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1月に読み終えた本

本をある程度処分しないといけない状態に追い込まれているのだが、あまり物理本を処分したくないなあという気持ちになっている。無限書庫(©魔法少女リリカルなのは)、ほしいですよね。

岡田暁生『西洋音楽史――「クラシック」の黄昏』(中公新書)

年始に実家に帰ったら本の山の中にあったので読んだ。いきなり余談だが、実家の自室には妙にたくさん本があって、だいたいが学生の時分にブックオフで買ったものである。自分が学生の頃のブックオフは(というか最寄りのブックオフだけかもしれない)貴重な本や高い本に雑な値付けをしてることがままあって、ロクに読みもしないのにポコポコとよく買っていた。いまでも実家に帰ると山を眺めて、これおもしろそうだな…過去の俺ナイス…と本を持って帰る。この本はたぶん『のだめカンタービレ』を読んだ影響で買ったのだと思う。
この本では中世の教会音楽から現代までの通史、いわゆる「クラシック」(バロック、古典、ロマン…)を中心に概観する。ざっと見ていくと、歴史・社会の流れが与える影響が他の文化史同様、音楽(と音楽の環境)でも見えて、おもしろい。
印象深かったのは、例えばバロックを代表すると言われるバッハが実はその当時の地域的・歴史的中心からは外れたところにいた、というような話が意外とたくさんあったことで(バロックの中心はイタリアだった)、こういうのは歴史を見ていかないとわからないわけだ。とはいえあとがきでも書いているように、どこから見てもカッチリした通史を書くというのではなく、主観の入れ具合が絶妙で軽快に読める感じがとてもいいと思う。
あと時折音源のおすすめが出てくるが、現代はSpotifyですぐ探して聴けるのは本当に最高だと思う。この本が書かれたのが2005年だが、その頃はまだサブスクリプションなんてないので、聞きたければ買うか借りるかしないといけなかったことを考えると隔世の感がありまくる。というわけでこの本に出てくるのをできるだけまとめてみた。めっちゃ多い。


『世界哲学史1――古代I 知恵から愛知へ』(ちくま新書)

筑摩書房の創業80周年の記念のシリーズとのこと。
「哲学」というと欧米で生まれて発展してきたものという印象があるが、哲学の主題である人間とは何か、世界はどうして生まれたのか、といったようなものは各地で問われてきた。それは欧米流の「哲学」とは違うかたちだが、問いとしては普遍性がある(この「普遍性」という概念も欧米の哲学的伝統に拠るものだということにも注意が促されている)。
この巻で印象的だったのは、東西の古代の哲学が「魂」をメインに扱っていることだった。現在から考えると「魂」という言葉は哲学というよりも宗教に属するもののような気がするが、古代ではギリシアからインド、中国までまんべんなく扱われているということがわかる。もちろん内容に差はあるが、それはやはり「死」というものが、人間に魂(のようなもの)の存在を考えさせるんだろうなと、わりとふつうのことを思った。月一刊行らしいので、来月も読む。


大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに――最強のペシミスト・シオラン入門』(星海社新書)

シオランを知ったのはわりと最近で、ちょっとググった感じではなかなか暗そうな思想家や…という普通の感想だった。
実際に本書を読んでみると思想はかなり暗いのだが、最初に書かれているシオランの人生を読むと、これは「こじらせがすごい…」と思わざるえない(著者もそう書いている)。世間的な評価がなかったわけではない(そうでなければ入門書など出ない)にもかかわらず、ひたすら厭世的なのは本当に「中途半端」だけれども、そういう不可能性に突っ込んでいってしまう人間はどうしたって魅力があると思う。
自分はポジティブを心がけようと「頭で」理解しつつネガティブさがよくない形で出るタイプな気がするので、反省した。いや、あまりしてない。


ウォルター・ブロック著、橘玲訳『不道徳な経済学――転売屋社会に役立つ』(ハヤカワノンフィクション文庫)

文庫版の訳者あとがきにもあるが、この本は木澤佐登志の本で取り上げられていて知った。そのときは品切れだったが、めでたく文庫化されたのですぐ買って読んだ。
タイトルからはわかりにくいが、これはリバタリアニズムについての本である。リバタリアニズムは政治学や政治哲学の概念で「自由至上主義」のことだが、その概念が市場などに適用されるとどうなるかが、一般に違法だったり道徳的でない職業に則して読み解かれる。
タイトルのとおり、一読すると「いや、たしかにそう(転売屋は〜)だけど…」という気持ちになる。そう思うのは、原理主義ゆえに筋は一貫しているからで、それがリバタリアニズムの強みだが、いわゆる「常識」的に考え方にかなりそぐわないので、結果、常識それ自身(その考え方や成り立たせているもの)について考えることにつながっておもしろい。
冒頭の訳者によるリベラルやリバタリアンの説明、現代の解説があるのもわかりやすい。そもそも訳自体が適宜日本の状況に置き換えられた「超訳」で、そういう意味で本文も理解はしやすい。ここにもリバタリアニズムの「原理主義」的な論理一貫性が表れていて、これがリバタリアニズムの魅力なのだろうなと思う(考えるとそうなる、という意味で)。