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002|したためる

《 あなたに" 手紙 "を送ります 》

劇壇百羊箱新作公演『貴婦人と泥棒』では公演のDMをお手紙として送るという企画を行っている。これは作・演出を担当している岸さんが神戸出身ということもあり、長野に来てからお世話になった方々に公演のことを手紙で知らせたいとの想いから生まれた企画だ。シックな色味の便箋には、フライヤーと同じく大きな川が流れ、封筒には主人公とタイトルが描かれている。デザインはフライヤーと同じく夜ノ帳社さん。この『貴婦人と泥棒』オリジナルレターセットを用いて、出演者およびスタッフが手紙を送りたい人あるいは手紙を受け取りたい人に想いをしたためる。

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1月16日(土)@犀の角
しばしの冬季休業に入った犀の角に集う出演者たち。A3の紙に印刷された封筒を切り出し、形作っていく。最初こそ会話が聞こえてきたものの、いつしか黙々と作業をする面々。気が付くと犀の角にはじゃきじゃきじゃきと、紙にハサミを入れる小気味の良い音が響き渡っていた。それぞれの切り方を見てみると各々の性格が出ていて興味深い。一筆書きのように切る人、大まかな部分を切ってから細部を切る人、座って切る人、立ったまま切る人。切り方ひとつ取ってもバラバラだ。このバラバラな個性が、芝居を通してどのように結びつき、ぶつかり、あるいは織りなされていくのだろうか。そんな事をぼんやり考えていると腹の虫が盛大に鳴った。

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(立ったまま封筒を切り出す永峯克将さん)

昼休憩。事前に送られてきた予定に「永峯くん、コーヒーを淹れる」とあった。“永峯くん”とは、今回主演を務める永峯克将(ながみね かつまさ)さんのことだ。コーヒーを淹れることが予定に組まれてるとは、永峯さんはコーヒーを淹れるのが得意なのだろうかと思ったが蓋を開けてみたら違った。寺ちゃんこと寺下雅二 (てらした もとかず)さんにコーヒーの淹れ方を教わる永峯さん。あれ?と思ってそばにいたプロデューサーの茶色さんに聞いてみる。なんでも、永峯さんと寺下さんの関係性を深めるためだそう。コーヒーの淹れ方を教え、教わることが2人の演じる役に活かされるかもしれない。私の目には何気ない風景として映ることも、芝居に繋がっていると知り、心の中で少し目を丸くした。永峯さんが初めて淹れたというコーヒーは、酸味が効いていた。丁寧に淹れ方を教えていた寺下さんも「美味しい」と声をかけていて微笑ましく思った。

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ナガミネコーヒーでホッと一息ついた出演者たちは、ゆるやかに作業へと戻っていく。封筒をある程度作り終えた人は、送りたい人をリスト化し、便箋に想いをしたためていく。あちこちから「名字…あれ、あの人名字なんだっけ…」「住所を聞いても大丈夫かな…」「手紙、何て書こう?」という声が漏れ聞こえてくる。その様子に私はたまらなく嬉しくなった。手紙を書くことを通して出演者ひとりひとりが“誰か”に想いを馳せているからだ。手紙を書いている間、書き手は受け取る人のことだけを考える。人がひとを想う様子はとても尊い。そして心を込めて言葉を紡ぐ姿は素敵だ。その姿をこの目で見ることが出来ただけでも、手紙好きとして嬉しいことこの上なしだ。

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(手紙をしたためる若月彩音さん)

私は、出演者一同が心を込めてしたためた手紙を、この稽古場レポートを読むあなたにはぜひ受け取って欲しいと思う。実際に公演に行けるかどうかは問わない。あなたを想って綴られた言葉と「上演以外の時間もできるだけ楽しませたい」という作・演出の岸さんの心を受け取って欲しいのだ。というわけで手紙を受け取ってくださる方は、下記からご一報を。

本日の一言
「ポケモンのBGMのジャズアレンジです」by 永峯さん
(聞いたことあるような無いような不思議な作業用BGMだと思っていたらポケモンだった)

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新作公演『貴婦人と泥棒』
【作・演出】岸亜弓
【出演】永峯克将|寺下雅二|若月彩音|田村美央|舞沢智子|石榑八真斗|山﨑到子
【会場】犀の角
【スケジュール】
2021年2月27日(土)14時/19時
2月28日(日)11時/16時
※各回開場は開演の30分前
【物語】
家事代行スタッフとして働きはじめたユキは、とある老婦人の家へと派遣されることになる。はじめは彼女の要求が理解できず苦労するユキであったが、次第に心を通わせていく。そんな中、友人であり同僚のアサヒから驚くべき事実が告げられるのであった――

新作公演『貴婦人と泥棒』について詳しくはこちらから


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