにあたるでしょうか。不動産の場合、むしろネット検索がなかった昔はそうした細かいことを考えることはなく、街の不動産店に行って「二人目できちゃったんで、ちょっと駅遠くてもいいからいい感じの部屋探してくれないかな」なんて相談してたんでしょうが、逆に今はネット検索でセルフサービスだから、「西葛西駅徒歩5分、築年数10年以内、2SLDK、中古マンション、角部屋、上層階、南向き、二重床、オートロック、管理人常駐、アイランドキッチン、、、」と自分でチェックボックスに入れていく感じになっています。これって「野菜非常に多め、スープのタレ多め、背脂少なめ、ニンニク多め」みたいです。

不動産物件をブランド・マネジメントに置き換えると?

ブランディングの世界では、これらのスペックのことを「事実特徴(Attributes)」と呼びます。この事実特徴からもたらされる直接的な便益(良さ)を「機能価値(Functional Value)」と呼んだりします。また、そうした事実特徴からもたらされるよい気分や気持ちを「心理価値(Emotional Value)」と呼んで区別します。たとえば、アイランドキッチン=事実特徴、「アイランドキッチンだからダイニングと調理の行き来がしやすい」=機能価値、「アイランドキッチンのある部屋は先進的でオシャレ」=心理価値、こんな感じです。

この「価値」の部分は(当然ですが)人によって感じ方がまちまちで、つかみどころのない部分ですが、逆にお金を出している理由はこの「価値」にあります。だから、その「価値」をきちんと定義して、管理・運用するというのがブランディングの考えなわけです。ところが不動産だとここに厄介な問題が立ちふさがる。公取というやつです。

公取と不動産広告のジレンマ

不動産では、歴史的に過大広告(盛りすぎ)が問題とされてきました。「絶景のオーシャンビュー!」と謳っていたのに、双眼鏡でもほとんど汽水の入り口しかみえない部屋とか、「高級感あふれるエントランス」が時代遅れのシャンデリア付きのしょっぱいロビーだったりとか、そういうことが長く問題となり、広告が厳しい取り締まりの対象となってきたという背景があります。

価値というのは主観的な要素が色濃いので、価値を訴求する人によってはこうした「やりすぎ」が横行するリスクがあります。不動産の業界ではその行き過ぎがおおかったのか、厳しい業界規制がかかっています。すると、よほど知恵がない限り結局は「事実特徴」のリストアップということになってしまう。で、不動産物件の「ヤサイマシマシカラメマシ」です。

でも、不動産は普通、そんなに毎年買い替えたりするマニアは少なく、一生にあっても2−3回の買い物です。賃貸だって、2年更新おきに引っ越す人は一部でしょう。だから、本来は「ヤサイマシマシカラメマシ」なリクエストを強要する現在の検索ポータルエンジンはマニアックすぎてやはりおかしい、そう思います。

ちなみに、不動産検索では立地、駅徒歩、間取り、価格(家賃)以外の項目(設備・特記項目)を「こだわり項目」と呼ぶことがあります。選択はできるけど、マニア向けだからね、という意味かと思いますが、これもまた極端な気がします。

静かに安眠したい、便利に機動的に暮らしたい、安心して子育てしたい、生活の欲求に素直に応える、そういう、元来町の不動産屋さんが聞いてくれていた当たり前の仕事を、デジタルでもできるようにすればよいのに。そういうことを思います。

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