友達が酔って無くした携帯を救出しに行った話
ブラック企業に勤めていた頃、友達のチアキのお母さんから連絡が来た。
「チアキの携帯が一昨日からタクシー会社にあるらしい。殺し家の彼氏と一緒に住んでるのに共に連絡がつかない。娘が死んでないか心配だ」
何その世にも!奇妙な!物騒な!物語!
なんで?どうしてそうなった?
一昨日から?2日前?あれ?昨日チアキTwitterで美味しい酒ウェーイみたいなの呟いてたな。ちょっと確認したい。
「私とにかく頑張る!」とやる気に満ち溢れた新人のような返事をして電話を切った。
私たちは東京で暮らしていてお母さんは地元の北海道にいる。二十歳超えてるのにめちゃくちゃ親に心配かけてるな。
とりあえずTwitterを見るとやっぱり昨日の夜に酒ウェーイとツイートしてる。
私の推理としては
お酒ウェーイ→タクシーで帰る→タクシーに携帯忘れる→家で寝てる←イマココ
殺し屋の彼氏とは一緒に住んでるけど、たぶん殺し屋も一緒にウェーイして寝てるんだろう。
でももう昼を過ぎてる。そんなに寝る?
いやでも彼女達は飲んだらとことん飲むし
寝たらとことん寝る事を私は知ってる。
酔っ払ったまま風呂に入り、歯磨きをし、
歯ブラシを湯船にぶん投げてそのまま全裸でソファーで寝るのを私は知っている。
私は仕事中なので仕事しつつ、チアキのお母さんとメールした。
[昨日お酒ウェーイみたいなツイートしてたから昨日の夜まで大丈夫!安心してください]ととにかく明るいぬきになって連絡をすると
[お酒を飲んで何か事件に巻き込まれてないといいけど…]と余計に心配させてしまった。
良かれと思ってメールして失敗した。
安心させてあげられないとにかく明るいぬき。
もっと情報が欲しい。
そもそもなんでタクシー会社に携帯があるのをお母さんが知ってるのか聞いてみると
[チアキの友達の整体師がお母さんに連絡しろってタクシーのおじさんに言ったらしい]との事。
整体師……なんでお母さんに連絡なんだよ。
心配かけるだろ!遠く離れた北海道のお母さんに心配かけちゃダメだろ!お母さんに心配はかけないと習わなかったのか?殺し屋に連絡しろよ!などと思いつつ整体師に電話する。
電話に出ると「たまたま連絡取る用事があって電話したらタクシーに忘れてるって言ったからお母さんに連絡して!って言っといた。あいつら大丈夫?」とこっちが知ってる情報しか得られなかった。
進展なし! はい次!
タクシー会社を教えてもらうと私の勤めてる会社からそんなに遠くなかった。
帰りに取りに行って家まで届けようか…でもチアキんちまで往復3時間くらいかかるし、明日も仕事なのに終電間に合うかなぁ。
つーか殺し屋何してるかな。と思って電話すると予想通り電源が切れていた。
チアキのお母さんからまた電話で
[警察に行って家の様子を見てきてもらったけど夕方なのに暗くて人の気配が無かったらしい…どうしよう…娘は大丈夫なんだろうか…]と明らかに動揺している。
警察に連絡したんだ…。
お父さんにも代わって北海道でオロオロ心配している二人を東京から電話越しになぐさめる私。
お父さんにも「Twitterというものがあって〜そこで昨日酒を〜」とTwitterの説明をした。
「娘はなぜそれを呟いたのかな?」と不安がってるけど、そこは知らん。Twitterに意味などない。
ついでに殺し屋のお母さんにも二人が危ないと連絡を入れたらしい。
北海道でのオロオロ人口が増えている。
結局私は仕事を早く切り上げてタクシー会社に携帯を取りに行き家まで届ける事にした。
[私ぬき!取りに行くから!]とタクシー会社に電話をすると[助かる]と言われた。
上司からは「ちゃんと売り上げとれてるの?」とネチネチ言われたが私がサービス残業をした所で売り上げは変わらない。
「友達が死んでるんです」と言って退社した。
タクシー会社に携帯を取りに行くと見覚えのある携帯が充電されていた。
おじさんに話を聞くと「昨日うちのタクシーに忘れてった」と言っていた。
ほれ見ろ!昨日だろ!おっちゃん一昨日って実家のお母さんに言ってますけど?!それで地元では両親がオロオロしてるんだぞね!!
責任取れよ!!と思うが言わないでおく。
大人だから。充電しててくれたしね。
さて、携帯を手に入れたは良いけど今度は家まで届けないといけない。
届けた所で家にいるのか。お母さん達が心配しているような世にも奇妙な二人になってるのか。と思って駅まで歩いていると音響をしてる友達から電話が来た。
「あいつらは生きてるのか?」
来た!来た!仲間だ!ここで心強い味方が来た!「携帯を手に入れたから今から届ける所」と説明するとちょうど仕事帰りで車で迎えに来てくれて、一緒に届けに行ってくれると言う。
仏様じゃないか!!!整体師と大違い!
さすが殺し屋の親友の音響!なぜか話も全部わかってるし一緒に行ってくれるし車だし!
音響と駅で待ち合わせをする為に歩いているとチアキの携帯が鳴った。
公衆電話からかかってきてる。
[あ、コレ絶対チアキだわ]と思って
「ちょっと!!何してるのよ!」と電話に出た。チアキが喋る前に喋ってやる!
するとぬきが出ると思っていない、よそ行きのよそチアキが「え?!もしもし…どちら様ですか?携帯の持ち主ですけど…」と言ってる。
「ぬき!今から音響と一緒に家に届けるから待ってて」と言うと「なんでぬきが?!」と驚いていた。
そりゃそうだろうな。昨日一緒に飲んでないのに私がなぜか持ってるよ。
「説明は会ってから!とにかくお母さんと殺し屋のお母さんに電話して!あなた達2日前から死んでるから!」と伝えて音響と合流し家まで届けた。
家に着くと二日酔いでだいぶ具合悪そうなチアキと殺し屋がいた。
それぞれの1日のやりとり聞いた。
チアキ→バイト先で吐きまくりながら服の接客をしていた。携帯が無くてずっと鳴らしてたのに誰も出てくれない。でもなぜか充電は切れないという不安な1日を過ごす。
殺し屋→二日酔いで潰れてさっき起きた。
警察が家に来たことも知らない。だって寝てたから。他にもなんか無くしたものがあるらしく昨日行ったお店に忘れ物がないか電話をしていた。「忘れ物は○○しかないですね〜」と店員さんに言われててチアキが隣で「それ!チアキの!チアキの忘れ物!!」と叫んでるのにそのまま電話を切っていた。冷血殺し屋。
後日「これ!この前のお詫び!叶姉妹もくるケーキ屋さんのケーキ!」とお詫びケーキをくれた。
あの日チアキのバイト先に電話をしたらもっと早く解決されてたんじゃないかと思う。
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