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母の散髪

母が生前施設にいた頃のお話しです。
施設内にもサロンがあり、元気にされている方は予約をし定期的に美容師さんが来られカットしてもらわれてましたが、母は寝たきりと言うこともありいつも自己申告して、介護士さんに定期的にカットしてもらっていました。自己申告と言っても話すことが出来ないので『襟足が暑い』という振りと表情での申告です。
いつも『散髪してもらったん?』と聞くと嬉しそうにしていました。

散髪が得意な介護士さんがいらっして、ご厚意でしていただいていたのが、その介護士さんが別の施設に異動されしまい母の髪が伸びっぱなしになり始めました。

梅雨を迎え『襟足が暑い❗』と私に何度も言うようになりました。介護士さんも人手不足もありなかなかカットしてもらうことが難しいようで、そこで『良かったらカットしてあげてください。』と勧めてもらい私がカットすることとなりました。


まず、お風呂に入る日と私の休みの日とを合わせ土曜日に決行。ケープは貸してもらい、その他の道具は持ち込み。注文していたカットバサミが間に合わず、とりあえず100均で間に合わせたのが大間違い。ハサミに髪が引っ掛かり何度も母が『痛っ、痛っ』と肩をあげ大笑い。(ごめんね)

以外と難しくて時間がかかってしまいましたが、どうにか出来上がり鏡を手渡すと嬉しそうに首を左右に振り出来映えを確認する母、そして『ありがとう』と拝み手をしてくれました。いつもそお~面会に行ってもいつも『ありがとう』と『ごめんね』を拝み手を私に向けてくれてました。

顔や襟足をタオルで拭き、後はお風呂の順番を待つのみ。私は足下に落ちた母の髪を掃除しながらひとつまみの髪を母の見えない所でそっと紙に包み鞄に仕舞いました。


そして、その12日後、突然母は亡くなりました。


散髪の機会を与えてもらった事と、春には車椅子に乗せてもらい2人で散歩しながら桜を見に行くように計らってもらった事、後から感謝するばかりでした。母と触れ合う時間を作ってくださりありがとうございました。

今では大切な思い出のひとつです。