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テレビの「尺」と「枠」の超え方ー既存メディアファーストから、デジタル&生活者ファーストへー

本論は、あくまで個人の今までの体験と研究に基づく私見であり、所属する(してきた)組織を代表するものではありません。

地上波テレビ放送における24時間という限界=「尺」と、その中に設定されたタイムテーブル=「枠」を超えて、生活者が求める主に報道のコンテンツを、求めるタイミングで、求めやすい方法で届ける方法を、新聞制作の手法を援用して考察する。

「尺」も「枠」も、「既存のメディア」ファーストから、「デジタル」と「生活者」ファーストに変えると、超えられる可能性が高いと考えられる。

今日の参考文献

大橋正司 、平川裕蔵 「全国紙における大量のコンテンツ制作管理とアーカイブ化:毎日新聞社コンテンツ管理システムの全面刷新を事例として」(2019)デジタルアーカイブ学会誌 2019, Vol.3, No.2

(下記2つの図表は、本論文から引用した)

「尺」と「枠」

ー尺

メディアコンテンツビジネスの表現の仕方は色々あるが、最も的確に示すものの一つはこれ、だと思う。「収奪」とか「競争」というのは物騒だし、そんな心持ちで放たれているものに射抜かれたくもないし、誰もこんな表現で向き合っていない。

しかし、この「24時間」という「尺」は、技術がどれだけ発達しても、超えられないし変えられない、限界である。

ー枠

この限られた「尺」の中に、地上波テレビ放送は「タイムテーブル」を設定している。すなわち、いつ、どんな番組を放送するか、という「枠」を決めている。

これが決まっているから、視聴者はこの番組を見よう、と決めることができ、広告主はこの時間帯のこのような番組であれば、こんな人が見るだろうという目算を立て、何曜日の何時ごろにCMを流す権利を買おう、と決めることができる。

ー「尺」と「枠」と「視聴者」と「テレビ局」と

地上波テレビ放送局のコンテンツの伝送の仕方が、まさしく「地上波」しかなかった時代は、視聴者はこの「尺」の中の「枠」を逃すと、観たかった番組を見れなかったり、観たい番組を待たなければならなかった。

上述の通り、いつ、どんな番組を流すかを決めるのは、テレビ局である。
しかし、いつ、どんな番組を見るか、を決めるのは視聴者である。さらに後述の通り、テレビ局のビジネスモデルを考えると、テレビ局とは視聴者の期待に応えるタイムテーブルを編成して視聴者を集めたところに、広告主が伝えたい人たちに伝えたい情報を届ける役割を担っている、と言える。

よって、テレビ局としては、その視聴者の生活動態を意識したタイムテーブルを組み、番組というコンテンツを届けている。これを松井(2017)は、1980年代後半から見られる「初期編成主導型モデル」と称している。

ーその中で「視聴率」とは

そのコンテンツを届けている時に、調査対象のうちリアルタイムでそのコンテンツを視聴している人たちの割合を示すものが「視聴率」である。

広告主はテレビ局に対し、自分たちの社名、商品、サービスなどを、自分たちが伝えたい人たちに届けることを期待している。よってテレビ局はタイムテーブルの編成や個別番組の制作の際に、その「視聴率」を構成する「含有」と呼ばれる、性別と年齢の構成を意識することも必要である。

民放連サイト(2021年6月15日確認)によれば「この(民間放送の)ビジネスモデルでは、より多くの視聴者を獲得できる優れた番組を放送すればするほど、番組とともに放送されるCMの価値を高めることができるという特性」がある、としている。ここでいう「価値」は、上述の「含有」が広告主が求めるものに近い状態が成立している在り様、とも言える。

「広告収入は民放が公共的な役割を果たす基盤になってい」ると同サイトで併せて記されているように、民放が公共的な役割を果たすためにも、広告収入を挙げることが必要なのである。

新聞を例にした「尺」と「枠」の超え方

大川と平川(2019)によれば、2人はシステム担当として毎日新聞の記事出稿やアーカイブなどのシステムの仕組みの刷新のためのプロジェクトに参画していた。

ー新聞における「枠」

新聞におけるタイムテーブル(及び個別の番組の内容)は「紙面」であろう。システム刷新前の記者たちは、その紙面に記事を載せる=出稿することをゴールに紙面を作っていた。また、新聞における「枠」は個別の記事であり、限りある誌面の中に様々な記事が収まるようにまとめている。

ー毎日新聞のかつての制作プロセス

大川と平川の調べでは、これを踏まえて、新聞の制作プロセスはこのように設計されていた。

「毎日新聞社では従来、紙面の降版(新聞紙面の完成)時間を新聞制作の締め切り時間として意識し、降版時間から逆算して、いつまでに記事を書き上げれば良いか、いつまでに校閲を完了させておけば良いかを判断する、降版の時間を中心にした業務フローが構築されていた

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ーテレビのプロセス
朝の情報番組、昼のニュース、夕方のニュース、夜のニュースの4回(に加えて、午前と昼の情報番組)の「枠」に「出稿」することから逆算して、番組のプロデューサーと、政治・経済・社会・国際の四部のデスクとの協議の中で取材対象を決め、記者とカメラを手配し、取材活動を行なっている(この企画、取材、編集、出稿、及び合間の権利処理と素材のアーカイブのことなどは、長くなるので別途まとめたい)。

ー毎日新聞の今の制作プロセス

しかし、毎日新聞は変わった。紙面至上主義からコンテンツ至上主義へ。
コンテンツを出すべきタイミングで、出すべき方法で出すことを躊躇しなくなったのだ。要は、紙ファーストからデジタル&紙ファーストに変わったのだ。これにより、かつてのデジタルは紙に出たものを後からまとめたものを掲載する場だったのが、先にデジタルに出し、その後に改めて紙面に出す、ということもあり、という流れになったのだ

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ーテレビの今

今は民放各局も変わりつつある。
デジタルファーストも辞さない流れも見られる。これにより「枠」の制約を逃れて、視聴者のもとへ届けられる最速のタイミングでコンテンツをお届けできるようになった。

さらに、地上波にQRコードを表出し、テレビを見ながらさらに詳しい解説や、関連する他の地域の情報などをネットで確認してもらう、という「ながら視聴」で24時間という「尺」の制約を拡張して超えられる可能性も高まりつつある。

日テレは刻々と変わりゆく現在の状況を伝えるべく「日テレ 特設サイト」での検索を誘導するなどの工夫を見せている。

要は「ファースト」であるものを「デジタル」と「生活者」ファーストに変えれば、「尺」も「枠」も超えられると言える。

まとめ

「尺」も「枠」も、「既存のメディア」ファーストから、「デジタル」と「生活者」ファーストに変えると、超えられる可能性が高い。

生活者への提供価値が高まる可能性もある。
別途まとめることとするが、このようにネットを介した生活者とのやりとりにより、生活者の生活動態やコンテンツへの流入・離脱状況を知ることもできるようになり、より生活者の期待に応えるコンテンツの企画、制作、伝送ができるようにもなろう。

同時に、そのような体制を確立すれば、広告主の期待に応えられる広告配信を行えるようになる可能性が高まる。

しかし、課題も多い。
これも別途整理するが、コンテンツの著作権管理と制作プロセスの自動化など、超えるべきハードルは高く、多い。しかし、これを乗り越えることこそが、今後の成長には必要となろう。

(写真は「テレビ タイムテーブル」で画像検索して、最初に出てきた札幌テレビのタイムテーブルです)

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