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春の季語「山笑う」(季節を味わう#0001)
世界で一番短い詩、俳句。
「季節を味わう」では、毎月第2水曜日に俳句を俳句たらしめている季語を一つピックアップ。
その季語が使われている俳句も紹介します。あくまでも私の好みで。
春の山は微笑んでいる
女優 武井咲さん。
初めてそのお名前を見た時「たけい さき」さんだと思っていました。
「たけい えみ」さんだと知った時には、驚くと同時に素敵な名付けだと思いました。
「咲」を漢和辞典で調べてみると、「さく」「開花する」「蕾が開く」といった意味のほかにもう一つ「わらう」が記されていて、類義語に「笑」が挙げられています。「えみ」と読むのもうなづけますね。
「山笑う」は、春の山の明るい感じを表現する春の季語です。冬の寒さを耐え、明るい緑が芽吹き明るくなった山がまるで微笑んでいるかのようだと、擬人化した表現だと思っていましたが、それだけではなかったのですね。
春の山には山桜をはじめ、春の花が咲いているはず。咲=笑なのだから、まさに山笑うなのでしょう。
濃い緑、薄い緑の中に、白やピンクの花が混じった山がにっこり微笑んでいるようだ、とは、なんという美しい言葉でしょう。
それでは「山笑う」が使われている俳句を二つ紹介します。
氏名は敬称略で失礼します。
故郷やどちらを見ても山笑う 正岡子規
正岡子規の故郷は伊予国、今の愛媛県松山市です。
私は松山市には行ったことがありませんが、地図で見てみると、瀬戸内海に面した北西部以外は山に囲まれているのが見て取れます。この、一部が瀬戸内に面しているというのが良いではないですか。もし松山市が瀬戸内海に面しておらず、360度全て山に囲まれていたら、少しばかり閉塞感を覚えるのではないでしょうか。瀬戸内の穏やかな海と、山々の連なり。春の花に彩られた山並みと、海面に反射する明るい光の両方が春の訪れを喜ぶ気持ちに重なるように感じます。
逆光に山笑ひつつ暮れなずむ 佐藤春夫
「暮れなずむ」は、日が暮れるのがゆっくりである、なかなか日が暮れない状態を指すそうです。確かに、冬場に比べると、徐々に日の暮れる時間が遅くなりますね。この句はそんな、ゆったりとした夕暮れ時の春の山に向き合っている気持ちになれる句だと思います。
ところで私は大学時代は文学部でしたが、佐藤春夫にはあまり興味がなく、作品といえば、あはれ秋風よ情(こころ)あらば伝へてよ、で始まる「秋刀魚の歌」しか知りません。谷崎潤一郎と妻を交換、といえば男性二人が対等のようだけれども、実際は佐藤春夫は妻を谷崎潤一郎に盗られ、捨てられた谷崎の元妻を譲り受けた状態。そんな二人が食べる秋刀魚。
さんま、さんま
さんま苦いか塩つぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
ああ、暗い。なんて暗いんだろう。学生だった私には耐え難く(今も二人の食事風景を想像すると耐え難い)佐藤春夫の名前は極力思い出さないようにして来ました。
でもこの句は素敵だわ。
【補足】
放送では触れませんでしたが、他の季節の「山」に関する季語を挙げておきます。
夏:山滴る
秋:山装う
冬:山眠る
(2023年4月12日)
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