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RUNNN!


昼間の喫茶店。
タバコの煙はゆっくり立ち上る



「心配しなくても、歳はとるから」

父さんは笑いながら言った。
なぜそんなことを言われたのか、すぐには分からなかった。

「心配しなくてもさ、みんな同じように歳を取る。だから、生き急ぐな。今すぐ全てを手に入れようとするな。」

酒の席でもないのに、いやに熱っぽい話にオレは驚いた。

「…そんな風に見える?」

握り慣れたビールジョッキのかわりに、コーヒーカップを持ち上げ、熱いコーヒーをすする。
父さんは久しぶりに帰省したオレを、近所の古い喫茶店へ誘った。
もうずいぶん前から酒は飲まないようになったらしい。

「そうだよなぁ、オレもお前ぐらいのときは焦ってばっかりだったよ。早く何かにならなきゃってな。青臭いけど、懐かしいな。ただな、せいては事をし損じる、だぞ。」

…そっか、オレ、焦ってたのか。
言葉にされると、それは自然と肌に染みていった。
空回りしてばかりの自分が負に落ちた。

父親というのは、なぜこういう時だけちゃんと眩しく見えるんだろう。
オレが歩く道の先に父さんがいる気がした。
オレの歩いている道は若かりし頃父さんが歩んだ道なのかもしれない。


「まだまだ長いからな。息切れするなよ」

頑張れよ、といわれるよりも、背中を押された。自分がいかに目の前のことばかりで汲々としていたか。
急に目の前に広大な平原が広がったかのような気がした。

理解されている、と思った。
そのことがこんなに心強いなんて、知らなかった。


何も言えなくて、またコーヒーをすすった。



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