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遺された僕たちが受け取るもの

ある患者さんが最期を迎える時のこと。

僕はご家族と一緒に、患者さんが旅立つ瞬間を見届けました。

「もうどうしようもないんですよね……」
「ほら、息をして、息をして」

患者さんのそばで、ご家族は話されます。

人はこんなに悲しまれ、惜しまれ、尊ばれて旅立つことができる。

人は死の瞬間まで聴覚は残されているといいます。

僕はご家族の言葉が、ちゃんと患者さんの耳に届いていることを伝えました。

「そうですよね……きっと聞いていますよね……」
ご家族は患者さんを囲みながら、声をかけ続けます。

僕は死は終わりではないと思っています。
たとえ心臓が動きを止めたとしても、それが全ての終わりではなく、
のこされた人にあたたかい優しさを残してくれるのではないか。
そのあたたかい優しさがあるから、残された人たちは悲しみながら、前を向いていけるのではないか。

その患者さんは、ご家族に見守られながら安らかに最期の瞬間を迎えました。

涙の後の家族の姿は、
大切な人から優しさというあたたかいバトンを、しっかりと受け取られたように僕には見えていました。


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