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ガチ産業医考察:職域の抗原検査の運用

本記事は、「職域の抗原検査について」の続編記事です。ようやく抗原検査の一般販売解禁なるようなので、その世界線になることに全振りして無料公開します。まだ一般販売にはなっていませんのでご注意ください。

9/28追記
新型コロナウイルス感染症流行下における薬局での医療用抗原検査キットの取扱いについて
「新型コロナウイルス感染症流行下における薬局での医療用抗原検査キット
の取扱いについて」を踏まえた、新型コロナウイルス感染症に係る行政検査
の取扱いについて

元記事の再掲ですが、新型コロナウイルス感染症対策分科会9月3日発表資料において、“ワクチン・検査パッケージ”の活用について言及されています。このことからも、抗原検査の活用が進んでいくものと思われます。

9/13追記
コロナ検査キット薬局で 政府、販売を解禁へ
医療用として承認された精度の高いキットを購入できるようにするため、厚生労働省で販売形態や使用の目的などの検討を進める。

9/16追記

抗原簡易キットについて(文部科学省)
幼稚園における抗原簡易キットの活用の手引き
小学校及び中学校等における抗原簡易キットの活用の手引き 
児童生徒が使用する際の留意事項

「医療機関・高齢者施設等への抗原簡易キットの配布事業について」の改訂
(研修資料関係)について

高齢者施設における新型コロナウイルス感染者発生時等の検査体制について(厚生労働省)
令和3年度 新型コロナウイルス感染症流行下における介護サービス事業所等のサービス提供体制確保事業Q&A集

9/20追記
第1回 医療・介護ワーキング・グループ 議事次第
新型コロナウイルス抗原検査キットの薬局等における販売について(厚生労働省)
・抗原定性検査拡充に向けた薬局等での販売の要望
 その1 その2(日本経済団体連合会)
・「新型コロナウイルス抗原定性検査キットの薬局等における販売」について(ボット ダイアグノスティクスメディカル株式会社

抗原検査の運用は大きな可能性を秘めていると考えますので、その現場での具体的な運用方法のイメージを書いていきます。使用するキットは@職場:事業所・職場で検査(旧:体外診断用医薬品)と@自宅:自宅で検査(旧:研究用)で分けて説明しています。

中核業務(止められない事業・部門・ライン) / @自宅

今まさに教育機関でクラスターが多発していますが、教育活動のような止められない事業活動・社会活動こそ、抗原検査の良い適応でしょう。企業においては、経営層や中核業務(特に出社しなければならない部門)が適応になると思います。一度止まることによる損失は計り知れません。頻度やタイミングとしては、週に1回に加えて、従業員やその家族に症状があるとき、家族の分も配布するなどして、抗原検査を頻回に行ってもよいのではないかと思われます。

例えば、経営層であれば、他の経営層や政治家などとの会食、名刺交換会、政治パーティといったリスクが高いことをしなければならない時期が来るでしょう(もちろんワクチン接種済+基本的な対策を徹底することは前提です)。このような際にも抗原検査は活用できると思われます。事業活動として多少リスクをとらざるをえないときこそ、抗原検査に活用の余地があると思います。

有症状者 /@職場

そもそも症状がある人は出社・登校するべきではない、という前提があります。しかし、軽微な症状や、花粉症などのアレルギーや胃腸炎などの他の疾患との区別がつかないことは多々あります。そのため、出社・登校後に若干怪しい症状がある人・出てきた人が健康管理室や保健室などで検査を受ける、ということはありえるでしょう。ただ、やはり企業においては、若干現実的ではないように思います。有症状者が自発的に健康管理室に来室して検査を受けるということは想定しにくいように思われます。もちろんその運用は可能であるですが、あまりに効率が悪いので、ほとんど意味をなさないのではないかと思います。良い適応としては教育機関の保健室か、病院・介護現場のベッドサイドになるように思われます。

有症状者 /@自宅

風邪症状がある場合に、出社・登校前に自宅で検査して陰性なら出社可・登校可とするルールは非常に現実的でしょう(元記事で言う"test and stay")。むしろ、これが最も抗原検査の一番機能を発揮する場面なのではないかと思います。

イベント参加者 /@自宅

コンサートやライブ、スポーツなどのイベント参加者に対して、参加当日に自宅で抗原検査を用いてもらい、陰性者のみ参加できるというルールも、対策の一環としては有用だと思います。“ワクチン・検査パッケージ”として、ワクチン接種済みであること、基本的な対策の徹底に加えての補助的な位置付けとして行うということになると思います。(参照:忽那先生の記事ではスペインのライブコンサートの事例)

経済産業省からは「令和3年度「イベント参加者等に対する PCR 検査等を実施したイベントの開催様式に関する実証事業」(経済産業省事業)に係る公募要領」R3年6月25日付が出され、PCR検査・抗原検査などを行うことでイベントの開催していくことを支援しているようです。報告書が待たれるところです。

旅行者/@自宅

飛行機などで搭乗する方に対しても、“ワクチン・検査パッケージ”として、ワクチン接種済みであることに加えて、移動当日に自宅で抗原検査を用いてもらい、陰性者のみ搭乗できるというルールも、有用だと思います。すでにPCR検査で行っているやり方ではありますが、今後人の往来が増えてくると、PCR検査では対応が追いつかない可能性があることや、検査結果までのタイムラグ、コスト高い、感度が高すぎることなどから、簡便さやコスト面から抗原検査の方が選ばれる可能性はあると思います。特にタイムラグとコスト面が大きいように思います。なお、CDCからは、以下の通り、渡航者には、3日以内の検査陰性(PCR or 抗原検査)を示すルールが示されています。当日の抗原検査がよいと思います。

Requirement for Proof of Negative COVID-19 Test or Recovery from COVID-19 for All Air Passengers Arriving in the United States
Updated July 6, 2021

海外旅行を予定されている方は、米国に渡航する3日前までにウイルス検査を受け、搭乗前に航空会社に陰性結果を提示するか、回復したことを示す書類(最近のウイルス検査で陽性であったことを証明するものと、医療機関または公衆衛生当局から渡航を許可されたことを示す手紙)を用意する必要があります。
If you plan to travel internationally, you will need to get a viral test no more than 3 days before you travel by air into the United States (US) and show your negative result to the airline before you board your flight, or be prepared to show documentation of recovery (proof of a recent positive viral test and a letter from your healthcare provider or a public health official stating that you were cleared to travel).

接触者(感染者との接触が疑われる者)/@職場・自宅

接触者(濃厚曝露〜わずかな曝露)に対する検査も非常に良い適応だと思います。特に、接触者が大多数に及んだ場合や、接触者が出社せざるをえない場合です。元記事にも示していますが、接触者としても曝露の程度はさまざまです。また、保健所の対応が遅れることや、保健所が濃厚接触者と認定しない方からの発症もありえます。そのため、企業が独自に曝露に応じて、抗原検査を用いてモニタリングすることは有用だと思います。例えば、出社したらまず健康管理室に寄って検査を受けて陰性を確認してから職場に行ってもらうというやり方も可能です(@職場)。もちろん自宅で検査してもらうやり方の方がセーフティです(@自宅)。最終接触日から、潜伏期間14日間(もしくは発症の多い10日間*デルタ株の知見ではない)は、数日おきに検査をしてもらうことで、発症者の早期発見が可能になるでしょう。デルタ株は潜伏期間が平均3日間なので、感染判明時と、最終接触から3日までは検査を行うという対応でもよいかもしれません(人数・コスト次第)。

接触者に対する抗原検査を行うことによって隔離期間が減るという論文も示されていますので、ご参照ください。Quilty BJ, Clifford S, Hellewell J, et al. Quarantine and testing strategies in contact tracing for SARS-CoV-2: a modelling study. Lancet Public Health. 2021;6(3):e175-e183.

*Testing Strategy for Coronavirus (COVID-19) in High-Density Critical Infrastructure Workplaces after a COVID-19 Case Is Identifiedでは、tier1-3に分けて対応することを示しています。このtierに応じて抗原検査の実施を決めることは現実的だと思います。
tier1:感染者と接触した従業員
tier2:陽性者と同じエリアで、同じシフトまたは
   オーバーラップしたシフトで働いている従業員
tier3:共通のスペース(例:トイレ、休憩室)を共有していた
         感染者との接触を明確に否定できない従業員

Science Brief: Options to Reduce Quarantine for Contacts of Persons with SARS-CoV-2 Infection Using Symptom Monitoring and Diagnostic Testing
診断検査のリソースが十分かつ利用可能な場合(下記の項目3を参照)、診断用検体が陰性であり、毎日のモニタリングで症状が報告されなかった場合、検疫は7日目以降に終了することができる。この方法では、検疫後の感染リスクの残存率は約5%、上限は約12%と推定されます。
When diagnostic testing resources are sufficient and available (see bullet 3, below), then quarantine can end after Day 7 if a diagnostic specimen tests negative and if no symptoms were reported during daily monitoring.
With this strategy, the residual post-quarantine transmission risk is estimated to be about 5% with an upper limit of about 12%.

感染リスク高い業務従事者/@自宅

元記事の再掲ですが、感染リスクが高い業務や事業への影響が大きい業種においても、抗原検査を行う意義が大きくなるでしょう(ガチ産業医考察:職域接種についてより再掲)。業務に従事する前後での抗原検査(例:帰国時)や、定期的な(高頻度の)抗原検査の実施もありえると思います。

感染リスクが高い業務:
医療、介護、海外渡航や感染流行地への移動を伴う業務、3密環境の業務(例:造船)
マスクができないことなどによって感染リスクが高い業務:
演劇、芸能、報道、音楽、接待関連の飲食業
顧客から感染予防が要求されやすい業務:
教育、行政、政治、旅行(特に航空)、一部の外資系企業との業務、スポーツ、対面接客業

医療・介護業務従事者/ @職場・自宅

特に、医療・介護業務については、感染拡大が、患者や利用者に広がることで生命に関わる場合もありますので、週に1度の検査を行うことも合理的な判断だと思われます。この場合は対象を従業員全員というやり方すらありえると思います。日本のワクチン接種が3月から始まったことを考えると、そろそろ医療者のワクチンの効果が減少してくる可能性も否めません(4-8ヶ月ほど?)。かと言って、全員3回目を打つということも当面は難しいでしょう。また、このような議論は従業員のモラル(不安全行動をどれだけとっているか)によっても必要性は変わるかもしれません。基本的な対策の徹底やワクチン接種だけでは、防げない感染も抗原検査という防護壁を加えることで、さらに強固な感染対策になりうるものと思われます。自宅で実施することが望ましいとは思うものの、医療・介護現場の場合は職場での検査も用いやすいと思います。

従業員全体/@自宅

無症状者に対する使用、無症状者に対するスクリーニング検査目的の使用、陰性確認等目的の使用は、適切な検出性能を発揮できず、適さない(厚生労働省の抗原検査の活用に関するガイドラインより)とはされていますが、無症状の従業員全体に対してスクリーニングとして抗原検査を行うことも十分にありえると考えています。特に、中小企業の場合には、感染者が出ることで、事業活動が一定期間ストップしてしまうことや、レピュテーションの問題から事業に多大な損害が出てしまうことが考えられます。従業員全員が中核業務と言えますし、感染者が出ると全滅という運命共同体とも言えるかもしれません。だからこそ、事業継続のために定期的に従業員全体(もしくは過半数)に対して抗原検査を行うことで、少しでも事業活動停止のリスクを下げるということはあり得ると思うのです。


ここからは、抗原検査の運用について思うところをつらつらをかきます。

職場での抗原検査の難しさ

病院機関が介護施設、教育機関では、職場での抗原検査の運用は比較的容易でしょう。それは、事業所が単体であり運用ルールを統一しやすいですし、コロナ禍でも止められない事業であるため(被害が致命的になりやすい)、抗原検査を行うことが従業員からも許容されやすいことが理由です。一方で、多くの企業は複数〜多数の事業所に分散していますので、検体採取の管理する指導者や実施場所などの運用ルールが複雑化してしまいます。部門ごとに事業活動への影響度合いも様々でしょうし、抗原検査を行うことの許容性も変わってくるでしょう。企業がある程度大きすぎる場合・散らばっている場合は、職場で抗原検査を行うという運用は厳しいと思っています。

研究用の場合の確定診断について

イベント参加者、飛行機搭乗者においては、抗原検査を自宅で受けてもらい、陽性なら来ないでね、ということで済みますが、企業の運用の場合では、陽性時にどうしたらよいか、ということまで決めておく必要があるでしょう。確定診断を得る方法としては、①医療機関を受診させる*、②医療機関と連携しPCR検査キットを配布し自宅で検体採取して医療機関に送付させる、③行政などが行っているPCR検査センターを受けさせる**、という選択がありえるでしょう。①の方が無難と言えばそうかもしれませんが、感染の封じ込めという意味では、②の方がよいかもしれません。陽性発覚から、急速に病態が悪化する可能性もありますので、確定診断+保健所連絡が速やかに実施されることが必要です。また、自宅療養できるサポートについても抗原検査の運用に盛り込む必要があるかもしれません。

*神奈川県が行った配布事業では、「抗原検査陽性の場合はただちに医療機関を受診してください。」となっています。
**仙台市が行っているPCR検査センターは、検査対象は「症状のない方に限ります。」となっているため、抗原検査陽性者が受けるのは難しいと思われます。

安心は大きい

医学的なことから離れますが、抗原検査の効用として、「安心」はとても大きいと思います。無症状であっても、自分がいつ誰にうつすか分からない、逆にいつ誰からもらったか分からないという状況は非常に神経をすり減らしてしまうでしょう。お互い疑念だらけでは、まとまな集団生活は送れません。ただでさえ従業員同士でそれぞれの衛生観念による分断が発生しているのです(マスクをするしない、手洗いをするしないなど)。少しでも集団のわだかまりを解いていくということは非常に大切なのではないかと思うのです。

まずは、集団全体(の多く)がワクチンを接種することでも、その集団で生活する際の安心はとても大きくなるでしょう。そして、さらにその集団において怪しい人(症状がちょっとある人)やリスクが高い人などが抗原検査によって陰性が確認されている、という状況は、さらに安心を高めるものと思われます。もちろん安心→不安全行動を惹起しないように丁寧に説明していくことも重要です。

ある種の免罪符やレピュテーションマネジメントとして

もちろん抗原検査は陰性証明にはなりません。しかし、そうは言っても、どこかで線引きをして、社会活動を認めていかなければいけないというフェーズにも入っているようにも思います。その中で、抗原検査に免罪符的な意味合いはとても大きいように思います(=「ワクチン+検査パッケージ」)。これは、飲食店にしてもそうですが、感染対策を徹底して行っている店は営業を許可することと同じです(いわゆる「山梨モデル」)。対策として、ここまでやっているから許可する、ワクチンを打ち抗原検査が陰性だから行動(登校・出社・渡航など)を許可するというスキームによって、社会を動かしていくことが、これから特に大事になってくるのだと思います。

ゼロリスクから離れよう

コロナについてゼロリスクを求めてしまうと、当然抗原検査は不適切な検査ということになってしまいます。感染を防ぎきることはほぼ不可能であり、感染者を絶対に出さないというゼロリスクではなく、多少コロナが出ても事業活動を行うことも許容しなければならないでしょう(withコロナ的な考え方)。しかし、そもそも無症状でも感染力を持つコロナはゼロリスクはありえません。大事なことは感染症による重症化・死亡者リスクを少しでも抑え、クラスター感染を極力出さないことだと言えます(ここでもゼロを求めすぎない)。労災ゼロのように、ゼロリスクで議論を進めてしまうと、抗原検査も運用を検討する際に意見が噛み合わなくなってしまいます。産業保健職自身も、企業担当者と話すときには気をつける必要があると思います。

コロナだけではない

コロナを抑え込むという話だけで言えば、人流・接触を止めて、PCR検査を使って感染をとにかく減らす、ということが求められるのかもしれません。しかし、コロナ以外の病気もありますし、経済を回さないことによっても健康を害する人が多くいます。経済や教育といった国の基盤が崩壊し、国力が低下することも長期的に悪影響を及ぼすでしょう。いかんせん、このパンデミックは、長期化しておりまだまだ終わりが見えない戦いです。回せるところから、回していくということも大事な考え方だと思います。

将来的に期待すること

①一刻も早く柔軟な精度の高い抗原検査の運用を
本来は完全に制約がなくなればいいのですが、なかなか難しいとも思うのですが、現状の制約は、出社しなければ検査を使えないというものなので、自宅でも検査を使えるという状況にして欲しいです。
以下は2021年9月6日付の経団連の提言です。

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Withコロナにおける社会経済活動の活性化に向けた提言- 重症化率等を抑えながら社会経済活動の再開へ - (一般社団法人 日本経済団体連合会)より

薬局での販売解禁になりそう!?
9/13追記
コロナ検査キット薬局で 政府、販売を解禁へ
医療用として承認された精度の高いキットを購入できるようにするため、厚生労働省で販売形態や使用の目的などの検討を進める。

②大量に抗原検査キットが手に入りやすくなること
精度の高いものが大量に入手可能になって欲しい、ですね。
精度についてはこちらを参照
抗原検査キットを比較した論文(資料1, 2 )

③抗原検査キットの値段が安くなること
100円程度になるといいのですがね・・・せめて500円以下・・・

④接触確認アプリの復活
本来はちゃんと機能すれば、活用可能性高いんですけどね・・・

謝辞

※本記事は、辻先生の講義から多くの知見を得させていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。なお、あくまで文責は筆者にあります。

辻先生のツイートもとても参考になりますので、フォローをおススメいたします。以下のツイートは2020年8月と1年以上前のものです。この頃から抗原検査は海外で研究が進んでおり、実際に社会実装されてきています。

Michael Mina氏のツイートも大変参考になります。

9/15追記
産業医有志グループから「職場における積極的な検査の促進について」という記事が出ていますので、ご参照ください。社内検査実施体制構築に向けて検討すべきことも参考になります。

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