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秋の季語「団栗」(季節を味わう#0027)

世界で一番短い詩、俳句。
「季節を味わう」では、毎月第2水曜日に季語を一つピックアップ。
その季語が使われている俳句も紹介します。あくまでも私の好みで。

【団栗(どんぐり)】

10月(秋)の季語です。
一般的には樫、楢、橅などの実を団栗と呼びますが、狭義には櫟の実のことを言います。お椀のような形の袴を持つ固い実で、成熟すると茶色くなります。名前が似ている栗のように、食べる習慣はありませんが、渋みを取り除いて食べていた時代もあるそうです。

「団栗」を読んだ句を2句選んでご紹介します。

団栗や倶利伽羅峠ころげつゝ  松根東洋城

倶利伽羅峠は富山県と石川県の境にある峠で、木曽義仲こと源義仲が400〜500頭の牛の角に松明をつけて平家軍に突進させ谷底へ落としたという「火牛の計」のエピソードを残す場所です。
この句を音読すると「カ行」と「ラ行」の繰り返しがリズムを生んでいることに気が付かれると思います。
実際の地形と音のリズムの両方で、団栗の転がっていく様子を想像できる句だと思いました。
ちなみに松根東洋城は夏目漱石の門下生で、俳句を花鳥風月を読むだけのものではなく「生命を吹き込んで真剣に取り組むべきもの」と考えていたそうです。


団栗や屋根をころげて手水鉢  正岡子規

屋根に落ちた団栗が転がって庭の手水鉢に落ちてきたのでしょう。正岡子規は病床に伏していたため外出して季節を楽しむことはできなかったと思います。こうした偶然の出来事が、彼にとってどれほど楽しいことだったでしょう。一瞬を見逃さなかった(聞き逃さなかった)正岡子規の澄んだ瞳を感じる句だと思います。

(2023年10月11日)


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