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アフターコロナが見えてきて、顕在化してきたこと。

去る2020年9月28日、「"欧州の知性”ジャック・アタリ氏、ウィズ・コロナ時代の"街・人・世界”を読み解く」と題した国際シンポジウムがオンラインで開催された。聴講者は当初の定員予定1,000名を大幅に超える4,200名。大盛況の中、コロナ時代を経て社会や経済はどう変わっていくのか、「自国優先主義」が幅を利かせる時代に感染症などの課題にどう立ち向うべきなのかについて、ジャック・アタリが語ったトークイベントだ。

半年が経ち、東日本大震災から10年を経た今、いよいよアフターコロナが意識され初めて来たところで改めて読み直してみたい。

ジャック・アタリは1943年11月1日生まれで、“欧州の知性”とも称されるフランスの思想家・経済学者。10年間フランスのミッテラン大統領の元で特別顧問を務め、80冊以上の著書は総発行部数1000万部を超えている。

アフターコロナはエンタメ企業の良心に掛かっている

冒頭アタリは、「今回のコロナ渦によって人生が短いことを思い知らされた」と言う。そして、娯楽産業(具体的にはGAFA:Google、Amazon、Facebook、Appleら巨大IT企業を指す)は、人が死への恐怖を感じることなく日々楽しく暮らすために発達し、「大切な時間(人生)と引き換えに自らの痕跡を世に残すために存在した」と断じた。

一方で、コロナ渦によってもたらされたリモート化は、AIアプリと創り出す企業にますます大きな権力を与えることになると言う。そして、人々が集団への帰属意識をなくしてしまう危険があると警告する。

このトークイベントが開催されたのは、トランプ政権真っ只中。当時顕在化していた極端な個人主義は、まさにそれだった。これを改め、命の選別を政治的に行うことも避けなければならないと説く。具体的には、世界的な高齢化により、支配的な有権者となった高齢者に有利な政策がまかり通ってきたが、これからは、彼らの年金を直接・間接に支える若い世代を利する“利他主義”へと移行していくべきだと述べていた。

大切なことは、新しい価値観や新しい脅威に不意を突かれないよう、予め備えておくこと。そして、資本主義の下で個人主義が極端に進んだ“自分ファースト”の価値観が支配したことでパンデミックになった、1919年に学ぶこと。つまり、他者が健康・幸福でいることが、結果として、自分も守られると皆が理解する“合理的な利他主義”が重要だと気づくべきだという。地球環境問題も関わってくる。

こうした論調は、コロナ渦が広まる以前からアタリが指摘していたこと。コロナ渦は、すでに起こっていたことを顕在化させただけだとも言えるだろう。しかも幸いなことに、日本人は、他人への思いやりの心は持ち合わせている。バイデン政権に移行し、流れはアタリの言うような方向性へと移行している。

アフターコロナ「命の経済」

彼は、アフターコロナの時代に重視すべきなのは、「命の経済」だという。具体的には、医療産業全般がそれで、製薬、人工装具などの分野にGAFAら大企業は注力していくべきだと説く。

この点アタリは、「パンデミック後に独裁者が現れ、残虐行為につながった1919年のような事態を避けなければならない」として、民主主義、透明性、真実が機能する社会、報道の自由と市民の安全も「命の経済」の一環であると捉えている。

その意味でも、GAFAら巨大ITメディアは、単なる娯楽産業であるだけでなく、社会の良心としても重要な存在のはず。そして、娯楽は単なる一時しのぎの快楽ではなく、精神的に辛いときにこそ人を諭し、励ますものだと日本人は知っている。

実際、東日本大震災のときも、津波の被害を受けて毎日コンビニのおにぎりを食べて過ごす中、求めたのは好きな音楽を聴くためのCDラジカセだったし、リモートでもコミュニケーションが取れるだけで地理的・経済的な分断は回避可能だ。

「ワクチンができパンデミックが終わると、前のような生活に“戻る”と考えているなら、それは間違いだ。今回のコロナ渦の影響はすぐには収束しない」と語るアタリ。否応なしにメディアエンターテインメントとリモートコミュニケーションの時代になるということ、そして、そんな世の中を生き抜くには、メディアの良心と命の経済、私たちひとりひとりの利他主義が重要だということに気づければ、このコロナ渦もある程度はポジティブに捉えられる、と言う。

そういった視点で映画作品を眺めると、ヨーロッパ各国の問題意識や、巨大ITメディアを中心としたエンタメ業界の動きもまた違って見えるのではないだろうか。

このあたりは、「命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる」に詳しい。


いい音&大画面があることで日々の暮らしが豊かに。住宅というハコ、インテリアという見た目だけでない、ちょっとコダワリ派の肌が合う人たち同士が集まる暮らし方を考えていきたいと思っています。