見出し画像

【観櫻句會】結果及び選評

0.ご挨拶

皆さまごきげんよう。芙蓉セツ子と申します。
気がつけば早いもので、立春を迎えたかと思えば春分を足早に通り過ぎまして、桜の舞い散る季節となってしまいました。

さて、ということで先週末にお花見をしながら俳句を考える【観櫻句會】というものを開催させて頂きました。
今回は句会と申しますか、当日は夜桜を眺めながらお話する会だったのですけれども、投句から選句まで無事に一連の行事が終了致しましたのでこちらにて結果をご報告させていただきたく存じます。
年度末のお忙しい中ご参加頂きました皆様まことにありがとう存じました。

それでは、まず今回の総合結果と投句並びに結果の一覧から参りましょう。

1.全体の結果

【観櫻句會(第十八回)】 投句者数 9名 選句者数8名 投句総数 37句
【お題】当季雑詠

【一席(19点)】剪定の迷い残して雨水かな    ペラ男
【二席(15点)】ふらここの陰に時間の落ちにけり 白桃丸
【三席(12点)】ため息の残る硝子や雪の果    芙蓉セツ子

《入選》(7点・6点句)
大腿骨継ぎて立つ日や桜満つ    ペラ男
蛇口から指先に春がおちてゆく   わとし
透きとほるワルツ弾くごと花篝   芙蓉セツ子

《佳作》(5点・4点句)
爪先の冷たくは無し胡瓜蒔く    ROSETEA
花冷えやルージュ捨て去る喫茶店  芙蓉セツ子
及第の目をあまやかに綿ぼこり   綿井びょう
桜雨アンナカレーニナにはなれぬ  村蛙
指先を添へてみたくて雪柳     芙蓉セツ子

※発表文のため敬称略とさせていただきます。

ご投句・ご選句・ご観覧頂きました皆様まことにありがとう存じました。

2.芙蓉セツ子選

今回全体的に取りたい句が多くて選句に悩んだのですけれども、その中から次の6句を取らせていただきました。

【天】蛇口から指先に春がおちてゆく  わとしさま
家事の水の温度に季感を添えるという手法は生活感のある俳句では特に冬などで既出かとは存じるのですけれども、それを口語かつ現代的な飾らなさで眼前に置かれてみたとき、すとんと腑に落ちるような心地がいたしました。
冬あるいは夏ですとこの蛇口から出る水にある種の温度を伴った「意味」が付与されるかと思うのですけれども、「春がおちていく」という季節の捉え方がその飾らない句調と見事に調和しているように存じます。

【地】ふらここの陰に時間の落ちにけり 白桃丸さま
わたくし、選句用紙を皆さまに公開するまで極力寄せられた句を見ないように(同じ条件で選句を始められるように)気をつけているのですけれども、この句は投票用紙の準備中にふと目に止まりまして、その瞬間に気に入ってしまいました。
陰を効果的に用いた句が元々好きというのもあるのですけれども、この句はそこからの展開に引き込まれるのが核心の句かと存じますわ。解釈は広く取れるかと思うのですけれども、目を瞑ると陰と時間の螺旋の中に様々な想像を広げられるように存じます。

【人】蕗味噌や土踏みし日の香り立つ  ペラ男さま
蕗味噌の香りから過去の良き日々に思いを馳せているようで、土踏みし日という表現に、どこか食卓の上では完結しない強い情が滲んでくるように感ぜられました。
蕗味噌という季語の相性も良くて、どのように解釈しても納得できる読後感のある句かと存じますわ。

【福】甘いもの買いに行こうか風生忌  ペラ男さま

富安風生さまの句風に程よく合った軽さの句なのではないかしら。忌日の季語は扱いが難しいのですけれども、あまり重い内容ではなく日常のふとした瞬間を切り取ってみたというのが、良い塩梅かと存じますわ。

【禄】桜雨アンナカレーニナにはなれぬ 村蛙さま
兎角この句は「アンナ・カレーニナ」の衝撃性に惹かれてしまいました。
アンナの激しくも悲劇へと突き進む生き方に一種の生命力に対する羨望のようなものを見出しながらも、他方でどこか諦観し冷めた目線で現実から見ている自分を置いているのが「なれぬ」から滲み出ているように存じました。

【寿】剪定の迷い残して雨水かな    ペラ男さま
年が明けたと思っていたら気づけば春になってしまっているのですけれども、そんな季節が進んでゆく時間の変化とそれに取り残されてしまう心持ちの感覚がコミカルにかつ自然な描写で表現されている句かと存じます。
季節はそれでも進んでまいります――。

==================================================さて、その他に選では取らなかったのですけれども幾つか――。

液晶の中の君との花見かな       村蛙さま
存問の句で、なんだか自分では恥ずかしくて取らなかったのですけれども、ありがとう存じます――。

及第の目をあまやかに綿ぼこり     綿井びょうさま
なんとなく景は浮かんでまいりまして、自分の解釈で取るか悩んだのですけれども、中七の「あまやかに」が最後まで意味を取れず外してしまいました。作句意図を伺ってみたい一句ですわ。

3.全体的な感想

今回は普段とは異なりまして「当季雑詠」ということで特に兼題で季語やお題を指定したりなどは無かったのですけれども、皆さま力作をお寄せ頂きました。ありがとう存じますわ。
春は変化の季節かと存じます。生活も自然も、色々なものが移り変わっていくような季節感の中で、お寄せ頂いた句、とりわけ選の多かった句はどれもそんな「変化」を巧みに捉えて17字に込めているように存じました。
なんと申しましょうか「時間」をぎゅっと固めて宝石にしてしまったような感じかしら。
さて、放送では今までと異なりまして書斎ではなくお外に出てみるということをしてみました。存外に開放感があってよかったですわね。部屋を飛び出してお外からお送りするという形式はまたしてみたいですわ。
4月は藤、5月は菖蒲に杜若。
季節の移ろいと共に花を楽しめる時期ですもの――。

4.拙作付録

今回は4句出しだったのですけれども、おかげ様で全ての句に選を頂きました。ありがとう存じます。中でも一番自信のあった句が高得点だったので嬉しかったですわ。(それに加えて少しばかりの安堵――。)

ため息の残る硝子や雪の果
息を吐くと硝子が白く曇りますけれども、そこに少し意味をもたせることが出来ればと思いまして詠んでみました。メランコリックな雰囲気が微かに伝わっていると良いのですけれども――。

花冷えやルージュ捨て去る喫茶店
この句もどこかメランコリックなものでして、コーヒーカップに残った口紅と冷めきったコーヒーという情景に意味を与えることが出来ればと考えてみました。句としては少々投げやりな気がいたします。

透きとほるワルツ弾くごと花篝
夜桜の灯のゆらゆらとしたリズムが散りゆく花にどこか共鳴するようで、ただ綺麗なだけではないメランコリックな感覚を捉えてみたかった句ですわ。

指先を添へてみたくて雪柳
雪柳かわいいですわよね。触れると壊れてしまいそうな細い腕のよう。
この句はメランコリックではありませんわね。甘酸っぱいですわ。

==================================================

【ご参加者頂いた皆さまの選評】

こちら、ご参加いただいた方が選評の記事書いてくださいました。
いつも誠にありがとう存じます。嬉しゅうございますわ。  芙蓉セツ子

平素よりご支援頂きまして誠にありがとう存じます。賜りましたご支援は今後の文芸活動に活用させて頂きたく存じます。