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先輩デューン/砂の惑星(デヴィッド・リンチ版)

2024年3月も終盤、待望のヴィルヌーヴ版デューンPart2が公開される中、先輩デューンである1984年のデヴィッド・リンチ版を視聴してみた。個人的な話で言うと、リンチ作品はデビュー作であるイレイザーヘッド以降のデューン以外はしばらく前から全て見ている状態だった。

デューンは円盤が廃盤になっただとか、見えづらい作品だったわけでもなく、TSUTAYAはもちろんサブスクにも登録されていた。じゃあなんでデューンだけ観ずにほったらかしていたのかというと、リンチの作品の中で唯一失敗作と言われている可哀想な映画だからだ。(ツインピークス劇場版もそれに近いが、筆者が初めて見たリンチ作品で、ここからリンチにハマるほど大好きだったので、個人的にはこの作品が唯一の駄作の烙印を押されている)

ディノデラウレンティスという超大作をヒットさせる有名プロデューサーと作った作品だが、制作会社はリンチの自由なクリエイティブを許さず、さまざまな横槍を入れた。その結果、歪んだ映画が生まれてしまった。それが「デューン/砂の惑星」だ。

デューンの前の作品は「エレファントマン」で
、次の作品は「ブルーベルベット」である。前後を考えると、どれだけこの作品が他と違う毛色なのかがわかるだろう。

人間の内部や街の中に注目し、狭く閉じられた世界観の中で広く広がる世界に絶望するのが特徴のリンチ作品。だだっ広い物理的広さのある砂漠は描いたことのないテーマだと思う。

あらすじ

砂に覆われ巨大な虫が支配する荒涼の惑星アラキス、通称デューンを舞台に、宇宙を支配する力を持つ「メランジ」と呼ばれるスパイスを巡る争いを軸にした壮大なドラマが展開される。
(引用:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%B3/%E7%A0%82%E3%81%AE%E6%83%91%E6%98%9F_(1984%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB)
2024年3月27日閲覧)

シュールさ

冒頭で王女が世界観の説明をする。宇宙空間に王女の顔だけが薄く浮かび上がり、作品の大切なキーワードである「香料(スパイス)」の説明とか、色々やってくれる。シュールなのだが、これが結構ダサいシーンである。これが結構象徴的で、リンチ版デューンは説明するシーンが多い。

多用される説明台詞

説明シーンとは難しいもので、説明がなければ話の訳がわからなくなってしまうが、説明自体は特に面白いものでもなんでもないので、必要なのにつまらないという、面倒な存在なのである。
その意味で、説明をエンタメ化したのが、庵野秀明が手掛けた「シン・ゴジラ」だと思うのだが、とにかく映画はなるべく説明を避けるのが定席のはず。
不思議とこの映画は逆をいっており、設定にある架空の星の説明を、わざわざ図画を使って主人公が誦じたりする。
さらに驚きなのは、口を閉じているのにセリフが聞こえるのである。すわいっこく堂氏の登場かと思いきや、キャラクターが心の中で思っていることを、わざわざ心の声として読み上げてくれるのだ。
これは衝撃的。数年前に流行った、鬼滅の刃が「心情をすべてセリフで読み上げている」という部分でよく賛否を呼んでいたが、まさにそれである。しかも口に出すのではなく心情の説明のために心の声を読み上げるのだ。ここまでのことは鬼滅もやっていなかった。まさかの無限列車越え。

意外とわかりやすい内容

説明台詞が多いのが良いか悪いかはともかく、そのおかげでわかりやすい内容にはなっている。原作仕込みの込み入った設定は難しいところがあるにしても、誰が今、どんな感情で何をしようとしているのかはよくわかる。「まずいことに私は彼を気に入ってしまった…」とか、普通はセリフにしないだろう。
同時に、そここそが低い評価の理由になってしまっているのだろう。特に説明を省くのが美学のリンチ作品を楽しみにしてこれを観ていたら、かなり怒ってしまうのもよくわかる。
ただ今回の筆者のように、最初から駄作の評価を知っていると、割と悪くないんじゃないのと思う。

垣間見える「リンチっぽさ」

特に楽しいのが、「アッ、ここはものすごくリンチっぽい!」という部分がちょこちょこ出てくるところである。
例えば夢の場面。スティング演じるフェイドの姿や謎の炎が見えたりする幻想的な場面だ。あの独特の浮遊感のある轟音も含め、いつものリンチ節が垣間見える。
家政婦の人がポールに警告を伝える場面や、彼の〇〇(あまりにもネタバレな気がするので伏せ字)が皇帝の前で話す終盤の場面なども、すごくリンチ節がある。
ただ正確には、リンチの暗闇に無理矢理に人工照明を当てたようで、残念な感じになってしまっているのだが。
そういうところを見ると、リンチが本気で自分の好きなように作り、編集できたバージョンは本当に映画の歴史を変えてしまっただろうと思う。
スタジオは劇場の回転率を上げるために、上映時間を短くするように要請したというから、原作を表現するために必要な時間、予算を与えられたifの世界のデューンには興味が尽きない(もちろんホドロフスキー版も!)。

ハルコネンの迫力

ドゥニ・ヴィルヌーヴ版にももちろん登場する悪役、ハルコネン男爵。ヴィルヌーヴ版では太ったヴォルデモート卿みたいな雰囲気だったが、リンチ版では全く違い、ハイテンションに脂ぎったギトギトハルコネンとなっている。
例えるなら、加齢によって新陳代謝が落ち、仕方なく太ったのがヴィルヌーヴ版ハルコネンで、ただマックやケンタッキーを食べすぎて太ったのがリンチ版ハルコネンというイメージ。

スティングの活躍

そしてそのハルコネンには甥が2人いる。フェイドとラバンである。フェイドはポールのライバル的ポジションで、夢の中でも不敵な笑みを浮かべてポールを苦しめる。
その割には目立つ場面は少なく、意外とスクリーンに映らないキャラである。それでも観客に強い印象を残せているのは、演じているのがバンド、ザ・ポリスのボーカル、スティングだからだろう。
ハルコネンファミリーで唯一健康的な肉体を宿し、神を逆立てるパンクなルックス。ポールと戦いあっさりとやられてしまうが、リンチの本当にやりたかったバージョンではもう少しかつやくがみられただろうか。


そんなこんなで、急足になったり、観客を馬鹿にしているレベルで説明過多だったりと変な映画ではあるが、リンチファンなら観て損はしない。ちなみに、本編に少しだけリンチ本人が出演している。リンチの高い声が困り顔にピッタリハマっているので、ぜひ注目して欲しい。

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