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第1話:小倉袴

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連載1話目についての感想と補足。
物語の世界観、登場人物や大正時代の学生さんルックについても少し語ります。


1話目は10年前のリライト

記念すべき連載1話目の構想は、実は10年ほど前に生まれていました。短篇として何となく書いてみたものの未完のまま放置という、物書きならば誰しも経験があるであろうあの感じです。
ただそのまま眠らせておくのは忍びないなと思い立ち、お化粧をして世に送り出すに至りました。
書き進めるにつれ昔を思い出す、拙いながらも特別な作品となったように思います。

頼りない主人公、小夜

本作の主人公はさる資産家の娘、小夜さよです。好奇心旺盛で世間知らずなお嬢様と、我ながらベタな設定だと思います。
小夜は取り立てて良い子でも悪い子でもない普通の女学生で、登場人物の中でもっともプレーンな性格をしています。その素直さゆえに思想は影響を受けやすく不安定に翻弄されることとなり──という、非常に頼りない性格なのに物語の屋台骨的な役割を担ってしまいました。
大正は15年と束の間の時代ですので、明治に寄るか昭和に寄るかで文化も外観も大きく変わります。小夜は物語の進行役としてあまり個性を出しすぎず、そういった時代の空気を伝えるポジションとして描いていきたいと思っています。

無愛想な幼馴染、恭

大正時代といえば書生さんですよね…!小夜の幼馴染であるたかしについてもお話ししたいと思います。
恭は幼い頃に両親を亡くしており、子供時代から屋敷の離れに住んでいる青年です。小夜の家には学校や学部の異なるたくさんの書生が下宿していて、位置づけとしてはその中の一人となります。
法学部の学生ですが外国語に堪能で、洋書や海外からの手紙の翻訳・代筆などをして下宿先の稼業を手伝っています。
つまり小夜父のお気に入りの書生さんなのですね。
性格は淡々として無愛想ですが、けして小夜を嫌っているわけではありません。誰にでも等しく無愛想。恭はそういうコンセプトで書いています。

舞台を東京にした理由

恭の通う大学は帝国大学、今でいうところの東大です。これは物語の舞台を東京に設定するためのギミックとして決めました。メタな話になってしまいますが、大正時代はその短さゆえか資料が圧倒的に少なく、多くは東京についてのもののためです。
もっと時代について詳しくなれたら、ぜひ地方を舞台に明治〜昭和初期のお話を書いてみたいですね。

時代の象徴 書生さんルック

書生さんといえば、学帽+詰襟シャツ+羽織袴というまさに明治大正の和洋折衷ファッションをイメージしますよね。
初回の連載では恭、都司つじくん、謎の学生の3人が登場しました。字数の都合上あまり細分化できなかったのが悔やまれますが、恭と謎の学生さんは袴の柄が異なる描写を入れています。
恭は盲縞めくらじまという、紺色に間隔の狭いシャドウストライプが入ったような地味なデザイン。木綿の平織で作務衣とかの普段着っぽい感じです。さしずめ現代ならデニムのような位置付けでしょうか。

一方謎の学生は小倉袴こくらばかまという小倉織で作られた、大胆なストライプのオーソドックスなデザイン。一般的な書生さんルックです。この小倉織は縦織の繊維が強く破れにくいので『武士の袴は小倉にかぎる』の文句で有名でもありますね。
機能性重視の恭の性格を際立たせたく、わざわざ固有名詞を使用しました。気づく人などそういらっしゃらないとは思いますが良いのです。満足。

連載は一話あたり3000字程度との制約があり割愛しましたが、小夜の女学生ルック(海老茶袴のはいからさんイメージ)や都司くんの服装についても書きたかったです。
あまりファッションに興味がなく食客の身分である恭は高下駄を履いていますが、都司くんは『洋装好きなお洒落さん』で大店のお坊ちゃんなので靴を履いていてほしいなぁなどと思ったり。いつか先の連載で活かす日はくるのでしょうか…

今回はちょっと細かいお話でした。別に私だけ把握していればよいのですが、副読本のような形でこちらもお読みいただけたらうれしいです。
2話目めも引き続きお楽しみくださいませ。
ご精読ありがとうございました!


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