見出し画像

絵本の世界で旅をする。ー「駒形克己 え!ほん展」に行った話ー

私は絵本を読んだ記憶があまりない。
唯一と言っていい絵本の記憶は、仕掛け絵本だった。しかも洋書。何が書いてあったかはもう思い出せないけど、その仕掛け絵本にわくわくしてぼろぼろになるまで読んだ記憶はある。さて、現在、私が住む長野県上田市にある上田市立美術館(サントミューゼ)では「駒形克己 え!ほん展」が開催中だ。「もし、絵本の世界に入れたら…。」そんな素敵なコンセプトのもと、造本作家・駒形克己さんの絵本の世界を再現した展示だ。

駒形 克己|こまがた かつみ
(造本作家・デザイナー)

日本デザインセンターを経て、1977年渡米。ニューヨークCBS本社などでグラフィックデザイナーとして活躍後、1983年帰国。自身の子どもの誕生をきっかけに絵本を制作。以後、『ごぶごぶ ごぼごぼ』など多数の絵本を出版。その活動は世界へと広がり、展示会やワークショップの開催が、フランス、イタリア、メキシコ、韓国、スペインなど現在もなお世界各地を巡回中。(サントミューゼ公式サイト駒形克己 「え!ほん」展より引用)

「え、絶対楽しいじゃん…」
企画展を知ったその日からわくわくが止まらなかった。さあ、さあ、さあと足を運んでみるとそこは驚きと発見が満ち溢れた世界だった。この感動を忘れないように、私はここに綴ろう。私が旅した絵本の世界を。

▶︎さあ、カメラを持って

チケットを買い、展示室のある二階へ向かう。するとそこにはカメラを持ったタヌキ。「さあ、カメラを持って冒険しよう!」と言わんばかりのタヌキをパチリと撮りながら中へと向かう。チケットを見せると「逆走はしないでください」との説明を受ける。かしこまりました。

まず最初に出迎えてくれたのは、色とりどりの動物たち。「POP SCOPE」と呼ばれるこのシリーズは、紙という平面が何層にも重なることで立体感を持つ不思議な作品だ。正面や斜め、見る角度によって表情を変える動物たちがたまらなく愛おしい。私の推しは、フクロウ。欲しい。……え?買えるの?ミュージアムショップで?……欲しい。

可愛らしい動物たちにしばしの別れを告げ、歩みを進める。薄暗い照明の中、絵本のページが印刷されたスクリーンが天井から吊り下げられている。ぽわっと光る物語。『ほしが ねむる ところ』という作品だ。照明と物語が溶け合って、心がうつらうつらし始めた。ゆっくり物語を味わいながら進んでいく。

今度は明るい世界に出た。『ぼく、うまれるよ!』赤、オレンジ、ピンク、子どもだけが通れるトンネル。この世界に生まれることを再び感じられるような展示だ。生まれた子どもは成長していく。次の世界は『Yellow to Red』おかあさんを探して旅するひよこの物語。朝に、夜に、そしてまた朝を迎える。時間と共に経過していくグラデーションを、ページを捲るように体験していく。

光と影が美しい世界へ。『一隅』天台宗の開祖・最澄の言葉「一隅を照らす」全てを見せるのではなく、道標になる部分に光をあてる。光をあてたことで生まれる影。その影もまた美しい。いつまでもここにいたいと思ってしまうような幻想的な眩しさを感じた。ふと、解説が気になった。ふりがながない。内容もなかなかに大人向けだ。そして極め付けは、その位置だ。大人の目の高さに設置されている。「絵本だから、子ども向け?とんでもない。この企画展は大人も楽しめるのさ」脳内で誰かが言う。子どもの目には届かない、大人だけが読める解説。もしかしたら、この展示は、大人こそ100%楽しめるのではないだろうか。そう思ったら『ぼく、うまれるよ!』のトンネルが通れなかったことも、悔しくは、ない。

光と影の幻想的な世界を抜けると、風と雨の世界に出た。『かぜが はこぶ おと』そして『雨があがって』の展示だ。動物たちの鳴き声に包まれながら、蛇腹になった絵本の周りをぐるぐると歩く。そして中に入る。これは希望の物語。雨が上がれば虹が出る。ふと展示の横に実物の本があることに気付く。「これがこの大きさに!」と感動した。

一本の木が立っていた。しばらく眺めてみると、陽が落ち、夜になり、朝になる。動物たちが木のそばを通り過ぎてゆく。『Little tree』一本の木の生涯を描いた一冊。シンプルだけど、だからこそ、心動かされる空間になってる。しばらく眺め、歩みを進めると、見たことある景色が広がった。『ほしが ねむる ところ』の世界。最初の展示に戻ってきた。脳が理解できず、あたりをキョロキョロ見渡した。夢から醒めたような、突然、本の世界から抜け出してしまったような奇妙な感覚。思わず『Little tree』の世界に戻りたくなったが、「逆走はしないでください」という文字が脳裏をよぎったので後ろ髪を引かれつつ展示を後にした。

展示と絵本コーナーの明るさにギャップを感じつつ、本棚を眺める。今まさに、旅をしてきた世界の本たちがずらりと並んでいて不思議な感じがした。手に取ってみると、旅した世界の全容がわかった気がした。

▶︎旅を終えて

「駒形克己 え!ほん展」のチケットで上田市立美術館のコレクション展も見ることができる。山本鼎をはじめとする上田市に縁がある芸術家たちの作品が並んでいる。今回の「え!ほん展」に合わせて動物がモチーフの作品を多く集めたそうだ。その中でも特に推したいのが、中村直人(なかむら なおんど)が描く猫だ。写真撮影NGによりここには載せられないので、ぜひ見てほしい。癖になる猫ちゃんだ。

行きがけに気になった壁の展示。駒形さんが市内の小学生を対象に行ったワークショップから生まれた作品が並んでいる。シンプルな仕掛けなのに、あっと驚く発想が詰め込まれている。正直これは最後に見た方がいい。時間が許す限り、ゆっくりと作品に触れて欲しい。わくわくすること間違いなしだ。

▶︎財布の紐はゆるゆるに

展示を見たらミュージアムショップに寄るのもお忘れなく。なぜなら旅した世界の絵本を購入することができるのだ。好きな世界の絵本を買って、枕元に置いていたら夢の中でまた旅ができるかもしれない。そんな妄想に耽る。

サントミューゼ、1階のカフェも推したい。「え!ほん展」のコラボメニューがまた垂涎ものだ。『ほしが ねむる ところ』のホット・ホワイトチョコレートミルクに舌鼓。柔らかな甘さにじんわり疲れが癒される。

▶︎おわりに

もし、絵本の世界に入れたら…。そこにはめくるめく冒険の旅が待ち受けていた。世界の美しさ、眩さを感じる旅。驚きと発見に触れながら、駒形さんの本の世界へを体験する。大人も子どもも、絵本好きでもそうじゃなくても、「え!ほん展」は素敵な心の冒険をさせてくれる場所だ。そうそう、なぜメインビジュアルがカッコウ、シラサギ、カモシカ、キツネ、そしてタヌキなのか、その意図を知って欲しい。きっとこの展示がさらに愛おしくなると思う。

駒形克己 「え!ほん」展
【会場】
サントミューゼ上田市立美術館2階企画展示室
(長野県上田市天神三丁目15番15号)
【期間】
2020年12月12日(土)~2021年1月31日(日)
【休館日】
火曜日(祝日の場合は翌日)
年末年始(12月29日~1月3日)
【開館時間】
9:00~17:00(最終入場は16:30まで)
【当日券】
一般:800円
高校・大学生:300円
小・中学生:200円
【詳細】
https://www.santomyuze.com/museumevent/ehonten_2020/

▶︎あとがき

楽しすぎて、またしてもラブレターを綴ってしまいました。サントミューゼ、恐ろしい子…!ここまで書くと依頼されてるのでは!?みたいなことを思われそうですが、そんなことはなく、勝手に、一方的にこの楽しさをたくさんの人に知って欲しい!という気持ちの昂りが筆を走らせました。もしよければ一通目のラブレターも読んでください。そしてサントミューゼへ、ぜひ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?