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織田有楽斎展 〜生きよそのままホトトギス〜

「好きな戦国武将は誰ですか」と聞かれたら、あなたは誰の名前を挙げるだろうか? といっても大抵は興味が無いか、挙げたとしても三英傑か武田信玄、上杉謙信、伊達政宗あたりだろう。大河ドラマを見てる人なら真田信繁とか黒田官兵衛が出てくるかもしれない。それはさておき、私がそう聞かれたら蒲生氏郷と答えることにしている。

織田有楽斎じゃないんかい、と言われそうだが、残念ながら有楽斎はそこまで好きな訳ではない。勿論興味のある武将の1人ではあるが、好きかと言われれば……うん。

織田有楽斎、諱は長益。織田信長の13歳下の弟で、茶人としても知られる。しかしそれ以上に、本能寺の変に際して信長の嫡男に切腹をすすめておきながら自分は逃げおおせるというあんまりな所業のほうで有名だろう。2022年が没後400年に当たるようで、それを記念して今年の4月から6月まで京都文化博物館で有楽斎にスポットを当てた特別展が開催されていた。今回はその感想について記す。

同展の構成についてあっさりと説明すると、最初に有楽斎という人についての解説があり、次に書状に基づく交友関係の紹介があった。その後は有楽斎ゆかりの茶道具と、有楽斎の菩提寺である正伝永源院の寺宝が展示されていた。茶道具の中では有楽井戸が目玉扱いされていたように思う。茶杓「玉ぶりぶり」は前期のみの展示だったため見れなかったのが少し残念。ともあれ色々と興味深い展覧会であった。が、1つ欲を言えば折角有楽斎ゆかりの茶道具が一堂に会したのだから、それらを取り合わせて展示することで、有楽斎の美意識をより強く分かりやすく示して欲しかった。

チケットにも写っている有楽井戸


全体を通しては「有楽斎の名誉を回復したい」という敬愛の念を強く感じさせる展覧会という印象である。「有楽斎が本当に人でなし扱いされてたら他の茶人と仲良くできるはずないだろ」というのが主催者の主張で、そう言われればそんな気もするが、世の中にはダーティーでも慕われる人はいるものである。

現代の我々が「有楽斎はクズ野郎」とか「高山右近は清廉潔白な殉教者」などと過去の人物を評するとき、後世に伝えられた逸話やそれを脚色した物語を根拠とする。その中には本人直筆の書状や『信長公記』のように史料的価値の高いものから、筆者の主観が強すぎる『三河物語』やエンタメ性重視の『甫庵太閤記』まで玉石混交である。有楽斎の悪評にしても、出典元の『義残後覚』は反信長色の強い書物だそうである。もしもアンチの与太話が400年に渡り尾を引いているのだとしたら、有楽斎が少し不憫な気もする。もっとも当の有楽斎本人は「勝手に言ってろ」と歯牙にも掛けなかったかもしれないけれど。

しかしよく考えると、根拠定かならぬ噂話で人を好いたり嫌ったりなんてのは、過去の人物に対してだけではなく同時代を生きる人間相手にも行なっている。だから私の言う「蒲生氏郷が好き」とか「織田有楽斎は別に……」というのも所詮その程度でしかないし、存命の他人に対する好悪の感情もまた不確かなものに過ぎないのである。

ホトトギスが鳴くか鳴かないかはホトトギスが決めることであり、自分の思い通りにならないからといって激昂したり、手を変え品を変え操縦しようとしたり、ひたすら粘着したり、そんな厄介な奴にはなりたくないものである。「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」と、思い通りにならない相手であってもそのまま受け止めるというのも、1つの強さと言えるのではないだろうか。

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