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産業保健オンラインコミュニティ(通称:COEDOH)について

はじめに

2020年8月より、産業保健職が繋がり学び合う場として「産業保健オンラインコミュニティ」始動しました。そこからおよそ1年半ほど経ち、改めてどのようなコミュニティであり、どのように歩めているかをご説明します。なお、参加は以下のリンクからになります。(月1000円の有料コミュニティ)

コンセプトと通称

コンセプトは「ともに学び、ともに教え合い、ともに議論する」です。そのような想いを込めて、通称としてCOEDOHCo- Education Discussion Online-community for Occupational Health professionalsとしています。

産業保健オンラインコミュニティの通称

提供しているコンテンツ

毎月1~3回のオンラインセミナーを開催しています。基本的には火曜日か土曜日の20〜22時で、前半20〜21時がセミナー、後半21〜22時は質疑応答や、参加メンバー同士のディスカッションの時間となっています(延長戦が0時まで続くことも・・・)。前半部分は録画し、後日コミュニティ限定でオンデマンドで視聴可能です。参加は任意ですので、都合のつくセッションに参加するという方式です。2022年2月までに42回のオンラインセミナーを開催しています。メンバーのご家庭の事情などもありますので、夜の開催を基本としています(むしろそのような事情がある方も学びやすいというのがコミュニティのコンセプトの一つです)。
 オンラインセミナーの案内などの情報共有は、非公開のFacebookグループとSlack、CAMPFIREのメールを活用しています。slack上では日々の産業保健活動についての相談・質問することも可能で、経験豊かなアドバイザーから回答が得られます。また、求人情報やセミナー情報なども共有されています。2022年2月からは、「産業保健おしゃべり会」を開催します。こちらは、特にトークテーマを決めずにちょっとした愚痴や相談、お悩み、雑談などをするような場としていきたいと思っています。おしゃべり会は、元々はのり先生がボランティアで1年間開催していたものを、仕組みから引き継がせていただいたものです。

参加メンバー

参加していただいているのは、ざっと言えば、産業医2割程度、産業保健職6割、心理職1割、その他1割といった感じです。特に職種は参加条件につけていません。学生さんにも参加して下さっています。月1,000円と有料化しているため、比較的学ぶ意識の高い方にご参加いただいていると思います。オンライン上でディスカッションする際にも、心理的にも安全性が高く、建設的な意見交換ができています。これは本当にありがたい限りです。なお、TwitterとFacebookくらいでしか広報・告知をしていませんので、そういったところにアンテナを張っている方しか参加していないことも、良い方ばかり集まっていることの理由の一つだと思います。

COEDOHが提供したい場

自分自身の経験や、他の産業保健職の話を聞いた結果として、私が考える産業保健職に必要な場は、以下の4つです。COEDOHはこのような場を提供していきたいと考えております。

①学べる場
②アウトプットする場
③将来を考える場
④繋がる場

ガチ産業医的「産業保健職に必要な4つの場」

①学べる場

いわずもがなですが、学べる場は極めて貴重です。 COEDOHでは、産業保健に必要な知識を学べるような場としていきたいと考えており、レベルの高い講師陣をお呼びしています(特にこれは地方に住む方にとっては貴重だと思います)。

②アウトプットする場

聞いてるだけの座学では、学びは不十分になりがちです。何が分かっているのか、何が分かっていないのか、感想や質問などをアウトプットしてみて、自分の言葉で話してみて、初めて分かることも多いと言えます。また、産業保健活動はジレンマと苦悩の連続です。うまくいかないことだらけです。そのため、それらを吐き出す場も必要だと思います。そして、質問できる相手がいない方も非常に多いので、質問できる場というのも貴重です。いわゆる壁打ちやブレストのようなものも含め、広い意味でアウトプットする場というのが産業保健職の成長やセルフケアにとって非常に大切だと思うのです。下図は有名なラーニング・ピラミッドです。受動的なだけでは、十分な学びは得られません。COEDOHがより大きな学びが得られる場になるためには、単にインプットする情報量を多くするだけではダメだと思っており、メンバーの積極的な参加が作られていく仕掛けをしていく必要があると思っています。特にポイントとなるアウトプットは「他者に教えること」と「質問すること」、「議論すること」だと思います。ぜひCOEDOHでアウトプットしてみませんか(前述の通り、COEDOHのコンセプトは、「学び合い」と「教え合い」です)。

ラーニング・ピラミッド

③将来を考える場

産業保健職にとって自身のキャリアアップを考えている人は多いと思いますが、具体的に描けているような方は多くないでしょう。企業側にキャリアラダーがないこと、そもそもキャリア情報は手に入りにくいこと、その相場感がないということ、身近に参考にするキャリアモデルがいないことが原因だと思います。なお、産業医に絞って言えば、設立40年ほどの産業医科大学の初期の卒業生がここ数年で定年を迎えており、ようやく少しずつ、産業医の職業生活の後半のキャリアが示されつつあるという状況です(例:一つの企業で働き抜く、独立開業、大学、行政、臨床に転向など)。しかし、これも時代とともに変わっていくでしょう。産業保健は歴史がまさ浅いからこそ、常に先人たちのキャリアを参考にしながら、自分のキャリアを考えていく必要があると言えるでしょう。
 また、専門医・専門家制度、資格取得、修士・博士課程の大学院進学、海外留学などのスキルアップを目指している方も多いと思います。しかし、こうしたことを考えるきっかけやチャンス、お誘いも、そういった情報に触れるからこそです。最近ではTwitterでもこうした情報が出てきていますが、実際のスキルアップの経験を聞く機会というのも専門職にとっては必要だと考えています。

④繋がる場

産業保健職にとって人的ネットワークは資産です。なぜなら、指導・相談・情報交換することができるからです。産業保健職はえてして孤独ですので、同じ専門職同士で繋がることができる場は非常に重要だと言えます。


COEDOHの感想

Twitterで「#COEDOH」で検索していただくと、おおまかに参加者の感想というものが垣間見えます。COEDOHによって産業保健活動をもっと楽しく取り組むことや、産業保健職として成長していただけていれば嬉しいです。引き続きよろしくお願いいたします。

今後のCOEDOH

現在、250名ほどにご参加いただいておりますが、あまり人数拡大を考えているわけではありません。それよりも、現在参加いただいている方が、より積極的に参加し、より大きな学びが得られるような場、教え合うことができる場にしたいと考えております。特に、コロナ禍が収束していき、オンラインセミナーが減ってくると、リアルの研修会の存在感が増してくると思います。そのようなときでも、オンラインで産業保健職が学ぶ場として、COEDOHの存在価値はあり続けると思っています。むしろ、オンラインで繋がって、リアルで繋がる、ということの方が増えていくのではないかと思います。学会や研修会も知り合いがいないと、受けるだけ受けてサッと帰るという方も多いと思いますが、オンラインで知り合った方がいれば、そこでリアルにも繋がることができるのではないかと思います。

現在は、セミナー形式が多いのですが、これからはインタビュー企画や、事例検討会、ワークショップ形式、そして「おしゃべり会」などを企画していきたいと思います。是非お楽しみに!持ち込み企画や企画の要望もお待ちしております。

WHYの部分

以下は、そもそも、なぜCOEDOHを立ち上げたのか、という話です。おまけ程度ですが、ご一読いただければ幸いです。

以下の動画は、COEDOH立ち上げを考えているときに山田洋太先生に相談したときに、紹介されたものです。それまでも、ある程度は自分を突き動かす原動力というのは分かっていたつもりですが、より強く、このCOEDOHを立ち上げるWHYを意識することができました。この場を借りて御礼申し上げます。

立ち上げ動機となった危機感

私は、産業医科大学を卒業し、臨床研修後に、産業医科大学で2年間の産業医としてトレーニングを積み、地元の某地方都市で専属産業医として活動を始めました。その中で痛感したのが、圧倒的に学ぶ機会が少ない、ということです。それはつまり、単に研修会の開催頻度・内容ということだけではなく、産業保健職同士のコミュニティが少なかったり、指導・相談できるような環境が少なかったり、ロールモデル・キャリアモデルとなる人材が身近に少ないということです。産業医科大学の卒業生たる自分は、強固な人的・情報ネットワークや、当たり前のように指導体制がありました。自分としては、そのような環境があったからこそ成長できたと思っており、特に地方で活動を始めたときに、そのような環境がないという大きな差に驚愕したとともに、強い危機感を強く感じました。特に、地元の産業保健を活性化することに使命感を持っていた私としては、これはなんとかしたいと思っていました。これは2016年から2019年頃の話です。
(参照:「産業保健職の学びの機会格差とその改善の方向 : 産業医の声」)

背景として、産業保健職は学びにくい構造にある

そもそも、多くの産業保健職は、各企業で一人であったりごく少数で活動を行わなければならず、相談する相手がいない、指導体制がないといった状況にあると言えます。産業医は、事業所の従業員が3000人を超えるまでは法定の選任は1名で済みますので、一人産業医という体制も非常に多いです。OJT(On the Job Training)を受ける機会もなく、ときには引き継ぎすらなく、ほとんど支援なく、即戦力として産業保健活動を行わなければならないという話もよく聞きます。一部の大企業や、労働衛生機関(健診機関)では多数の産業保健職を抱えていることもありますが、そのようなポストはほとんどなく、特に地方にとっては稀です。
 企業内に指導・育成システムがないのであれば、企業外にその資源があるかと言えば、ことはそう簡単ではありません。学術学会(日本産業衛生学会など)や、研修会(各地の産業保健総合支援センター)の機会もありますが、参加が難しい方も多いでしょう。所属企業が業務時間内の参加を認めてくれないことや、費用負担してくれないことも往々にしてあります。また、プライベートとの両立が難しいといった事情を抱えている方も多いようです。さらに言えば、学会や研修会で学んだ内容を、そう簡単に自分の所属企業に落とし込めないという産業保健の難しさも潜んでいます。ヒントにはなっても解決にならない、とでも言いましょうか。例えば、他企業の禁煙施策がうまくいったという話を聞いても、自企業の禁煙施策は容易には進められません。他にも成書・ガイドラインといったものもありますが、それらもまた目の前の実務に落とし込むことには大きな限界があるのです。法律やガイドライン・成書があれば安全衛生活動・産業保健活動が進む、という簡単な話なのであれば、むしろ専門職がいらないと言えるのかもしれません。それが極めて難しいからこそ専門職の存在意義があり、産業保健活動が楽しいと言えるのかもしれません。

始動はコロナ禍の中で

前述の危機感と使命感を抱え続けていたわけですが、明確な解決方法も思いつくことなく、私は悶々と過ごしていました。手元では、地元にリアルのコミュニティを立ち上げたり、オンラインセミナーやプライベートで勉強会を企画したりと色々とやったりしていました。そんな折にコロナ禍が襲来したのが2020年の冬でした。自分も在宅勤務になって少し手持ち無沙汰だったこともあった中で、オンライン飲み会や、オンラインセミナーを企画していたり、他のオンラインサロンの情報を収集していくうちに、「なんかできそう!」と思い立って、2020年8月にこのコミュニティをつくることにしたのです。ほとんど勢いだけの蛮勇でしたね笑。FacebookやSlackの無料のプラットフォームと、手数料の少ないCampfireを活用すれば、コストもかからないことが分かり、あとは30-50人くらい集まれば・・・毎月講師を呼んでセミナーができるじゃん!という安易な発想でした。それから、Twitterでわちゃわちゃみんなでやっているうちに、非常に多くの方が参加していただき今に至ります。1年半経って、まだまだ思いつきばかりで走りっぱなしの感もありますが、もう少ししたら、自走できる仕組みにしていきたいなとも思ったりしています。

プチ師匠×プチ弟子理論

これは2019年頃に私が提唱した理論で、実は、COEDOH立ち上げの根底にあります。産業保健職という専門職は、強い関係である師弟関係や少人数制の集団よりも、緩~く多人数で繋がる関係性の方が良いと考えています。前者はガイドラインのような正解的なものがあったり、OJTで手取り足取り教えられる業務環境、縦構造の関係性(先輩ー後輩、人事権など)による集団運営が機能する場合においては有効だと思います。いわゆる大学の医局ですね。一方で、産業保健業界は、正解がなく、業務は手取り足取り指導できませんし、縦構造の関係はほとんどありませんので、そういったやり方はそぐわないと思うのです。だからこそ、緩くつながり教え合うような関係性が重要だと思いますし、そのような繋がる場が必要だと思うのです。

全国プチ師匠×プチ弟子理論と繋がる場としてのCOEDOHのイメージ図

また、プチ師匠×プチ弟子理論のもう一つの肝は、誰もが教え合い、誰もが教えられるというものです。これはベテランであっても教えるだけではなく、教わる姿勢が大切であり、若手であっても教わる姿勢だけではなく、教える姿勢が大切だということです。ギブアンドテイクの相互関係性であり、相互利他的な関係が大切だと思うのです。

終わりに

COEDOHが、全国の産業保健職が、ともに学び合えるコミュニティとなるように引き続きがんばっていきますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

追記 2022年8月

オーディブルで「THE TEAM 五つの法則」を聴いていて面白いと思ったことを追記します。

書籍の中で、人の協力を得るためには次の4つのPが必要であるということが述べられていました。

Philosophy(理念)
Profession(仕事の内容)
People(人)
Privilege(名誉・待遇)

麻野耕司. THE TEAM 五つの法則

これは、COEDOHに多くの方が参加・協力していただいていることの理由を説明するのにぴったりだなと思いました。

「Philosophy(理念)」=理念

前述のようなCOEDOHのコンセプト(立ち上げた理念)というものに共感・共鳴してくれた方もいると思います。同じような孤独感を感じ、そのような産業保健職を支援したい、つながり合いたいという感覚でしょうか。

Profession(仕事の内容)」=コンテンツ

これは、COEDOHのコンテンツが評価してくださっている、という方だと思います。COEDOHはオンデマンドでコンテンツが視聴でき、実際には多くの方がリアルタイムではなく、後日視聴されています。良質なコンテンツがCOEDOHの魅力の一つなのだと思います。

People(人)」=メンバー

COEDOHに参加してくださっているメンバーそのものがCOEDOHの魅力であり資産です。素晴らしいメンバーが参加しているからこそ、他の人たちも入ってみたくなるのかなと思います。

Privilege(名誉・待遇)」=属性・ハッシュタグ

COEDOHに参加していることは、その方の属性の一つになりえます。
CODOに参加するような人という属性であり、例えば学ぶ意識やSNSリテラシー、つながる意識などがあるといった要素が紐づけられるということです。すでに、学会や研修会で、COEDOHに属するということが、産業保健職としての特徴の一つになってきているように感じます。例えば、Twitterのプロフィール欄で#COEDOHと書いている方がいれば、そういう人なんだな、という印象を持つ、ということです(そういう人がどういう人なのかは皆さん次第です)。特に、4つ目の"Privilege"ということが、コミュニティとしての価値なのかもしれません。

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