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傷口はふさがった

雨の日に家の窓から外を眺めるのが好きだ。
窓をそっとあけて、雨の音と匂いを感じながら、じっと外を見る。
中でも雨が木々にあたる音は格別だ。
心が静まりどこか満たされていく感覚になる。

父親のスーツのジャケットの匂いが好きだ。
父親が帰るのを夜遅くまで待って、眠い目をこすりながら玄関まで迎えに行った。
高熱をだした私を抱きかかえて、病院に連れて行ってくれた。
卒業式、よく頑張ったね、と言って抱きしめてくれた。

年上だけど後輩のステキ才女が好きだ。
愛犬おもいで、ちょっと自分に自信がなくて、まっすぐ律儀で、少しだけズルい人。
彼女の話はまるでエンタテインメントで、たくさんの知識であふれている。
旅行好きで、演劇好きで、料理上手。
何事も腰の重い私には、彼女の軽やかさは憧れ以外のなにものでもない。

好きなもの、好きなこと、好きな人を語るのは楽しい。
ドキドキするけど楽しい。
ただ、そう思っていた。

ーーー

「なんで?
 好きなものを話すとき、なんでそんなに前置きするの?」
と古い友人に唐突に言われた。

気づかない間に、いいわけのように理屈をならべ
好きという気持ちを否定されないよう必死になっていた。
とても恥ずかしかった。
自分が好きなら、もうそれだけでいいはずなのに。
どこかで順番を間違って、好きという気持ちが置いてけぼりになっていた。

そっと香水をつけて、この気持ちと匂いをリンクさせる。
痛痒いこの感情を決して忘れないように。

傷口はふさがった。

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