あなたが、あなたじゃなかったら
「それで?相手はどんな人なの?」
私は冷静に、冷たく、聞いた。
まさか、自分の彼氏が浮気するなんて。
まだ信じられない気持ちだった。
まさとは、そういうタイプの男性じゃない。
「…大人しい人で、おっとりした人だよ」
私の様子を気にしながら、ゆっくり言葉を紡いだ。
彼は自分の行動を弁解することなく、浮気の原因を一つも彼女のせいにしていない。
そういうところが、ちゃんと彼の愛し方で、悔しくて辛かった。
優しさも、笑顔も、他愛のない話も、そして欲望も、全部自分1人のものじゃなかったんだと、たったの10分でわかってしまった。
私は、悲しみを悟られないよう、目一杯イラだってみせた。
浮気の罪の重さについては人それぞれ考え方があるのだと思う。
でも、こんなのは、十分私の心を殺しているじゃないか。
絶対にこの気持ちだけは教えてやるものかと思った。
いつも正面から私と向き合って、いつの間にか本当の気持ちを引き出してくれるところが好きだった。
でも、この気持ちだけは、絶対に教えない。
この決心が、2人の決別を決定的なものにするとしても。
それくらい、本当に私、彼が好きだった。
生まれてからまだ一度も使ったことのない、愛しているという言葉を、使ってもいいと思えるくらいに。
だけどもう、彼の愛が偽物だったというなら、私の愛も偽物になってしまえばいいのに。
私の愛したあなたが、今のあなたと同一人物であることが苦しい。
あーぁ、どうしてあなたは、あなたなの?
そんな女とは縁を切って、私を愛するって誓ってよ。
そしたら私は、今すぐ見栄もプライドも捨てて、もう一度、その胸に飛び込んでいけるのに。
そんなことは全部、心の中で呟いた。
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