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005|流れる

この連載を読んでくださってる方にはお馴染みの『貴婦人と泥棒』のチラシ。今回はこの素敵なチラシを作成された夜ノ帳社さんについて綴ろうと思う。

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1月16日(土)犀の角(カフェ)

『貴婦人と泥棒』の顔合わせから3日後。プロデューサーの茶色さんにセッティングしてもらい、夜ノ帳社さんにお話を伺った。夜ノ帳社さんはイラストレーターのmiuroさんとリサーチ担当の藤澤智徳(ふじさわ とものり)さんの2人によるアート&クラフトユニットだ。miuroさんは東京在住のため、この日はオンラインでのインタビューとなった。夜ノ帳社さんは『貴婦人と泥棒』のチラシの他に、犀の角のオンラインショップ『犀角商店』にて販売されている厄除ワッペンブローチもデザインしている。

夜ノ帳社さんの作品作りは、藤澤さんがリサーチを行い、そこからmiuroさんがアンテナに引っかかったものを取り入れながら作り上げていく。リサーチにかかる時間は作品によって異なるようで、今回の『貴婦人と泥棒』では約20日間ほどかけたそうだ。なるべくmiuroさんが手を動かしやすいモチーフ、そして作品とは関係ないものもリサーチするという。岸さんへのインタビューの中で「流れ着いて」という言葉が印象に残り、「川」というモチーフを中心に置いたそうだ。当初はチラシの中で1つの風景を描こうと試みたが、「絵巻物」や「時間の経過」というアイディアを取り入れながら今の形になったという。「川も時間も“流れる”」と話す藤澤さん。川上には岸さんの故郷・神戸の街並み、川下には上田の景色。川を漂う主人公の服装も流れに合わせて変化している。たった1枚のチラシ。しかし、その中身をじっくり見てみると時間や場所が異なる風景が盛り込まれていた。ちなみにチラシの裏面にも川が流れており、表と裏、2枚のチラシを縦に並べると1つの川になるのでぜひ試してほしい。

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(藤澤智徳さん/撮影:伊東昌恒さん)

チラシができ、そしてレターセットも生まれた。すでにレポートでも書かせてもらった『貴婦人と泥棒』のお手紙企画。その手紙に用いられているレターセットも夜ノ帳社さんのデザインだ。チラシの裏面を流れる川には岸さんの言葉が綴られている。この「川に言葉が綴られる」というイメージを便箋にも残し、罫線の部分が波となった。チラシを流れる川には岸さんの想い、便箋を流れる川には役者陣の想いがそれぞれ綴られ、少しずつ人の手に渡っている。繰り返しになるが私は多くの人にこの手紙を受け取ってほしいと思っている。まだまだ手紙の受取人を募集しているので、こちらからぜひご応募を。(締め切りは2月14日まで)

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岸さんに完成したチラシについての感想を聞いてみると「チラシが素敵だからプレッシャーも感じている」とはにかんだ。依頼時にはまだ台本が書き上がっていなかったようで、完成されたチラシを見て「このチラシを持って来てくれるお客さんをどう裏切ろうか」と考えたそうだ。デザインしたチラシが台本に影響を与えていると知ったmiuroさん‪もまた嬉しそうだった。他の舞台のチラシを作成した時は、有名な戯曲など既に台本がある状態での作成が多かったそうで「今までだったらあり得なかったこと。(チラシが台本に)作用しているのなら、こんなに光栄なことはない」と語っていた。藤澤さんも「チラシの反響が良くて嬉しい」と喜びをあらわにした。ただその反響は東京にいるmiuroさんにはダイレクトに届かず、藤澤さんを経由して聞くばかりで「東京で作ったものが、長野で動いているのが不思議な感じ」と笑っていた。

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(画面左:miuroさん/撮影:伊東昌恒さん)

「今回は夜ノ帳的」と語るmiuroさん。夜ノ帳社さんは個人の記憶や生い立ちを形にすることが多いそうだ。『貴婦人と泥棒』においてもリサーチ担当の藤澤さんが岸さんの過去作全ての台本を読み込み、咀嚼してイラスト担当のmiuroさんに伝えた。そこからmiuroさんが感じ取ったものをイラストに落とし込んでいく。丁寧な取材と素敵な感性から生み出されたチラシは「自分が舞台を作るときに持っている世界観にすごくしっくり来た」という岸さんの言葉を引き出した。改めてチラシを確認すると、自分が見ているようで見ていなかったことに気付く。流れによって変化する川のグラデーションや散りばめられた登場人物たち。細部までこだわり抜いて作られたそのチラシがますます愛おしくなった。

本日の一言
「夜ノ帳社さんは、こだわりをたくさん愛情込めてつめてくれる」(茶色さん)

チラシ作りの裏側は夜ノ帳社さんのnoteにも綴られている。ラフから完成までどのようにチラシが出来上がっていくのかがわかる素敵な記事なので、ぜひご一読を。

夜ノ帳社について詳しくはこちらから

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新作公演『貴婦人と泥棒』
【作・演出】岸亜弓
【出演】永峯克将|寺下雅二|若月彩音|田村美央|舞沢智子|石榑八真斗|山﨑到子
【会場】犀の角
【スケジュール】
2021年2月27日(土)14時/19時
2月28日(日)11時/16時
※各回開場は開演の30分前
【物語】
家事代行スタッフとして働きはじめたユキは、とある老婦人の家へと派遣されることになる。はじめは彼女の要求が理解できず苦労するユキであったが、次第に心を通わせていく。そんな中、友人であり同僚のアサヒから驚くべき事実が告げられるのであった――

新作公演『貴婦人と泥棒』について詳しくはこちらから


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