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サンダルを洗うと、夏が来る


日差しが少しずつ強くなってきた。
白い光線が眩しい。先週、衣替えをした。


家に着いた瞬間、汗がドバッと吹き出す。

「冷房、冷房」

エアコンのスイッチをつけると、風量を一気に「強」に切り替える。

「あちーっ」

ソファにグデンと座り込んで、やっと一息ついた。

「もう〜、だから日傘に入りなっていったのに」

そう言いながら、アイスコーヒーの入ったグラスを持ってきてくれたのは、俺の妻だ。
妻になってから3年。陽菜子は相変わらずキレイだった。

「あんなちっちゃい傘に2人も入れないよ」
「だけど、ちょっと影があるだけでも楽なのに」

彼女を気遣ったつもりが、不服そうに口を尖らせる。
『私の言うことが信じられないの?』というところだろう。


カランッ


グラフの中で氷が音を立て、陽菜子が俺の隣に座る。
まっすぐな髪が妻の肩をサラサラと流れていく。
結婚生活が積み重なっても、こんなことがあるのだろうか?というぐらい俺たちは恋人同士だった。
陽菜子が、可愛くて仕方ない。

冷房が効いてきて、アイスコーヒーも手伝ってか、少しずつ汗が引き始めた。

「あ、サンダル洗わなきゃな…」

思い出してつぶやく。

「サンダル?去年の?」

陽菜子は不思議そうに聞く。
さらさらととした白い肌の彼女には無縁のことなのだろう。

「うん、昨日はこうと思ったら、すごい臭くて…」
「あははっ。なるほどね、素足で履くもんね」

俺の汗っかきは生まれてからずっとだ。
ワンシーズン使い続けたサンダルは、その間1度も洗わなかったこともあって異臭を放っていた。

「くそぉ、めんどくさいな」

夏は好きだけど、すぐ動くだけで汗が出る。
サンダルをゴシゴシ洗っていてもきっとまた汗だくになるのだろう。

「洗ったら、夏がくるよ」

不意に、確信めいたように陽菜子が言った。

「え?」

「サンダルを洗ったら、本当の夏がくる。楽しいことがどんどん始まるよ。夏本番。ね、そう思ったら、早く洗おうって思ったでしょ?」

陽菜子が笑うと、また長い髪がサラサラと流れる。

彼女がいるから世界はこんなに明るく愛おしい。
夏がこなくても、この太陽がずっと隣で輝いていればそれでいい。




【お知らせ】
noteに加えて「カクヨム」での連載をはじめました。
noteでは「#les_petite_histoires」というタグでワンシーン小説を書いてきましたが、「カクヨム」の方では初めから終わりまで一つの小説になっているものを書いていこうと思っています。
よければ、こちらも覗いてみてください✿

noteの使い方は思案中です・・・
使い分けが難しい。


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