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ガル体新書 〜ガルビス解体新書〜

初めに

2022年3月25日ホークス本拠地開幕戦。
メジャーリーグからやって来た男が全国のプロ野球ファンに衝撃を与えるセンセーショナルな活躍を残しました。第1打席は代打でレフト前ヒット。第2打席になんと逆転満塁ホームラン。これ以上のデビュー戦はありません。
それに伴い半ば諦めていたガルビスのnote第2弾を緊急作成することにしました。
前回のガルビスのnote第1弾は歴代の外国人との比較をテーマに作成したので、今回はガルビス個人の特徴を紹介したいと思います。それでは打撃・守備・走塁・耐久性の4項目に分けて見ていきましょう!

(ガルビスのnote第1弾はこちら⬇)

打撃

逆転満塁ホームランを放ったガルビス

ガルビスは打撃を売りにしている訳ではありません。一部の安直な日本のメディアでは「メジャー109発男」を全面に押し出した紹介をしていましたが、それではさも打撃が売りのパワーヒッターであるかの様な印象を受けるため語弊があると思います。ガルビスの打撃の特徴をもの凄く端的に言えば「低打率だがパンチ力あるチャンスメーク型打者」です。
それでは実際に成績を見てみましょう。

2021年(31歳) 104試合 打率.242 出塁率.302 長打率.407 本塁打14 

因みにホークスで同じショートを守る今宮健太は

2021年(30歳) 125試合 打率.214 出塁率.259 長打率.299 本塁打4

と打率・出塁率・長打率がキャリアワーストと苦しんだ1年でした

打球アレコレ

出典:fangraphs

ガルビスはハイアベレージを残すことはありませんでしたが「ホームランを打つ技術」については今でも進化しています。理想的な打球角度で打てた割合を示す「Barrel%」は2015年の1.7%からずっと右肩上がりで2021年は4.9%でした。また、打球速度に関しては約153km/h以上の打球を放った割合を示す「Hardhit%」が2015年の21.8%から2019年の36.1%に上昇した後2020年の27.9%へと減少しましたが2021年は31.6%と再び増加しました。打球速度こそ乏しいですが、今のガルビスはホームランを打つ技術がレベルアップしている訳です。

球種別成績

次に球種ごとの成績を見てみましょう。

出典:fangraphs

w◯◯/Cとはある球種が100球投げられた時の得点増減を示します。
FBはファストボール(ストレート)
SLはスライダー
CTはカッター(カットボール)
CBはカーブ
CHはチェンジアップ
SFはスプリット(フォークボール)
KNはナックルボール
です。
中々明確な傾向というものは見えづらいですが、カーブは昨年プラス値に転じ、チェンジアップは2020年から2年連続でプラス値を記録しています。ガルビスはどちらかと言うと変化球が得意な選手なのかと思います。
開幕戦の2安打もレフト前ヒットはチェンジアップ、満塁ホームランはスプリットでしたのでやはり変化球好みなのかと思います。但しオープン戦では日本の縦のカーブに苦戦していたのでそれも頭に入れておきたいです。

出典:baseball reference

またパワーピッチャー(Power Pitcher)より技巧派ピッチャー(Finesse Pitcher)の方が成績が良いデータもあります。

左右別成績

次に対戦投手の左右別成績を見てみましょう。

出典:baseball reference

対右投手:打率.240 出塁率.296 OPS.682
対左投手:打率.262 出塁率.285 OPS.672

打率は対左投手(右打席)の方が2分以上高いです。出塁率だと対右投手(左打席)の方が1分以上高いですが、これはガルビスは右打席だと左打席に比べて内角の球に手を出しやすい傾向にあることが影響して四球数に差が生まれているのだと私は思います。

ゾーン別打率

次に左右打席のゾーン別打率を見てみましょう。

出典:baseball savant

上が左打席、下が右打席です。
右打席の方が内角球の打率も高く
、上手く捌けています。また左右両打席とも低めを上手く拾えていると思います。

塁状況別成績

次に塁上の状況別成績を見てみましょう。

出典:fangraphs

RISPは得点圏を示し、―は走者なしを示します。こうして見ると得点圏の方が打率はやや高いですが、打率.243なので秀でて勝負強いとは言えないでしょう。それよりも3塁走者がいる時の打率は.287で、なんと1塁走者がいる時の打率は.301と驚異的な成績です。「2番ガルビス論」をよく目にしますが、先頭の1番打者がシングルヒットで出塁した際、2番ガルビスに良い働きを期待できます。

打順別成績

打順の話も出たので次に打順別成績を見てみましょう。

出典:baseball reference

こうして見ると1番としての出場が最も打率が良いですね。一方7,8番だと長打率やOPSが高くパンチ力が光ります。よく目にする「2番ガルビス」も彼の中では出塁率は高い方なので問題はないでしょう。

イニング別成績

次にイニングごとの成績を見てみましょう。

出典:baseball reference

これは非常に面白い結果が出ました。お分かり頂けたでしょうか。奇数イニングの成績が抜きん出ています。特に5回は打率.295 OPS.779、7回は打率.286 OPS.784を記録しています。
また2021年のデータだと「奇数イニング×対左投手×非得点圏」の状況下でのwRC+(打席あたりの得点創出の多さを平均的な打者を100とした時の値)は脅威の350MLB1位とのことでした。
奇数イニングのガルビスには注目です。

月別成績

次に月別成績を見てみましょう。

出典:baseball reference

まず、前半戦と後半戦では後半戦の方が成績が上がりやすい傾向があります。
月別で見てみると5月に調子を落とし、7月に調子を上げる傾向がありますね。いわゆる夏男ですね。開幕から1ヶ月近くたってガルビスの調子が落ちてきても後半で調子が上がるはずだとファンには辛抱強く応援して欲しいです。

環境別成績

次に環境別成績を見てみましょう。

出典:baseball reference

デーゲームとナイターではデーゲームの方が成績が良いですね。打率も1分の差があります。
また球場とドームではドームの方が成績が良く、打率は1分以上の差があります。これは本拠地がペイペイドームのホークスにとっては嬉しい話です!「たった1分くらい…」と思われそうですが規定打席立った場合年間だと4本以上安打数が増えるので馬鹿に出来ません。
以上からガルビスは昼&ドームだと良い成績が出やすいことがわかりました。

「個人的」打撃成績予想

今年度の成績予想ですが個人の見解で
打率.250(±.010) 本塁打20(±3)
です。開幕戦の活躍を見たら打率.300 本塁打30 くらいやってのけそうですがここは冷静に、来日1年目でもあるのでこの位の予想にさせてもらいました。何度も言うようですが打撃は売りではないので守備貢献に期待したいです!

守備

カープ戦のガルビス

ガルビスは様々なポジションを守った経験がありますが、藤本監督は「ガルビスはSSか3Bでしか考えていない」と語っていたのでSSと3Bの2ポジションに絞っていきます。

出典:fangraphs

ショート

ガルビスの本職ショートです。ガルビスは守備が売りの選手です。これだけを聞くと「広大な守備範囲で圧倒するファインプレー」を想像する方も少なくないと思いますが、現在のガルビスの守備範囲は広くありません。守備範囲で魅せていたのは過去のガルビスです。守備範囲を示すRngRを見て頂けるとわかりますが2016年頃までは素晴らしい成績残しています。しかしそれ以降はマイナス値が目立ちます。では何が凄いのかというとErrRという失策抑止力を示す値を見て頂けるとわかると思います。マイナス値を記録したのは2年だけで両年とも-1.0未満に収めています。つまり「手の届く守備範囲内で確実に打球を捌く」。これがガルビスの売りです。オープン戦@ペイペイドームで三遊間の深い当たりを難なく捌きファンを圧倒させたプレーについてインタビューで「あれくらい普通」と語っていましたが、謙遜ではなく本当にガルビスにとって手の届く守備範囲内の打球を捌くことは普通のことなのです。
あの時に「肩も強い」と話題になりましたが仰る通り強肩です。しかしMLBのショートの中で群を抜いて突出したアームを持っていた訳では無かったのでそれもガルビスが「あれくらい普通」と語った要因の1つだと思います。
ちなみにですがガルビスはMLBの年間守備率ランキング(ショート部門)で史上3位の折り紙つきです。数多いるメジャーリーガーの中でこの実績は凄すぎてひきますよね…笑
またゴールドグラブ賞のファイナリストに2度ノミネートされた経験があります。「ノミネートだけで受賞歴なしかよ…」と思う方もいらっしゃると思いますが考えてみてください。日本プロ野球は1リーグ6球団ですがMLBは1リーグ15球団です。2倍以上球団が多いわけです。当然その分選手も多くノミネートされるだけでも非常に価値のあることなのです。

サード

ガルビスは昨年7年振りにサードを守りましたが、7年振りとは思えないような成績です。RngRもErrRも正。守備力を測る上でよく使われるUZR/150も11.3と堂々たる成績です。肩も強いので1塁から遠く離れた3塁線の打球を逆シングルで捕球し、鋭い送球でアウトに!なんてプレーも見られそうです。
ちなみに3/27のファイターズ戦で三遊間への打球を走者と被りながらも好捕し、満塁のピンチを救うシーンがありました。

『打撃で打点を稼ぐよりも守備で失点を防ぐ』

これがガルビスの真骨頂です。

走塁

カープ戦のガルビス


出典:fangraphs

走塁に関してはSpdとUBRを見ていきたいと思います。
Spdは純粋な走力を評価する指標でUBRは主に塁上に本人がいる時の走塁技術(ベースランニングなど)を評価する指標です。
Spdは平均が4.5(◎7.0 ◯5.5 △3.0 ×2.0)
UBRは平均が0(◎6.0 ◯4.0 △-4.0 ×-6.0)
ガルビスは5年以上前だとSpdが5.0を超える年もあり走力も武器でした。しかし最近では3点台前半を行き来しており走力も落ちてきました。今は全体の中でも下位に属します。とは言っても代走を必要とするレベルかと言えば必ずしも必要とは言えないでしょう。UBRは多くの年で平均並みの値ですね。よって走塁技術は可もなく不可もないレベルです。

参考までに2021年のホークスの一部選手のSpd,UBRも載せてみます。

ガルビスは走塁面での不安はなさそうです。




と言いたいところですが、どうも雲行きが怪しい…
3/18対カープ戦@ペイペイドームで2塁走者ガルビスがグラシアルのレフト前ヒットで生還しようとして刺されるシーンがありました。
また3/25対日ハム戦@ペイペイドームで1塁走者ガルビスがグラシアルのライト前ヒットで3塁を目指そうとして2塁を通り過ぎたところで村松3塁コーチからストップをかけられて帰塁し、あわや挟殺プレーになりそうなシーンがありました。
両方ともガルビスのベースランニングの足取りを見ていましたが(特にカープ戦は現地生観戦)どうも昨年のガルビスとは走力に差があるように感じました。正直「どこか足の調子悪いのかな?」と思った程です。表現するならベースランニングが離塁した時の初速度のまま加速せずに等速運動してる様な感じです。1年でここまで走力が落ちるのかと非常に不思議に思ってます(今も)
因みに開幕カード第2戦でスパイクを変更していたので「スパイクに何か問題があったのかな…」と勘ぐってしまいましたが多分関係ありません笑
昨年はバントヒット成功させるくらいの脚力はありましたからね…不思議です…
しかし、調べていて気づいたのですが昨年のバントヒット後に右大腿四頭筋に違和感を覚えたそうです。検査の結果異常なしとのことでしたがもしかしたらそれも関係しているのかも…
しばらく様子見しますがもしかしたら昨年と同じレベルの走力に戻る可能性もありますが、代走を送られるレベルになる可能性もあります。正直後者の可能性の方が高そうですが…

耐久性

耐久性、つまりケガしやすい選手かどうかです。
ガルビスは2012-2021の10年間で2度しか故障離脱歴がありません。2012年に背部骨折、2014年に鎖骨骨折で離脱しました。両者とも若い頃の故障で、それ以降は7年で780試合無傷でプレーしていて完全に自分のコンディション調整を確立していると言えるでしょう。非常に頑丈な選手です。
ホークスは怪我で離脱する選手が少なくないので、そういった面でもナイスな補強と言えるでしょう。

こぼれ話

もう既に各メディアでの報道でご存知の方もいらっしゃると思いますが、非常に勉強熱心な選手です。オープン戦では自身が出場しない試合にも志願してベンチ入りし、選手名鑑と照らし合わせて研究していました。また、遠征先でも朝からスタバで熱心に対戦投手を研究なんて報道もありましたね。私が試合観戦に行った試合、ずっとガルビスを目で追ってましたが色んな選手と守備の話をしてました。


今宮と意見交換するガルビス



同ポジションの今宮とも意見交換をしていた様で、他には3塁のリチャードにもジェスチャー付きで話をしていました。レフトを守る栗原には中継プレーに関して何やら伝えていましたね。ガルビスは実績・実力ある守備力を惜しみなくホークスの選手に還元してくれているようです。守備だけでなく打撃についてもグラシアルと熱心に話していました。グラシアルは「ガルビスは1番高いレベルでやってきたので彼のアドバイスはタメになる。課題もわかった。非常に尊敬している。」と語っていました。(4歳下の選手にこの姿勢で意見交換できるグラシアルの性格には脱帽ものです笑)
彼の加入が見えない面でもチームにいい影響を与えているようですね!
また、母国ベネズエラではメジャーリーグを目指す子供たちを支援する為に環境を整え「Galvis 13 Academy」を立ち上げました。このチームに所属した多くの子供たちが既にマイナーリーグでプレーしています。
最後におそらく日本語メディア・サイトにないガルビスのエピソードを1つ紹介して終わりたいと思います。

ガルビスは14歳の頃リトルリーグのワールドシリーズにラテンアメリカのチームの一員として出場しました。MLBのスカウトも見に来ていました。しかし、ガルビスは身長178cm体重70kg(現在は身長178cm体重84kg)だった為スカウトの目をひくことは出来ませんでした。そしてスカウトはガルビスにこう言ったそうです。
「君は小さいし、MLBプレーヤーにはなれないだろう。」
しかしガルビスは「自分にはメジャーリーガーになれる素質がある」と自分を信じ、晴れてメジャーリーガーになりました。

素敵な話ですよね。
ちなみにこの話は⬇のサイトにあります。

このエピソードにあるようにガルビスには反骨心というものがしっかりあるようです。
もしホークスが壁にぶつかる様なことがあってもMLBまで上り詰めたガルビスが奮い立たせてくれるはずです。

好きな食べ物はチキンとピザだそうですが、日本料理も気に入ったようで刺身が好きだそうです。グラウンドでもプライベートでもガルビスが充実した生活を日本で送れることを心から祈っております。

以上、前回以上に文字数が多く読みづらい文章でしたがお目通し頂き有難うございました。



※今回はセイバーメトリクスを使用した分析も一部で行っております。セイバーメトリクス自体、私はまだ勉強中なので本noteに適切ではない分析があるかもしれません。もしおかしな点がありましたら是非コメントやDMで教えてください!

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