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一條成美という画家

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明治後期に、挿絵、表紙画、絵葉書などの領域で活躍した一條成美という画家がいた。 ミュシャなどから影響を受けているが、絵には独自のスタイルがあって、魅力的な存在である。作品を紹介し…
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雑誌『文庫』と一條成美 (下)

 (上)では、雑誌『文庫』の表紙画と、一條成美の中扉のプレート画について紹介した。  (下)では、雑誌『文庫』の一條成美の口絵2枚と、小島烏水の『銀河』(明治33年8月、内外出版協会)というエッセイ集の口絵がまったく同じであることについて紹介したい。  また、木版画の「よしだ刀」というサインから彫刻師(当時は木版を彫ることを「彫刻」と呼んだ)について調べた結果を報告したい。 1 雑誌『文庫』の口絵  さて、(上)で紹介した2冊の『文庫』には、一條成美の口絵の木版が掲載さ

雑誌『文庫』と一條成美 (上)

1 雑誌『文庫』と一條成美  雑誌『文庫』の明治34年の号を何冊か手に入れた。  明治34年は、1901年。いまから122年も前の発行である。虫食いはあるが、わりあいよい状態で保存されている。  一條成美は、『文庫』に挿絵を寄稿している。  過去記事《一條成美の写真》では、『文庫』の記者、選者と投稿読者の集いである松風会を紹介した。集合写真には挿絵を寄稿している一條や、編集部の記者、各欄の選者をつとめた文学者とともに、多くの無名の投稿読者たちが写っている。  『日本

一條成美の絵葉書 大振り袖

1 着物について  一條成美の絵葉書には、うならされるうまさがあるものと、ただ単に仕事をこなしているという凡庸なものがある。  今回取りあげるものは、前者である。  博文館の雑誌『女学世界』の付録絵葉書で、時期はわからない。宛名の面に仕切り線がないので、明治40年3月までの制作だと思われる。  印刷は多色石版である。  大振り袖というのは、仮に付けた題で、ほんとうの題は不明である。大振り袖とは、振り袖の中で最も袖丈が長いものをいい、未婚女性の礼装に用いられる。観察する

一條成美の写真

 一條成美は美男子だった。  雑誌『文庫』の100号記念の臨時増刊『松風』(第17巻第4号、明治34年5月5日発行、内外出版協会)に、松風会の集合写真が掲載されており、一條も写っているのでそれを紹介したい。  この写真は以前、拙ブログで紹介したことがあるが、写真図版を撮り直して、一條以外の人物もできるだけ特定してみたい。 雑誌『文庫』と松風会  松風会とは、雑誌『文庫』の読者、寄稿家、編集者等が一堂に集まる懇親会である。雑誌『文庫』は内外出版協会の発行で、教育家として知

一條成美の絵葉書:日本赤十字社三重支部落成紀年絵葉書

 一條成美の絵葉書を入手したので紹介する。  保存がよく、エンボス加工もきれいに残っている。  石版の重ね刷りについても観察することができる。 封筒  絵葉書の保存がいいのは、封筒に入れたまま残っていたからだと推定される。  文字は次のように読める。  日本ハカキ倶楽部は、過去記事でふれたように後発の絵葉書業者で、一條成美を中心的画家として起用した。それゆえ「絵画部 一條成美」という表示がある。  紀念絵葉書といえば、1904年から翌年にかけて5回にわたって発行された

雑誌『新国民』の付録絵葉書

雑誌『新国民』と大日本国民中学会  一條成美の絵葉書を紹介しよう。  雑誌『新国民』の付録となった絵葉書2枚である。  『新国民』は通信教育をおこなっていた大日本国民中学会の機関誌で、雑誌『日本之青年』の後継誌として、1903年4月から発行された。  大日本国民中学会は尾崎行雄を会長として1902年に設立され、運営は幹事の河野正義があたった。通信教育の教材として、講義録を発行した。  『新国民』は会員向けの投稿雑誌であるが、博文館の『中学世界』と同趣の、論説やエッセイと

線を描かない

 今回は一條成美の絵葉書を一枚紹介しよう。   色と構図  「成」の文字は一條成美のサインである。  右下に、「春陽堂発行」の文字がある。ミシン目から外した痕跡はないので、販売された絵葉書であろう。    絵柄は、和服の女性が変わり型の短冊に文字を書こうとしているところを描いている。  印刷は、石版印刷である。左上の角に虫食いがある。  この絵葉書は、生田誠『日本の美術絵葉書1900⇀1935 明治生まれのレトロモダン』(2006年3月15日、淡交社)で紹介されてい

ネットで見られる一條成美

 一條成美の絵が見られるサイトをいくつか紹介しておこう。 『明治後期文芸雑誌表紙・一條成美挿画コレクション』  国際日本文化研究センターから冊子として刊行された『明治後期文芸雑誌表紙・一條成美挿画コレクション』(大塚英志監修・前川志織編集、国際日本文化研究センタープロジェクト推進室、2021年3月20日)のPDF版が公開されている。カラーで一條の作品を見ることができる。  前半は、明治後期の雑誌表紙の画像を集成したもので、アール・ヌーヴォーの受容の諸相をうかがい知ること

一條成美の絵葉書《お嬢さまのかくし芸》:後編

 さて後編のはじまり。 《お嬢さまのかくし芸》3枚目、4枚目、5枚目  3枚目を紹介。  背後からの視点で描く。  やはり、着物の袖の模様は、蝶の4枚の羽と触覚を図案化したものだろうか。  暴れる馬を演技する男性の背中に乗って、「お嬢さま」は必死でバランスを取ろうとしている。左の足のうらの様子で力が入っていることがわかる。  鞭に見立てられた細竹はまるで指揮棒のようだ。 「お嬢さまのかくし芸」とはいうものの、男性の演技的協力がなければ、成り立たない芸である。  

一條成美の絵葉書《お嬢さまのかくし芸》:前編 

 文献資料のさがしものはなかなか見つからない場合が多いのだが、すんなり入手できる時もある。  見たいと思っていた一條成美の絵葉書を入手できたので紹介しよう。 ヤフオクで一條成美の絵葉書を見つける  西向宏介氏の「アーカイブズとしての絵葉書」(2013年『広島県立文書館紀要』第12号)は、「中国新聞」の記事を丹念に追跡して、広島における絵葉書ブームの実態を明らかにしたおもしろい論文である。  明治39年 4 月 3 日から 3 日間、広島市で広島絵葉書展覧会が開催され、4月