鷺#1【小説】

その日の新宿はSGが似合うような鋭い豪雨で、悪魔的に人を孤独にさせました。
人間の堕落を無理矢理誂えたようなピカピカとした電飾が、濡れた路面に反射して素晴らしく綺麗でしたが、私はそれをわざと踏んづけるようにして歩きました。様々な男や女が笑っていましたが、どれもわざとらしく素敵な笑顔で、とても気持ちが悪く、彼らの甲高い声が聞こえる度に、より一層路面を踏みしめるのでした。私はぺったんこのスニーカーを履いているので、すぐに水が染み込んできて、それは彼らの血液のようでとても不快でした。
私は、早くお家に帰りたいなぁ、とそればかり考えて、あなたの手を握ったのですが、あなたは逆に歩みを止めて、どうしたの、と不思議そうな目でこちらを見つめるのです。

なんでもないよ

私が孤独に襲われるのは日常茶飯事でした。例え、私が親しい母親や友人や大切な人と一緒に愉しく笑っていても、いつも独りでした。厄介なことに、孤独は私と一緒に愉しく笑っている誰かと同じように、私に寄り添って、愉しく笑いかけてくるのです。どんなに賑やかな場所でも、どんなに穏やかな日和でも、孤独は愛らしい妹のように私のスカートの裾をちょこんと摘まみながらついてくるのでした。
彼女は今夜も私のビニール傘の端に身を寄せながら一生懸命に顔を上げ、きらびやかな看板群を観察していました。

どこにする

ここにする

鍵を受け取ってエレベーターに乗ると少し暖かい気持ちになります。彼は前髪を睨みながら整え、私はそんな彼の腰に手を添えました。孤独といえば「今月のカレーフェア」の文字を熱心に見つめています。
エレベーターを降り、彼が203号室の鍵を差し込んだところで、私は後ろを振り返りました。孤独は悲しそうな目をしてこちらを見ています。そう、彼女はラブホテルの部屋には入ってくることが出来ないのです。私が彼に手を引かれると同時に彼女は裾を手放して、私達が203号室に入るのを見届けました。私達はやっと二人きりになり、私はスカートの裾の絞られたような皺を直しながら、ソファに座る彼の膝の上へ跨がるのでした。