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「日常」

朗らかな森で育ったきみとの
暮らしがはじまった頃
それぞれが互いに
理想の人を思い描いていた
生まれ育った森の時計も
好きな物語も
まるで違うふたりで

そうして
きみは
そのことについて
ひとつも重点を置いていない様子だった

わたしは
ゴダールの「気狂いピエロ」を観て
男と女の違いに
大きく頷いた

きみは別の角度から
理想の人を持っているように
見えた

それから
時は去りゆき

ふたりは
歩み寄りと
あるがままを
調合した
ミックスjuiceを
生み出した

繰り返しのように映る
日常は
儚さを隠し持って
なに食わぬ顔で
微笑している

夜が明けてしまうと
過ぎ去りし日の
ふたりは
もうどこにも存在しない

有機体の宿命なのだ


夏の日を待ちわびていた
樹木も
同じように見えて
昨日とは違う液体が
流れている

そうやって
刹那に溶けて
朝をむかえる

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