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超年下男子に恋をする⑨(あなたが二十歳だったら僕の彼女にしてました)

 初めはただの推しだった。

 私が彼を溺愛してるのは誰の目にも明らか。
 息子と称してもうデレデレに可愛がっていたし、とにかく甘やかすし、向こうもすっかり甘えてくるので、社員からは「ダメ男製造機」とまで言われた。

 若い女子の人気を二分していた社員が2人いて、残念なポンコツイケメンの彼はあまり人気がなかったし、彼にかまうのは私ぐらいだった。

 でも女子高生で一人、人の好きなものほしがる困ったちゃんがいて、
「あの人いいですよね。一緒に推します!」と言われた。

 その時、何故かムッとした。

 そしてはっきり自覚した。

 もうこの時点で推しじゃない。

 彼の良さわかってくれなくたっていい。私だけにモテてくれればいい。他の子たちと一緒に彼を取り囲みたいわけじゃない。むしろ邪魔。
 この独占欲はガチ恋だ。

 ちがう、そんなはずはない。

 この独占欲はあくまで「息子」に対してのもの! 
 息子は母の永遠の恋人! 
 だからこれはそう擬似恋愛!

 この時はまだそう思っていた。

 だから女子社員に

「二人とも本当はどういう関係なんですか?」と聞かれたとき、

「来世で結婚したいぐらい好きです」と私は答えた。

それに対して彼が言ったのは

「山田さん(私)が二十歳だったら普通に付き合ってたと思います」

 これには自分でも驚くぐらいショックを受けた。
 いくらなんでもひどいじゃないか。
 タイムマシンで過去に戻れたとしたって、年齢までは戻せない。
 今の私はどうしたって二十歳には戻れない。

 これまでにも彼は私に何度もしつこく年齢を聞いてきた。

 でも彼はお姉さんが二つ年上なので、付き合える年上は一つか二つ年上までと決めている。

 そして年下はリードしなければならないという理由で却下。

 彼女にするなら同じ年齢か二つ年上までという非常に狭いストライクゾーンだ。

 まあ学生の頃って一学年か二学年違うだけで先輩がやたら大人に見えたりする。学生と社会人の差も大きかったり。

 だから彼が許容範囲が狭いのもわからなくもない。
 これがあと10年20年もすれば、一つや二つの違いにそれほど差など感じなくなる。それに人の内面の成熟度は年齢だけでは測れない。

 ただそれを今の彼が理解するのは無理だろう。
 だから私は私の実年齢を絶対言わない。
 もう年齢なんて申告制か判定制にすればいいのに!

 いくら見た目が若くてもたいていの男は実年齢重視。
 いくら若さを維持していても「その年に見えませんねー」とか「美魔女」とか言って茶化す。「若作り成功」なんて言葉も誉め言葉なんかじゃない。

 男が超年上なら若い嫁をもらうのはある意味ステイタス。
 でもそれが逆なら? 結婚したって「逆年の差婚」なんて言われたりする。「逆」って何? あくまで男が基準。男なら超年上はありだけど、逆はないのが大前提。

 そもそも年齢言う必要ある? 
 私が誰に対しても年齢を言いたくないのは、その年齢ならこうだろうという先入観で見られたくないからだ。
 年上とわかれば急に敬語になったり、親になったこともないのに親扱いされたり、関係性まで変わってしまうことがあるからだ。

 ましてや彼に年齢を言ったら、もう擬似恋愛すらできない。私が彼に恋心を抱いていることすら、不快に思うかもしれない。

「山田さん、僕に夢中ですよね」

 そうやって照れながらも嬉しそうに笑うあの顔が見られなくなるのは嫌だった。

 彼といる時は自分の歳のことなど考えたくもない。

 なのに彼はしつこかった。

「どうして年教えてくれないんですかー、教えてくださいよ!」

「私がいくつでも関係ないでしょ。私は二十歳でもなければ二十一でも二でもないし、それだけでもう充分でしょ!」

 そう言った後の彼の言葉にまた私は打ちのめされる。

「くっそー、どうして二十歳じゃないんですか!!!」

 もう寺の鐘の中に押し込められて外側から打ち鳴らされてる感じだった。

 なんて残酷なことを言うんだろう。

「そっちこそなんで80年代生まれとかじゃないわけ? 生まれてきた時代間違ってるよ!」

 精一杯、言い返したのに彼は普通に言葉を返す。

「そうなんですよねー。僕、マイケル・ジャクソンとか好きだし、お母さんにも『あんたは昭和に産まれた方がよかったのに』って言われるんですよ」

 見た目も中身もたしかにどこかノスタルジックな昭和臭。お母さんがそういうのも無理はない。

「本当に、生まれてくる時代まちがえたよ」

「僕もそう思います」

 でも今この同じ時代に同じ場所で私たちは出会った。
 それだけで奇跡。

 二十歳の頃の私なら、今の子たちと同じように、彼のことはただ鈍臭いやつと思って相手にもしてなかっただろう。

 今の私だから好きになったんだよ!

 お願いだから、恋する気持ちに年齢制限つけないで……。




 

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