イノベーションとロングセラー

「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」を読んで

「違う業界のビジネスモデルの変遷」について考えてみるよい機会になりそうだ、とたまたま見つけて(しかもKindle版だとキャンペーン中)読んでみた「誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ潰した男たち」(原題:”How Music Got Free”)。

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いい意味で期待以上だったのと、この本を読んで、過去に「イノベーション」についてお師匠と話したときのエピソードについて、頭の整理も兼ねてまとめてみようと思う。


「誰が音楽をタダにした?」

mp3という単語を聞いたことがない人はもはや少ないくらいだと思うが、それが何なのか、つまりフォーマットとしての特徴や、世界中で広く利用されるようになった経緯については、まあその業界の人やギークでもない限り知らないだろし、知ることもないだろう。


そんなニッチな内容について、長年地道に調査を続けて、手に汗握るノンフィクションとして、Stephen Witt氏がまとめたのが本書。(映像化したらきっと映えるんじゃないかな)


概要


ほとんどの人が気にもしないようなトピックが、音楽というエンタメ業界の中でも、巨大な産業の構造を変えていくことになったというのがこの本の大筋。
それも、素晴らしい技術を開発したから世界中に広まったという訳ではないのが、この本に惹き込まれる肝となっている。


ネタバレはしたくないので、Amazonの「内容紹介」の部分から引用するが、大きくは以下の、全く接点のない三つの登場人物たちによるストーリーが糾(あざな)える縄のごとく一連の変化へと繋がっていく。


「田舎の工場で発売前のCDを盗んでいた労働者」
「mp3を発明したオタク技術者」
「業界を牛耳る大手レーベルのCEO」

さて、今回この投稿を書こうと思ったのは、私のマーケティングの考え方に少なからず影響している、ウェブリオの創業者であり現CEOの辻村さんとの過去のやり取りを読んでいる最中に思い出し、その時の話と合わせて、これを機に一度整理しようと思った次第である。

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さて、今回この投稿を書こうと思ったのは、私のマーケティングの考え方に少なからず影響している、ウェブリオの創業者であり現CEOの辻村さんとの過去のやり取りを読んでいる最中に思い出し、その時の話と合わせて、これを機に一度整理しようと思った次第である。

空港での何気ない景色

空港のコンテナを運ぶ車あれは私が学生インターンとして働いていた頃のことになるが、当時、ウェブリオは事業拡大の一手段として海外市場への参入を検討していた。


様々な角度から調査を行った結果、進出先としてインドネシアが候補となり、事前に用意した仮説の検証のため、辻村さんとジャカルタへ二週間ほど出張に行くことになった。


(※比較的私が海外慣れしていたのと、手を挙げる者に機会を与えようとする社風のお陰で、正社員でなくとも同行者として選んでもらえたのは幸運だった)


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現地到着後に、既に進出して長年の経験のある日系企業や、ローカル企業の方々とディスカッションした内容から学ばせていただいたことは非常に有意義だったが、実はこの出張の中で私の印象に残っているエピソードはそれと同じかそれ以上に、実は出発前の成田空港で話した「コンテナとイノベーション」の話である。


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そもそもこの会社のマーケティングの研修(?)として、「街歩き」のようなプログラムというか、文化がある。


もちろん、教科書的な知識は座学で学んだし、MBAのケースを活用したディスカッションなども行われるのだが、私個人としては「街歩き」から学ぶことが多い。


傍から見ると本当にただの散歩なのだが、例えば何かのお店に「行列」があったり、目を引く「広告」が飾ってあったり、人気(ひとけ)の少ないところに立地している飲食店が、戸を開けてみると想像以上に賑わっているといった、特段珍しくもないことについて、何か答えがあるわけではないけど、それらの要因や意図について歩きながら議論する、といった文化。


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そんなわけで、空港内を移動していたときもいつもと同じ調子で、目に入ったものについて議論が始まったのだが、その時口火を切ったのが窓の外を見ての一言。


「コンテナってイノベーションだよね。」
「はあ。」


もちろん、コンテナはそれまでにも見たことがあるし、どういう用途で使われているかもなんとなく知ってはいた。

が、唐突にあれがイノベーションと言われてもピンと来なかったのである。

元ネタ、というかその時に紹介してもらったのが「コンテナ物語」という書籍で、これはこれで面白いので是非おすすめしたいのだが、その話の趣旨としては「イノベーションってなんだろう」というところにあった。

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イノベーションってなんぞや

『経済成長の原動力となる革新。生産技術の革新,資源の開発,新消費財の導入,特定産業の構造の再組織などをさすきわめて広義な概念。(三省堂 大辞林)』


とあるが、当時の私は「革新」という部分から、消費者向けの、何かわかりやすいものをイノベーションの事例として認識してしまっていたんだと思う。


ガラケー→iPhoneのような感じ。そりゃピンと来ないわけだ。


先ほどの議論の中で、コンテナ及びその周辺システムが生まれる前後の物流・ロジスティックスの話をして、その発明がもたらした生産性の飛躍について想像すると、まさにイノベーションだったんだろうなあ、と。
上記の定義と比較しても納得である。


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そして、その話から学んだことがもう一つ。


本当のイノベーションって、きっとコンテナやmp3のように、あってアタリマエになりすぎてしまって、意図がない限り、意識することがなくなってしまうんだろうなと。


そのアタリマエを、「文化」になったと呼ぶのかもしれない。そうすると、イノベーションって新しい文化を創ることなのかな。


iPhoneの例も、きっとうちの大学一年のインターン生とかにはそろそろ伝わらなくなってくると思う。ガラケーって何、携帯=スマホでしょという世代にとってはそれが当然なのだから。


ロングセラーを自由研究に


そういった経緯もあって、その後意識的に、見逃しそうになるほど当たり前なモノやコト、視点を変えると、長く愛されている「ロングセラー」について積極的に調べるようにしている。


それが必ずしも、新規事業や新機能の開発といった、普段の業務に結びつくかはわからないけど。


色々定義はあると思うけど、私のマーケターとしてのミッションの一つは、「売れ続ける仕組み」を築くことだと思っている。


経営レイヤーだと「持続的競争優位」みたいな言い方になるのかもしれないが、事業担当者やプロダクトマネジャーとしては、つまるところ「ロングセラー」を生み出すというのは、わかりやすく、かつ究極的な目的だろう。

時代背景やニーズに合わせて生まれ、その時々の変化に合わせて対応してきて、今なお愛されているものから、今後もそのエッセンスは取り入れていこうと思う。

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