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企画もの

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#小説

貸し出し中?いえいえ、予約中です。(小説)

中学の卒業式の日。進学をきっかけに好きな人と離れることになり、私は告白をしようとした。けど待ち伏せた場所に彼は来なかった。公園でベンチに座って俯いていると、ランドセルを背負った男の子が目の前に立った。 「みーちゃん大丈夫?お兄ちゃんが何かした?」 「ゆうくん」 思わず私は苦笑する。 「かなとに会えなかった」 「うちに来ればいいじゃん」 「それじゃ意味がないっていうか」 「何それ」 ゆうくんはかなとの弟だ。そして私がかなとのことを好きだということをいち早く見抜いた。バレ

移り変わっていく季節の中でその名前を呼べたのなら(小説)

何でも君のいうことを一つだけ叶えてあげるよ、 ある日気まぐれな彼はそう言った。 唐突なお願い事をするときには彼は大抵私を見ていない。窓の外で降り積もる落ち葉を見ながら、歌でも歌うように彼は呟いた。今は秋の終わり。それに呼応するかのように、付き合い始めてしばらく優しかった彼がなんとなく冷たくなってきたような気がしていた頃のことだった。 「この前のデートをドタキャンしたことへの償いのつもり?」 自然と語尾が強くなる。私は爪の先にきれいにトップコートを塗れてちょうど満足したと

白い悪魔(ショートショート)

私の頭にはいま中身がない。まさに空っぽだ。ぼうっとして思考が働かない。胃の中に穴が空いて食べたものがみんなそこからさらさらと流れ出してしまうかのように、受け取った情報が吸収されない。覚えようとしてもたちどころに消えて行ってしまうのだから。いつからこうなってしまったのだろう。そう思うと何だか肝が冷えるかのような心地になる。まるで自分の芯というものが凍り付いてしまったことに気付いた気になるのだ。私は結局何がいけなかったのかを知りたくなくて、最初からその中には何もなかったのだと自分

ようやく出会えたあなたは(小説)#夏の香りに思いを馳せて

出会いは図書館の自習室への階段だった。受験勉強の帰りに毎回何かしらの本を借りていたのがみおりで、そのみおりを目で追っていたのが図書館で土日だけバイトをしている大学生のせなだった。 みおりはどうやら恋愛小説が好きらしく、作家の中でも恋愛ものを選んで借りていく。それはカウンター業務をしていればおのずとわかってくることだった。そしてせなは今日も目の前のみおりに無愛想に対応してしまう自分自身に嫌気がさしていた。 この図書館はカウンター業務があるものの、基本的には接客業とは違うため

微睡みの中で君に預けた時間(小説)/ひと色展

その水滴はただそこにありました。太陽の雫、七色の宿る場所。そんな風に呼ばれながらも微睡んでいました。それは他の誰かからすればひたすらに意味のない時間、一方でとても透明感のある時間でした。 いつか戻ってくるのではと、希望を抱いていたのです。 ほんわかとした春の陽気の中で芽吹いていく双葉を見ながら考えました。こんな風になりたい。うまく心を開けなかった自分を悔やんでいました。 本当は言いたいことがたくさんありました。それなのに全部見ないふりをしてしまいました。どう受け取ったら

「もう好きじゃないよ」ってどういう意味?【才の祭小説】

雪の降る街を一人歩きながら、溢れる涙を拭う。かれこれ20分以上止まらないそれは、頬に触れて溶けていく結晶よりもずっと温度が高いはずだった。そのはずなのに、つうっと流れては流れるほどにどんどん冷たくなっていく。衝突したのは他愛もないことだった。彼が私たちの関係を否定したのだ。それは私が最も言われたくない言葉であって、過去に最も傷ついたことだった。 足早に通り過ぎる駅前。行き交う人たちは誰も私のことなんか見ていない。それもそのはず、もうすぐクリスマスということで室内にはたくさん