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対談:牢獄としての速度

対談人物(F:俺、A:安部ちゃん)

F:あれ?リニア新幹線って、結局、どーなってんだっけ?

A:私は知らないですね。延期につぐ延期で、みたいな記事をどこかで読んだ気もしますが。

F:計画作って、実験してますう、って言ってたのがいつからだろうな?ほぼ歴史の産物で、総額にすると物凄い金額をぶっこでんだろうなあ。

A:あー、ネット見ると、開業が2029年以降にずれ込み、とか書いてますね。

F:「以降」たってあなた、二千年後の4029年だって2029年以降だからね。その頃には人類なんていないんじゃないの?

A:いや、私に言われてもですね………。でも東京から大阪間が一時間くらいになるらしいっすよ。今、二時間半くらいですか?速いですねえ。

F:気ぜわしいなあ。必要?それ。

A:必要な人には必要なんじゃないですか?

F:ネットなら会議室起こして、相手を呼んで、まあ1分かなあ。

A:いやいやいや、やっぱり直接行く必要がある人だっているでしょうし。

F:どーなんだろうね?このコロナ時代。俺なんか二年前はバカみたいに出張してたけど、今、テレワークで家の付近をウロウロしているだけだよ。ビジネス方面的には、「物理出張」とかがた減りしてんじゃない?大枚はたいて30分くらいの会議のために飛行機乗ってる時代じゃないよね、もう。大昔にそろばん弾いた「リニア新幹線による経済効果」なんてもはや絵にかいた餅状態でしょう。

A:そーかもしれませんね。

F:とは言え、無茶なカネをぶっこんで進めてきた計画を「やめます」とか言いにくいんだろうなあ。ここの国の人たちって、何か始めたらやめるっていう判断を異様に嫌がるしね。一度設定した定例会をずーっとやるみたいに。

A:やめると責任問題、とかも出てくるんでしょうね。

F:責任を問われるくらいなら、やっちゃった後で、「当初の計画はこうだったんですが、状況の変化にともない………でした」なんて緩くごまかしたいんだろうな。プラマイ弾けば、途中でやめたほうが損害は少なくてもね。

A:で、今日はリニアの話ですか?

F:いや、全然。「速いって、そんなに偉いですか?」って話だ。

A:あー、「スローイズビューティフル」的な?

F:まあ、そういう方面にも関連してくるかもしれないが、………「速い」って何だろうな?とか思うわけよ、最近。

A:速いってのは、A地点からB地点に到達するまでの時間ですよね。

F:Aという状態からBという状態ってのもあるか。Bが無限に遠かったり、B=Aだったりすれば、そもそも速い・遅いなんてことは成立しないからな。

A:シマウマが、速いチータに追い付かれる、ってのはどうなんでしょうね?

F:なにげにアキレスと亀みたいな感じだけど、チータとシマウマの距離を、相対的に移動するA地点、B地点と読み替えちゃえば良いんじゃない?

A:チータにとっては、速いのは良いでしょうね。シマウマにとってチータが速いのは悪い。で、東京から大阪間を速く移動できると、何が「良い」のかなあ。

F:着いた先で、例えば大阪でタコ焼きとかの炭水化物を余計に食べられます、ってことか。糖質制限的にはNGだが。つまり大阪というB地点での消費時間が増えるから、速いと嬉しい。状態変化も似たようなもんだな、目的がBという状態であるなら、できるだけ短時間にBになりたい。でもさあ、「速い」が偉かったり嬉しかったりするのは、遷移した先に、何かのプラス要因があるときだよね。大阪に着いた途端逮捕されるなら、別に嬉しくない。

A:早死にだって、嬉しくはないですよね。

F:究極の到達点だな。まあ、一般的には嬉しくない。人生の到達点への到着は、長く時間をかけたほうが偉いとされる。なぜかねえ、徒競走とかは「速い=偉い」なのに。

A:「遅い=偉い」だと、動かなければ良い、って言うか、いつまで経っても競技が終わらないでしょうね。国会の牛歩戦術みたいに。後、遅かったり動かなかったりするのは、ある程度、誰にでもできるけど、速いは頑張らないと実現できないってことですかね。

F:ボルトも新幹線も、リニアもか。速いってのは、時間をスキルとかエネルギー消費とかカネとかで買っているようなもんかねえ。鼠のいるDランドのなんとか券みたいに。

A:状態遷移をゴールにするんなら、遷移する主体の自由度が上がるってことですか?タコ焼きを余計に食べられたり、シマウマを食べられたり、他のアトラクションを体験できたり。

F:早死にの場合、生物としての自由度は、そりゃあ長生きしたほうが増えるよな。輪廻転生を想定しなければ。

A:輪廻まで言い出すとキリがないんでやめときましょうよ。

F:じゃあ、基本的に自由度が上がる方面の「速さ」は偉い、とされるってことで良いかね?

A:まあ、そうっすね。

F:で、ここからが問題だけど………。

A:え、まだあるんすか?

F:この対談として着地が必要でしょう。あのさあ、タコ焼きなんか今日日、どこで食べても同じなんだから、先に買っといて新幹線の中で食べれば良いんじゃないの?俺が若かったころ、新幹線には食堂車っていうものもあったのよ。関係ないけど。

A:「どこで食べても同じ」とか言ってると大阪の人たちに怒られそうな気はしますが………。第一、勝手にゴール後のお楽しみを移動させていません?

F:そこだよ、君が囚われているのは。なぜA地点とB地点の途中で、楽しんではいけないなどと思っているのか?ってことだ。良いんだよ、ボルトだって走りながらタコ焼き食べたって。そういう自由度の上げ方だってあるんだよ。A地点からB地点に向かう途中には、無数の「楽しみ」を差し込めるんだよ。そうしたら、「A地点からB地点に急いで行かなきゃあ」って目を血走らせた個体より、よほど自由度の高い人生を謳歌できるんだよ。「A地点からB地点に急いで行かなきゃあ」という考え方で、速度を競うのが、個体の自由度を低くしてるんだよ。

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A:なーんか自己啓発っぽいっすね。

F:俺も、言いながらそう思った(笑)。

A:でもアレっすよね。無数の「楽しみ」を差し込んだ時、ゴールへの到達は遅れますよね、多分。で、この移動が他人との競争であった場合、着いたらアトラクションの列が超長くなってたりしません?二時間待ち、とか。

F:ゲーム理論みたいなもんだな。他人の存在が到着点での自分の自由度を疎外するって奴だ。でもさ、君、本当にDランドとか行きたい?俺は人ごみとか大きな音とかが嫌いなんで、そもそも行かないんだけど。

A:子供が小さい頃は連れて行きましたけど、今、この年齢で行こうとは思いませんね。

F:年寄りだなあ、君も。もっと世界に好奇心をもたないといかんよ。

A:あなたに言われたくないですけどね。

F:まあ良いか。あのね、「他人と速さを競うレベルのゲームに参加しちゃあダメ」ってことなんだよ。考えなしにレッドオーシャンに飛び込むから「速さ」のゲームに溺れるんだからね。皆がDランドに行っているときは、君はのんびり近くのひなびた遊園地にでも行って過ごすの。「皆が行ってるDランドに行かなきゃあ」ってこと自体がダメなの。鼠の着ぐるみ着てラブリーに踊ってても、入ってるのはダラダラ汗かいたオッサンでしょ?

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A:………おっさんとは限らないでしょうが。じゃあ結論は、そもそも速さ比べになる競争には参加するな、ですか?

F:うん、後、「速いのが良い」っていう牢獄を内面化するな、ってことかなあ。良いこと言っちゃったかなあ、俺。

A:どうも自己啓発の臭いがする対談でしたね。

F:次はもっと不真面目にやんないといかんなあ。


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