浮遊体 Studio Demos

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ハードコアパンク文芸同人サークル"浮遊体"のWeb版 虫田痼痾とオオヤケアキヒロによる作品集 現在活動休止中

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「浮遊体」とは! 虫田痼痾

いきなりだが個人的な見解を言わせてもらうと、今の日本で「小説」を書けない人はいない。そもそも小説とは文芸において随筆でなく戯曲でなく詩でもない後発的なジャンルを示すものであり、物凄く乱暴に言ってしまえばルールのない文章作品=小説と捉えることができる。もちろんこれまで小説論なるものは多く交わされてきたし、読み手を意識した物語論及び構造論的な作法があるのも事実である。だが、そういったものを無視して尚成り立つのが小説でもある。叙事詩オデュッセイアとの対応関係を重視したジェイムス・ジ

    • Track 08.『Dry Ice』/オオヤケアキヒロ

      森の中に壁が数片残っているだけの、もはや廃墟とも言えないような空間にある地下室の隠し扉を降りた先に不思議な空間がある。 噂だとここはホテルだったらしいが、特に曰く付きという話を聞いたこともない。 しかし、今、僕が椅子に座っている地下室は何度来ても妙だ。 意外なほどに天井が高く、真ん中に長めの食卓が設置されたこの空間は、左の壁には古い書物が本棚がびっしり、反対側にはワインラックと食器棚が置かれ、奥にある暖炉の傍にはラッパ付きの古めかしい蓄音器が置かれ、前に敷かれた赤い絨毯も相ま

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      • Bonus Track.『Friends&Me』/オオヤケアキヒロ

        “久しぶり、本当に久しぶりだな。いつ帰ってきたんだよ? 積もる話もあるけどまずは一杯やろうぜ。 みんなお前に会いたがってたよ、今何してるのかずっと気にしてるよ。 たまにはグループに一言入れてやれよ。 ・・・こうやってグラスが鳴るとさ、静かに何か始まったような気がするよな。俺だけ? それで今お前、仕事何してるの? ・・・へぇ、いいじゃんいいじゃん、頑張ってるじゃん。 ああ、俺?俺は大したことしてないよ。 そういや、まだギター弾いてるの?最近何聴いてる? そうい

        • Track 07.『とある魔法』/オオヤケアキヒロ

          暑い夏の夕方、空が真っ赤に焼けていた。 蝉の声と肌を剥がしにかかるような暑さにうんざりしていた。 夏生まれだからか体に刺さる灼熱は嫌いではない。 が、生理的に疲れて来るのはしょうがない。 とはいえ、まだ少しだけ家路に強く香る夏の息吹を愉しむ余裕はあったが、それでも帰ってすぐにシャワーを浴びてニプシー・ハッスルを聴きたかったし、実際にそうした。 そう言えば、俺がニプシーを聴くようになったのは、彼が自分の店の前で撃ち殺された後の話だ。 冷水を浴びていると、体を撫でられる感覚が

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        「浮遊体」とは! 虫田痼痾

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          Track 06.『Endless Humiliation』/虫田痼痾

          自分の中に何かがいる。そんな奇妙な感覚を覚える。しかしそれを文字通りに捉えられては困る。多重人格だの分裂症だのといったクールなものじゃない。端的に言えばただ"決められない"のだ。"すべきこと"と"やりたいこと"は生活において必ずしも一致しない。しかしそこは折り合いを付けねばならないことであり、それがポリス的動物というものである。しかし今の私にとってその舵取りは困難を極める。自分の中のいるある面は"やれ"と言い、別のある面は"やりたくない"と言って譲らない。親と子の言い合いのよ

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          Track 06.『Endless Humiliation』/虫田痼痾

          愛は見えるカタチで/オオヤケアキヒロ

          動画で見たに過ぎないのだが、いつかの凱旋MCバトルでの呂布カルマがMU-TONに勝って優勝した後に 「愛を現金に見せてくれよ」  と物販の告知をしていた。 呂布カルマはなかなか歯に衣を着せない、時として突飛な発言がちょくちょくあり、小さく反発が集まる事もあるのだが、意外と大ごとにはならない。 実際のところ正論が多い事もあるが、何より楽曲やMCバトルで発言する内容も含めて本人が堂々としていることが大きいと思うし、その上でヒップホップのファンから見るとそれどうなの?と思われそう

          愛は見えるカタチで/オオヤケアキヒロ

          夢見る自由、堕落の権利

          夢のない時代。今の日本はまさにそんな時代だ。 子供は夢を見るもの。それは今も昔も大差はないだろう。子供が夢を持てる社会を、それはいつの時代でも掲げられる目標だ。しかしそんな標語はもう聞き飽きた。考えてみれば、子供に夢を見させるのは簡単なことである。ひと握りの成功者をメディアが祭り上げ、こういう人になるにはどうしたらいいかという話題を広め、最後に誰にでも彼、彼女のようになれるチャンスはあると甘言をまぶせば完成である。さらに現代にはネットがある。これは大人子供に限らずだが、他人に

          夢見る自由、堕落の権利

          Track 05.『CD-MM』/オオヤケアキヒロ

           行きては戻る旅、歩き続ける道中。 ここの所雨ばかり降るから、最近ずっとアノラックを着ている。傘を刺さないのは手が塞がるから。 白のシエラに乗る時でも、備えとしてバックパックに丸めて入れてある。気づけば同じような服が幾つかクローゼットに並んでいる。 ここの所、会う奴みんなが項垂れて座り込んでいる。雨宿りしようよと言って手を差し伸べても、握り返さずに濡れてしまったことを悲しんでいるか雨が降ることを呪っているばかりで埒が開かない。溺れてしまうんじゃないかと心配になる程ずぶ濡れの奴

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          Track 05.『CD-MM』/オオヤケアキヒロ

          Track 04.『社会復帰』/虫田痼痾

          今日も体が動かない。 理由。そんなものは知らない。何につけてもやる気が起きない。上体を起こし、褥から背中を引き剥がすのさえ一苦労だ。腹の調子も良くない。内臓にも怠惰が充満しているのだろうか。息が苦しい気がする。肺が膨らまない。深く吸い込んだはずの空気さえ、気道の途中で外へとそそくさと引き返していく。脳ももちろんのことだ。正気ではないのだろう。脳は人間の中枢だ。その脳が体を指揮することを放棄している。いつからだ。もう忘れた。というよりは、グラデーションを描いて徐々に徐々に私は堕

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          Track 04.『社会復帰』/虫田痼痾

          「アートに勝負論はあるかないか」/オオヤケアキヒロ

           折角のエッセイの場なので、というよりは小説に於いても本当はもっとカジュアルでユーモアがある事を書きたい。何せ僕自身がハードボイルドな人間ではないので、常にシリアスぶった事ばかり書いていても嘘っぽい気がするからだ。 しかし、有難いことにそうも言っていられない状況が続いている。題材探しも兼ねて聴いている音楽も、魂を削った真摯な作品に触れるとやはり熱量と真剣さが伝わる物が素晴らしいし、僕程度のキャリアと実力ではまだまだ置きに行ったような文章に味は出ないからだ。 初期衝動やシリアス

          「アートに勝負論はあるかないか」/オオヤケアキヒロ

          Playlist#2021

          Track1 Track2 Track3 Track4 Track5 Track6 Track7 Track8

          Track 03.『雲から一歩』/オオヤケアキヒロ

          Yeah,yeah.初めに言葉ありき。メロディ、ラップ、スクリーム、すべては等しく音に合わせて話すのが始まり。初めて歌うかい?なら、上手い下手や小手先のメロディを追いかけない。始めて惚れた子の肢体を求めるが如く激しい愛は隠さない、しかし同時にダンスを踊る様に優雅にマナーを持って揺れるが良い、さすれば喉は開かれん、違うかい?  …急速に、だが意図した通りにGigi Masinの『Clouds』が解像度を落としながら遠ざかる。 ヘッドホンを外し、何度も書き直しを経て漸く並んだ詩

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          Track 03.『雲から一歩』/オオヤケアキヒロ

          「無題無力」 虫田痼痾

          唐突だが私は三島由紀夫があまり好きじゃない。 三島は「国家防衛論」の中で"パワーレス"を気取ることを止めろと書いている。彼が言わんとすることが分からないわけではない。社会に生きる上で、現代はパワーレスを気取ることで様々な振る舞いの免罪符となることが多い。それはいわゆる新左翼運動が標榜する立場とも重なり、自然な成り行きのようであって、実は人々は作為的に自分にとって都合の良い立場を演じているのかもしれない。弱者が強者を虐げるという構図はすでにニーチェが考察していた通りだが、まさに

          「無題無力」 虫田痼痾

          Track 02.『少年の詩』 虫田痼痾

          心の靄が晴れない。 日々の苛立ちはどうしようもないほどに些細なことだ。しかし指先に刺さった棘がやがては肉を腐らすように、瑣末な悩みが心を腐らせていく。 目下、私を悩ませているのは蝿だ。本格的な暑さも過ぎ去ったから大丈夫だろうと油断した。気がつけば台所を、あの鬱陶しい小虫どもが飛び回っていた。台所に、といえばいかにも平気そうに聞こえるが、ワンルームの一室においてはそこはリビングでもあり寝室でもある。つまりは自宅での生活の大半を奴らと共に過ごすこととなるのである。 蝿取り紙。殺虫

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          Track 02.『少年の詩』 虫田痼痾

          ハードルは上げてくぜってハナシ/オオヤケアキヒロ

           どうすればカッコ良く生きることができるだろうか? 30歳を超えてからずっとそれをテーマにしている。音楽、映画、小説、何でも新しい風を常に感じる事、格闘技をやり続ける事、そして言葉を紡ぎ続ける事、全てはその為である。とは言え、それが全てただのファッションで終わるのであれば、今すぐ辞めるべきだ思っている。カッコ良いとはそういうことでは無い筈だ。 カッコ良いとはどういう事だろうか、そもそもは超が付くほどの個人的な領域だ。それと同時に、生きていれば試される事になる事だと思う。であれ

          ハードルは上げてくぜってハナシ/オオヤケアキヒロ

          Track 01.『落雷』/オオヤケアキヒロ

           しとしとと霧のような雨が降る、寒い寒い冬の日だった。どうしようもなく煮詰まって、逃げ込む様に部屋へと戻ってきた。 謂われのない罵声と叱責ばかりを突き付けられ、それをポーズだけの仕事しか出来ない馬鹿が陰で笑っているよ、とまた別の馬鹿からありがた迷惑なチクりを押しつけられ、やりたい事とやるべき事のギャップが埋まらない日々を 「もっと真面目にやれよ」  なんて言うふうに頭ごなしに罵倒された、夜勤明けの景色が霞んで霞んで仕方ない昼前。 銀行の手続きが印鑑の朱肉が滲むだとかで一週間ぶ

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          Track 01.『落雷』/オオヤケアキヒロ