お節介すぎる学校制度が人々を幸福から遠ざけてきた~『冒険の書』孫泰蔵〜

本書は冒頭に現代の学校教育制度ができるまでを追い、どうして学校の勉強がつまらないのか?という問いに答えようとしている。そして、全体として学校教育の必要性に疑問を持つことの重要性を読者に投げかけている。「答えようとするな、むしろ問え。」というカバー見返しに書かれた2行の箴言に従い、学校教育に対して持つ著者自身の問いに答える形で構成されている。

どうして、学校の勉強がつまらないのか? 僕にはその答えは明らかだ。それに、学校教育はいまや、言葉通りの無用の長物になってしまったと考えている。しかし、曲がった方向に進むしかない我が国の制度の上では著者の答えを受け入れる余地はないと思う。そうだ、著者の考えに同意する人は多いはずだ。そして形式だけは真似る事ができると、政治家も、役人も、現場の教員も考えるのだが、特にこの日本においてはそれはなし得ないということになる。なぜ、そう言えるのだろうか? それは勉強はできる「いい子ちゃん」達が、設計主義であり、世話を焼きすぎるからだ。自分たちのコピー人間が増えれば、社会が良くなると勘違いしているのだ。

最近(2023年8月)日大アメフト部に所属する学生が、大麻及び覚醒剤を所持していた疑いでマスコミを賑わせた。また、それを大学が隠蔽したのでは? という視点からも世間の耳目を集めている。

僕の問いはこうだ。大学の隠蔽なんてどうでも良い。むしろ、どうして個人的な犯罪行為に大学が関与するのか? しなければいけないものなのか? そして、これは日本特有の取り上げ方なのか? この問いの立て方自体が実は答えの方向性を縛ってしまうのだが、学校教育制度のあり方を問う場合はこの観点から問うてみたいと思う。

我が国の教育の現場では、そこに通う生徒、学生と、教師を中心とした学校組織、教育委員会、文科省が一体物であるかのような意識が強い。家族単位でみたときと同じ具合に「ムラ社会」への所属意識で考える。学校への所属、地域への所属、勤務先への所属といった各種ムラ社会の秩序に対してどのような影響を与えるか、といった視点で個人の行動が捉えられるのだ。

一人の生き様を見るとき「自分なりの人生をどのように生きたのか」それしか、一人ひとりに与えられた人生の意味はない。そして家族がどのようにそれを受け入れるのか、社会がそれをどのように受け入れたのかといったことが、社会的存在として「後世に何を遺すか」という、人生最大の問いに繋がっていくと考える。著者は「後世に何を遺すか」を本書末で強調しているが、僕は違う。まず、自分がどのように生きるのか、を中心に考えたい。

我が国の学校は何もかも準備しすぎるのだ。それも「生徒、学生のために」といった、いらぬお節介で。クレヨンセット、リコーダー、裁縫セット、書道セット、制服、宿題、定期試験などなど。こんなことをすべての生徒が同じように取り組むことは、全く必要ないのだ。それらの準備された平等な結末への設計図は、絵に描いた餅であり、その一人ひとりの人生において全く関与しないものなのだ。全て無駄である。

それら無駄な設計図は、設計図通りに人を作ろうとする仕事をしている人にだけ重要なものだ。それらの人の工作趣味の満足のためになぜ多くの人がそれに従わないとして非難されなければわならないのか? 

『冒険の書』というタイトルは希望をくすぐるが、悲しいかな、我が国では観念論で終わってしまう。本書をこき下ろすつもりはない。むしろ、学校教育の不毛さがよく理解できるよう、構成されている。本書は教育を職業とする人が読むべきだ。教育者が新しい時代を作る人間への理解をしないと、天才を潰してしまうからだ。少なくとも、設計主義的に全ての若者を平等に教育しようとすることはやめたほうがいいからだ。

まず、新しい時代を作る少数の天才は学校の勉強ができる、できないに依存しない人であることは間違いない。だから、本書を読んだ天才でない若者がこの思想を頼りに生きていくことは危険であり、お勧めしない。そのような凡人にとっては本書は悪書になってしまう。

本書を読んで次代に何を遺すかということを考えた場合、現状の平等主義教育はやめよう。そして、個人の感性に関する教育科目はなくそう。制服や体操着は廃止しよう。少なくとも、不要な教科をなくして、主要教科のみ最低限の時間での学習内容としよう。定期テストを教師が個別で作成するような不合理な体制はなくそう。一定の定期テストを目標に授業内容を構成すれば良いのだ。

現代の学校教育に欠けているものを探すことは必要ない。学校が抱えていることが多すぎる。学校は今おこなっていることを捨てることが大切だ。いま、我が国で不幸を感じている、不幸を感じてきた人々の根本的な問題は、お節介な学校教育制度が生み出したものであることは間違いない。

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