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降臨! ジャイアントロボヘルボーイ

 令和五年も年の瀬が迫りつつあった頃、背後から忍び寄り、唐突にその姿を現して我々を驚倒せしめたものこそ、「ジャイアントロボヘルボーイ Giant Robot Hellboy」でした。
 ジャイアントで、ロボなうえに、ヘルボーイ。

 カバーに描かれる瓦礫の中で白銀に鈍く輝く巨体は完全にロボだし、でもデザインは間違いなくヘルボーイで、なるほどジャイアントロボヘルボーイだと思わず納得してしまいそうになりますが、待てジャイアントロボヘルボーイって何よ?と冷静になって問い返してみても答えが得られるはずもなくその勢いで購入することになりました。

 時代は1967年、夜のロンドンのストリートで呼び鈴を鳴らす公衆電話。退屈がてらそれに手を伸ばすヘルボーイ。だがそれは罠で、狭い電話ボックスに身を押し込めていた彼は恰好の的となり、麻酔銃で撃たれて昏倒してしまう。
「hEro漫画の導入なんてこれでいいんだよ」と言わんばかりの問答無用で速やかな展開です。
 そして失神してもなお朱く色づく肢体をしだれるように投げ出すヘルボーイも速やかに問答無用で運び出される。

 到着した先は巨大パネルを壁一面に張り巡らせた巨大ディスプレイを正面にして、二十メートルはありそうなぶち抜きのホールにやたら交差する階段を設えて、あちこちには波形を描くレーダーやシェードつきのモニターに無数のボタンとレバーの備えられたコンソールがコードとチューブにつながれて配置され、天井からは重々しくほとんど部屋の半分を押し隠してしまいそうな機械が吊り下げられて、もちろんその中心からは分子配列的なものがのぞいている半透明のドームが迫り出している。
 どこから見ても恥ずかしくない昔ながらの伝統と格式を守った秘密研究所です。
 いまだ意識を失ったままのヘルボーイはそのなかほどにあるシートに拘束され、大脳皮質インターフェースを装着、適性の確認やリハーサルなんて概念から存在しないかのようにそのままカウントダウンのうえ起動されます。

 謎の施設に謎の職員、謎の装置と謎づくしのなかで、いまだ意識を失ったままのヘルボーイいったいどうなっちゃうの? といっても、読んでいる方も薄々展開の予想はつきつつも、そこで舞台は変わりアフリカ東海岸のどこかにある名もなき島へ。
 アフリカ! めくるめくモンド世界へようこそ!
 ライダー・ハガードは既に過去の作家になりレーモン・ルーセルの『アフリカの印象』は黙殺されたものの、設定されている1967年は第二次ターザンブームや『世界残酷物語』のヒットの余韻も残っていて、なんだかんだまだまだ暗黒大陸のけれん味は健在で、それは出木杉君が「ヘビースモーカーズフォレスト」と叫ぶ頃まで続くことになります。
 つまりはジャイアントロボヘルボーイが降り立って、そこにいる謎の巨大生物とやりあってもおかしくはないってこと! おかしくないよね?

 どうやらこの孤島にはかつてなんらかの実験施設が置かれていて、ヘルボーイを拉致した面々はその施設の探索を企図していたことが次第にわかってきます。
 そこでヘルボーイに課せられたのはジャイアントロボヘルボーイを動かし、島の探索を行う調査員を迫る脅威から遠ざけることだったのです。
 襲い掛かる脅威は巨大なトカゲ、カマキリ、タコ、クモ、やたら短い足が二列に生えそろった海蛇のようななにか!
 それらと脳波を使った遠隔操作(フィードバック機能搭載)に慣れぬままぶっつけ本番でヘルボーイが夢中で対峙してゆきます。
 果たしてこの研究員たちの目的は? 閉ざされた施設で何が研究されていたのか? この怪物たちの正体は? そしてなによりヘルボーイの命運や如何に!?

 という感じなのですが、ぶっちゃけ本作はそうした秘密を追うよりは、巨大ロボット対怪獣のスペクタクルの方に物語が振り切っています。
 なにせセリフが少ない! アメコミに慣れていなくても十分くらいで、慣れている人でしたら五分で一話読み終えてしまえるほどで、それくらい大怪獣バトルに割いています。
 でもその圧倒的に濃密な五分を楽しみたいという人にはお勧めです。
 特にヘルボーイの指先ガトリングとオッパイミサイルは必見!

 アートの担当はダンカン・フィグレド Duncan Fegredo『ヘルボーイ:闇が呼ぶ』『百鬼夜行』『疾風怒濤』の三部作で日本でもおなじみです。ミニョーラとのタッグも長い分、意図を汲むことにも長けていて、造形の濃い登場人物やいかにも空想科学的な銃など、怪獣ものの胡散臭い雰囲気がしっかり描き込まれているのが嬉しくなってきます。
 長いヘルボーイの物語のうちで、メインストーリーに絡みそうな伏線らしい個所もあるのですが、そのあたり全部を追っていないので正直私ではわからないところも多いです。
 それでも画面狭しと剛腕を振るうジャイアントロボヘルボーイと怪獣の格闘や、何でもありなヘルボーイ世界に新たに巨大ロボットという要素が加わったワクワク感を堪能するだけでも全三話のボリュームとすれば手軽な気持ちで十分以上に楽しめるシリーズになっています。

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