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二次創作『岸本真弓は許さない』 #いぬねこグランプリ

阿賀北ノベルジャム参加作品の有限会社新潟防衛軍県北戦士アガキタイオン』の二次創作を募集する「いぬねこグランプリ」が開催されている。〆切は今日。

参加する気はぜんぜんなかったんだが、ふと思いついてしまったので書くことにした(昨日)。おれはお米が賞品に絡むと無駄に力を注いでしまう。なぜならお米が好きなので。以前もアガキタイオンの作者である日比野心労氏がお米を賞品にして「募集したマイクロノベルをアンソロジーにする」企画をたてたとき、真剣にアンソり、見事優勝してお米をゲットした。

いただいたお米がこちら↓である。

そんなわけで、おれはまたお米企画に参加させてもらう!!!!!!
以下、きっちり2400字だ!! 魚沼産コシヒカリはおれがもらう!!



岸本真弓は許さない


「わたしはアガキタイオンを許さない」と岸本真弓が言った。目は据わっており、片手はグーで、もう一方は食べかけのフライドチキンを掴んでいた。こたつを囲んでいた劇団員たちは酒のまわった頭で、そうなんだ、と思った。岸本真弓は大学生で、劇団に入って日が浅く、劇団員たちはまだ距離感をつかみかねていた。そもそもアガキタイオンというのが何なのか誰もわからなかったが、話の流れが「高校時代の失敗談」だったので、それに関する何かに違いなかった。「ごめん、みなさんご存じないですよね。『県北戦士アガキタイオン』って、新潟ローカルテレビで半年くらい放送されていたご当地ヒーロー番組なんですが」そのとき古株の宇座井譲司が「特撮かぁー」と頬杖をつき、唇をとがらせた。「おれも昔オーディション結構受けたなー。てか『昔からこの番組のファンだったので興奮しています』とか言うやつさあ、嘘つけよって話。ま、おれも? 嘘ついちゃうけど」そう言って、頬杖の親指と人差し指をチュバッと舐めた。岸本は宇座井にウェットティッシュを押しつけて話を続けた。「初めてアガキタイオンを見たのは中学生で、家族旅行で新潟の村上市に行ったときでした。草木染め体験コーナーで流れてたんです、第4話が。たぶん村上市が舞台の話だから」すると宇座井が「おれもオーディション受けたなー、地方のキャンペーン的なやつ」と言い、山川エリザベスが「村上って鮭で有名なとこ?」と言い、ブラザー山田が「そうそう。美味しいよね」と言った。岸本は大きく頷いた。「その村上鮭の養殖を営む親子が、甚大な盗難被害で引っ越しを余儀なくされているところから物語は始まるんですが、海水浴場で観光客がキャッキャしてるところに悪の組織の役員職が神輿に乗って現れて、親子から盗んだ鮭を浜にばらまくシーンで、わたし心鷲掴みにされちゃって」「ごめん情報量が多い。何て?」「盗んだバイクで走り出す~。次の尾崎豊を探せオーディション、昔受けたな~」「うるせえ黙れ。わかりやすい話のときは喋っていいけどわかりにくい話のときは一生黙れ」「オーディション、いっぱい受けていっぱい落ちて大変でしたね」「岸本、その刃はこの場にいる全員殺すからしまっとけ」「なんで鮭ばらまいたの?」「それがですね! 観光客への賄賂と見せかけて、シャチ怪人を召喚するためだったんです!」へ~。と劇団員たちが相槌を打つ。「そのシャチ怪人が浜辺で鮭を食べまくる姿に、わたしほんと感動しちゃって」そうなんだ。と劇団員たちは思った。それぞれこたつに足をつっこんだまま、腕をのばして酒瓶を引き寄せたり、のしイカを食べたり、寝転がってスマホをいじったりした。「ぴちぴち跳ねる鮭に興奮して、砂ごとかぶりついて、ホグホグホグ~って咀嚼する、そのときの顎の動きが躍動感に満ちて、こうっ、こういう感じで、鮭が大好きなんだなぁって。そのシーンが良すぎて、県北戦士アガキタイオンの名が脳に刻まれ……だからわたし、高校の合宿が新潟で、その最中に再放送があるって知って嬉しかった。いくら検索しても3話までしか見つからなかったし、合宿中放送されるのは第5話で、絶対に観たかった。それで同じ部屋の子たちに話したんです、アガキタイオンっていう最高におもしろい番組の再放送があるから日曜の朝にそれを観たいって」「あ~それはあかん前フリ」「オタクはそういうやらかしをする。仕方ない」「それで、へえそんなにおもしろいんだ、それならみんなで観ようよ、って」「もうだめだ」「嫌な予感しかない」「それで次の日の朝、アラーム鳴らしたんです。番組開始5分前に。みんな前日寝るの遅かったから、目覚ました子たち機嫌悪そうで。でも観たかったから『ごめんつけるねー……』ってテレビつけたら、まだ目あいてないのにテレビのほう向いたり、とにかくみんな起きてムスッとしてた。始まったら大丈夫かなって思ってたけど、たぶん予算足りないときのお茶濁し回で……。アガキタイオンたちが突然クイズ番組のパロディを始めて」「きっつ」「観てるこっちは笑いゼロだけど、画面の向こうでは踊ったり油揚げの大きさを競ったりへぎそば食べたり酒飲んだり、笑わせてるつもりのやつで。最後『足掻きまくるぜ! アガキタイオン!』って言って終わった」「うわぁ」「部屋の子みんな目が死んでた。一生懸命言い訳したけど、うんうんわかった、ってまた布団に潜り込んで、でもすぐ起きなくちゃいけなくて……わたしはもう、ほんとにアガキタイオンを許さない」「そら許せんな」「そもそもわたしが好きなのはシャチ。アガキタイオン説教くさいし綺麗事ばかり言うし。シャチは自分に正直で、基本的に鮭を食べたい気持ちしかなかった。確かに盗難鮭だったかもしれない。でもそれは『鮭の怒りと親子の涙』とかいうよくわからん理由でシャケフォームになったアガキタイオンから滅多打ちされるほど悪いこと? そんな怒りとともに新潟にアガキタイオンの聖地巡礼をしていたら、新潟旅行がすでに通算30回になりました」「え、何て?」「岸本今、大学生よね? どんなスパンで通ってんの?」「そのうち新潟で仕事します。県知事とか。もしくはアガキタイオンの悪の首領役」「大好きじゃん」「じゃあ次の舞台はそういうのにするか。オーディションやらなくても決まりだな。岸本の役は」
 そんなわけで岸本真弓は翌年の劇団公演で悪の首領になった。青いアイシャドウで目をつりあげ、ボディスーツに透明の変な布を巻き、正義の味方を打ちのめして高らかに笑った。岸本は劇団在籍中よくそういう役をした。衣裳もメイクもだんだん凝っていき、最終的にはギリシャ神話の目だらけの怪物みたいな格好で台詞をキメた。そのときの経験が、来るべき新潟防衛軍の危機を救うことになるのだが、将来県知事になることも、新潟防衛軍と関わる未来も、岸本真弓はまだ知らない。


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