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友人が増えていくニューヨークの田舎

ニューヨークのアップステイトにある農場「Star Route Farm」に来た。デイブがつないでくれた。ニューヨークシティから約270キロ(東京から浜松市くらい)北上したところにキャッツキルというエリアで、周囲に飲食店など見当たらず近くのスーパーまで車で30分という、なかなかの田舎。とても素敵なところだったので当初1週間だった滞在予定をさらに1週間延ばした。残り2日。

トップ写真を見て気づいてくれた人もいるだろうか。ここは神山町出身で神山校を卒業した通称ホープがデイブとともに訪れた場所でもある(拙著第5章「師匠を訪ねてニューヨークへバーガー修行」参照)。屋外でのパーティでデイブのアシスタントとして焼き場を任されたものの、焼きおにぎりを焦がしてめっちゃ怒られた思い出の地。仲直りした時に撮ったらしい写真が好きで本に載せた。
スタッフたちも「ああ、ホープね!」と覚えていてうれしい。

フードハブ・プロジェクト提供


毎日が温泉!?

前半の1週間は、Star Route Farm共同経営者の一人で資金調達部門を担当するティアナの家に滞在させてもらった。到着したその日、「パートナーの出張の都合で申し訳ないけど今日だけ別の場所で寝てほしい」と言われ、案内されたのがこちら。

家のすぐそばの森にあるバス。ヒッピーにもらったらしい

この時点で、「もう絶対ここ面白いところやん」と確信。

13年前に越してきて、家の改修を繰り返しながら暮らしているティアナの家はいろいろと面白かった。
まず、鶏11匹放し飼い。家にも普通に入ってくる。けど外の道には出て行かないし、夜はすんなり小屋に戻るからしつけられているんだなーと感心していた。
ところがある日、ガレージの一角で大量の卵が発見される。「最近採れる卵が少ないなと思っていたら…ここで産んでたんかーい!」とティアナ。

庭を闊歩する鶏たち
ティアナが悲鳴を上げた衝撃の瞬間

パートナーのライアンは趣味で染めものをしているそうで、なんと藍の葉を畑で育てていた。徳島を拠点に活動するBUAISOUを知っていて、彼らの動画を見て藍染めにチャレンジしているのだとか。わーん、2人とも日本に来てほしい。

乾燥させた藍の葉

水について尋ねたら(滞在先によって水道水は飲んでOKだったりNGだったりするので確認するようにしている)、この家では水を地下から汲み上げているそうで、「身体には問題ないけど匂いが強いから、飲み水にする分はフィルターを通して使うよ」と聞かせてくれた。
なるほど、シャワーを浴びる時も結構匂いが強い。・・・いや、待てよ、これって硫黄の匂いじゃん。地下から汲み上げてるってことは、これは温泉ってことでは!?
ということで毎日温泉シャワーを堪能いたしました。ヤッホイ。


デイブが「神山みたいなところ」と表現した場所で働く

Star Route Farmは3人の男女が共同経営をしている。前述のティアナ、アーティストでもある30代前半のアマンダ、そしてお好み焼きフリークな60代半ばのウォルター。年齢の幅が広くて面白いバランス。
農作業に入る基本メンバーはアマンダとウォルター、そして昨年からジョインした元シェフのフランシス、短期で働きに来た陽気なアルゼンチン男子2人組、そして我々。気のいいメンバーばかりで楽しい。
私の名前は英語で発音しにくいし覚えづらそうなのだけど、アニメ好きのアルゼンチン男子は「Oh、まどかマギカのまどかだね!」とすぐに覚えてくれた。アニメの力よ。

ここはCSAのほか様々なプロジェクトを手がけていて(ということが徐々に分かってくる。詳しくは続編で)、忙しいはずだけれどどこかゆとりがある。出入りする関係者も多く、にぎやかな日々を過ごした。

農場へ移動する前に、デイブが「神山みたいなところだよ」と言っていた。山の感じもなんとなく似ているし、暮らす人々が自分の人生の舵を取りながらいろんな取り組みを展開している様子は確かに親和性を感じる。
デイブの紹介で来た私たちを「友達の友達は友達」方式でとてもよくしてくれた。一般的に「旅」はもう二度と会うことはないだろう人たちとの一期一会を楽しむ感じがあるのだけど、ここは「またいつか会うもんね」という雰囲気がある。

お昼ごはんは農場のキッチンでつくってみんなで一緒に食べる
植えたばかりの苗の上をブルータス(犬)が駆け回る。笑うスタッフたち。なんという寛容さw


多くの人が駆けつけたビッグイベント

基本は農場での作業が中心だったのだけど、ちょうどタイミング良く我らの滞在中に、デイブたちが経験したものと同様の屋外パーティが開かれた。
活動資金を得ることを目的にしたファンドレイジングパーティで、参加チケットは30〜100ドルの間で参加者が決める。コロナ禍前は毎月やっていたけど、ここしばらくできていなかったから今回はかなり人が集まるんだとか。

前日はパーティで使う野菜やハーブの収穫、仕込みの手伝い。100人以上の参加が見込まれるとのことで準備する量も多い。私はニンニク、にんじん、きゅうりなどひたすら無心に刻む。しばらくやっていると手が痛くなり、さらに立ちっぱなしで腰が痛くてヘトヘトになる。シェフってすごいな。

農場のキッチンで仕込み

当日。朝は雨が降っていたのでどうなることやらと心配していたけど、午後にはすっかり晴天に。屋外に机や椅子、ライト、お花がセッティングされていく。
パーティには前日あたりから多くのボランティアスタッフが駆けつけて、終始ワイガヤしていた。農場のスタッフで元シェフのフランシスを中心に、友人シェフたちがサポートに入る。以前この農場で働いていたという女性や最近引越してきたという男性なども手伝いに来た。友人に遊ぼうぜと言われて来たらパーティイベントだった、と戸惑いながら手伝う人も。

16時過ぎからゆるゆると人が集まってくる。 近所から来たであろう人も、めかしこんで来た人も。顔見知りが多いようで、そこら中でおしゃべりがはじまる。

収穫した野菜をふんだんに使った前菜たち。自社農場の鶏のパテが絶品だった

17時過ぎから料理がスタート。全体へのアナウンスなどは特になく、それぞれ自由に過ごしているのが印象的。我々は皿洗い担当だったけど仕事のない時間も多かったので、ゲストに混ざって料理をつまんだり、ここまでの滞在で知り合った人たちと話したり。希望者にファームツアーもしていた。

しばらく雨が続いたが、この日はすっかり晴れて気持ちの良い天気に

半ばに差し掛かり、ハプニングが起きた。途中でご飯を蒸すのに失敗したらしく料理提供がストップしてしまった。体感的には30分以上だったかな。半分以上の人がメインディッシュを食べられていないようで、「早く食べたい」というオーラがひしひしと伝わってくる。
共同経営者でありファンドレイザーのティアナが機転を効かせて前に立ち、皆の前でプロジェクトの近況と共にゲストたちへ感謝を伝える。かっこいい。
料理ができるや否や、高速でスタッフが盛り付けていく。それぞれができることをやる感じで、息子の勇姿を見にきてたシェフの父も鶏肉のカットに急遽参戦していた。

椅子の上に立って話すティアナ(右)とアマンダ(左)
この焼き場は元々あったのでなくデイブが自作したものなんだとか。今も使われてるのがいい

それでもまた米が足りなくなり、フォーで代用するなどドタバタは続く。最後の一皿、デザートプレートを急いで出さなきゃ!というタイミングで、キッチンでガンガンにラテンミュージックをかけて腰を振って踊り出すシェフたち。ふざけているように見えて手元では高速で盛り付けが進んでいく。
こういうピンチなときに怒りや焦りではなく、楽しむぞー!と音楽でテンションを上げていくのはすごい。カルチャーショックというかなんというか。なかなか見習えそうにないけど見習いたい。

そんなこんなでメインディッシュは食べ損ねたけど、まかない的に食べたフォーはめっちゃ美味しかった。

無事に料理を出しきった夜20時。団欒が続く
聖地巡礼的に再現写真撮った(アングルが惜しい)。左は今回料理長を務めたフランシス


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