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ずっと夢に見ていたこと

3月に引っ越す予定の新居「はなちゃんち」の庭には、大きなガジュマルの木がある。

前々から「ツリーハウスを作るのに丁度良いのではないか」と密かに目をつけていたのだが、この間初めて登ってみて、予感は確信へと変わった。ついにこのときが来たのだ。幼少期からの憧れ、ツリーハウス建設を実現するときが。

私がツーリーハウスに憧れるきっかけになったのは、実家にあった1冊の絵本である。「おおきなきがほしい」という本で、「かおる」という名の少年が、大きな木の上にあるツリーハウスと、そこでの暮らしを夢想するという話だ。

おそらくウチの両親は、主人公の名前が私と同じだったものだからそれを面白がって、滅多に買わない絵本など買って来たのだろう。私はその本をいたく気に入り、穴の空くほど隅々まで眺め続けた。絵本の中の「かおる」がホットケーキを焼くシーンなど、まるで自分の体験のように記憶している。あれはたしか夏の日だった。辺り一面から聞こえてくる蝉の声や小屋の中を歩くときの足音、窓から入ってくる風の感触まで思い出せそうなくらいだ。

40年近く経った今でも、その絵本は私にとって「理想の生活像」の原型になっている。私は基本的に、子供の頃からやりたいことが全然変わっていないのだ。いい歳をした大人が言うとバカみたいだが、私は今でも本気で、木の上だとか森の中だとか無人島だとかに小屋を建てて、そこで誰にも邪魔されずにずっと絵を描いたりホットケーキを焼いたりして暮らしたいと思っている。

今だんだんと、そこへ近づいてきているのを感じる。まずは、はなちゃんちのガジュマルに小さなツリーハウスを作って、そこでホットケーキを焼こう。もちろん、夏の日に。

40年越しの夢を実現するのだ。


ふやよみ 青木薫

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