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【短編】トリスの方舟 エピソード③


〈一回戦 第ニ試合 紀土VSパイタン〉

広場の真ん中には白線で書いた土俵みたいな円があり、その円の中に二人は入る。
カーン!ゴングが鳴る。
「ふっ、俺の火柱を喰らいやがれ!」そういうと紀土はいきなり口から火を吹いた。
「ケッカイ!」パイタンが両手を挙げると紀土が吐いた火はパイタンの1メートル手前でピタリと止まった。透明なバリアがあるようだ。
「次は俺の番だな」そういうとパイタンも口から火を吹いた。プシューと炭酸マシンのような音がする。
ガスバーナーのような強烈な炎だ。
「うわっ」紀土はかろうじて炎を避けたが、髪の毛はチリヂリに焦げ、独特の匂いが立ちこめる。
紀土は命の危険を感じ、堪らずに「参りました」と言った。
「勝者、パイタン!」マスターがパイタンの手を挙げた。
「くっそー、まるでゼットンだ。麻雀大会なら絶対に負けないのになぁ」
どうやらゼットンが『最強』の代名詞のようだ。去り行くパイタンの背中を、紀土は呆然と見つめていた。

〈一回戦 第三試合 渡VSあやめ〉

早くも優勝候補同士の対戦である。
腸之内あやめは準備運動だろうか、一人でインドのダンスのような踊りを踊っている。
カーン!
ゴングが鳴ると、あやめは無言で四つん這いになり、徐ろにパンツを下ろした。
お尻を渡に向けている。綺麗な菊の花のような肛門だ。
会場は騒めいている。
例のブラウンの塊りが渡に当たると、八日後には確実に死に至る。
それでも渡は冷静だ。ボイズを使い、静かに呟いた。
「さあ、パンツを履くんだ。そして『参りました』と言いなさい」
あやめは素直にパンツを履くと、立ち上がり「参りました」と言う。
「勝者、渡!」マスターが渡の右手を挙げた。
負けたあやめは、無表情に空を見上げて呟いた。
「もうすぐ海でぷかぷかと、浮かぶことができる季節がやって来るわ」
こうして、優勝候補同士の対戦はあっけなく幕を閉じた。

〈一回戦 第四試合 雪見VSトリス〉

森永雪見と栗栖川トリスの登場だ。
美人の二人の登場に、会場は歓声で凄い賑わいである。
奇しくも二人とも、白のブラウスに淡いピンクのスカートを履いている。
トリスが黒髪で端正な顔立ちの美人系に対して、雪見は茶髪で笑顔が似合う可愛い系と云ったところか。
カーンとゴングが鳴る。
「ハジメさんの分まで私が頑張るわ」そう云うと雪見は、徐ろにブラウスのボタンを外し出した。

◇◇10◇◇

森永雪見はブラウスのボタンをゆっくりと上から順番に外し出す。
ボタンを全部外したところで、次にブラジャーを外す。フロントホックだ。
見事な形をした二つの大きな乳房が現れる。
会場は響めいた。
おっさん連中は競うように、最前列に移動してくる。
色白で木目の細かな乳房の真ん中に、まるでスカートとコーディネートしているかのような淡いピンクの乳輪がハッキリと見える。
雪見はトリスに向かって両手で乳房を揉む。
ピューッ!ピューッ!と母乳が飛んだ。
母乳はトリスの左腕をかすめた。
ブラウスがカッターで切ったように裂け、一瞬の間をおき、腕から血が滲み出る。
「このままではいけない! とにかく三分間耐えなければ......」そういうと、トリスは広場内を逃げ回る。
雪見は胸を出したまま、トリスを追いかける。
走る足から伝わる振動に共鳴するかのように、乳房が揺れる。そうかと思えば、不意に足から伝わる振動に反発するかのように、乳房がダダンッと揺れる時がある。
筆者はこの瞬間が堪らなく好きだ。
妄想機関車をレールに戻そう。
雪見は追いかけながらトリスを狙うが、母乳はなかなか当たらない。
「よし! 三分経ったわ」そう云うと、トリスは口を閉じたまま鼻を摘み、息を吐き、目からピーっと音を出した。
その刹那、トリスは雪見の背後に立っていた。時空を超えて移動したことで、完全に元の場所には戻れない。これがパラレルワールドだ。
雪見はまだブラウスの第二ボタンを外すところだった。
トリスは雪見の背中に軽くタッチした。
「勝者、トリス!」と言った後、
「ちっ」と、マスターがトリスの右手を挙げた。
ゴングが鳴ってすぐの出来事に、会場の男性陣たちはつまらなそうに元の席に戻っていく。
雪見の胸を人前に曝け出すことなく試合が終わり、ほっと胸を撫で下ろしたのは、姫野一であった。

〈準決勝 第一試合 六助VSパイタン〉

カーンとゴングが鳴る。
「とにかく身体にタッチさえすれば、僕の勝ちだ」そう云うと六助は、果敢にパイタンに向かって突進する。
「ケッカイ!」パイタンは両手を挙げる。
ビリビリビリー!
六助の出した手は結界のバリアで止まり、その電流は己に流れた。
六助はバタリと倒れる。
パイタンは倒れた六助の背中にそっと手を置いた。
「勝者、パイタン!」マスターがパイタンの手を挙げた。
余りにもあっけない幕切れだった。それにしても、馬をも倒す強電流だ。果たして六助は大丈夫なのか。
六助は白眼のまま呟いた。
「草陰に 野糞漂う 紙ひとつ」
うん、大丈夫そうだ。

◇◇11◇◇

「渡さん、情けは無用よ。真剣勝負でいきましょうね」とトリスが言うと、
「ああ、分かってるよ」と渡が微笑む。

〈準決勝 第二試合 渡VSトリス〉

トリスと渡は見つめ合う。
二人は無言のまま全く動かない。
不意に渡が囁いた。
「さあ、僕の背中にタッチするんだ」
トリスは渡の背中にそっと手を置いた。
これが愛か、愛なのか!
「勝者!トリス!」マスターがトリスの手を挙げた。
しーん......
会場は、いったい何を見せられているのかと、静まり返った。

〈決勝戦 パイタンVSトリス〉

いよいよ決勝戦だ。
渡「トリスさん、頑張れー!」
ハジメ「トリスさん、頑張ってー!」
六助「終電を 見送るように ネオン街」
カーンとゴングが鳴る。
ボーッ! いきなりパイタンが口から火を吹く。
「痛っ!」火柱がトリスに当たり、トリスの左腕が吹っ飛んだ。
ボーッ! パイタンは容赦なく、続けて火を吹いた。
トリスは広場内を逃げ惑う。
ボーッ!
「痛ッ!」今度はトリスの右足が吹っ飛んだ!腕と足から大量の血が吹き出している。
ボーッ!
トリスは片足ケンケンで逃げ回る。
ボーッ!
「はぁ、はぁ」バタリとトリスが倒れた。
「ふっ、とどめだ!」パイタンが火を吹く。
ボーッ!
「よし! 三分経ったわ」トリスは右手で鼻を摘み、目からピーっと音を出した。
その刹那、トリスはパイタンの背後に立っていた。三分過去に移動したことで、吹っ飛んだはずの左腕と右足は元に戻っている。
さあ、皆さんご一緒に。
これがパラレルワールドだ!
トリスがパイタンの背中にタッチした。
「今日は負けておいてやるが、オレに会いたければいつでもカリスカトロの塔に来い」
パイタンはそう云うと、背中から手羽先のような羽根を生やし、飛び立った。
「えっ?空も飛べるの? パイタンは、三匹の魔物が棲むと云うカリスカトロの塔にいるのね」
トリスは、みるみるうちに小さくなっていくパイタンの姿を見上げていた。
マスターが近づいてきた。
トリスは腕を挙げてもらおうと、左腕をマスターの前に突き出す。
マスターはトリスの腕は取らずに、トリスの背中にタッチした。
「勝者、オレ!」マスターは嬉しそうに笑いながら、親指で自分の顔を指差した。優勝したのはマスターだった。
「えーっ、そんなぁ」トリスは今にも泣き出しそうだ。
会場は座布団が飛び交い、生卵が投げ入れられる。観客は愚痴りながらゾロゾロと帰っていく。
観覧席の我須首相は既に居なかった。
会場には一回戦からずっと沈黙しながら、一人で観戦している男がいた。
ビットコイン発案者のサトシ ナカモトだ。
サトシが初めて口を開いた。

「素敵やん!」

(ぱひゅん)


えっ!ホントに😲 ありがとうございます!🤗