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世界一の岩壁を見に行こう

ゴールデンウィークも終盤に差し掛かる頃、
新緑と残雪、そして巨大な岩壁を見に谷川岳の一ノ倉沢にトレッキングをしてきた。


世界一の……

山の中でもいろいろな世界一はあるが、谷川岳は世界一遭難者をだしている山という負の称号をもっている。
世界一の標高を誇るエベレストよりも多くの人がこの山では遭難しており、魔の山とも呼ばれている。
そんな魔の山でありながら、高い人気を誇り、
たくさんの人たちがこの山に魅了されて訪れている。この山の自然にはそれだけ人々を惹きつける大きな魅力があるのだ。

谷川岳というのはこの山岳地帯一帯の総称である。今回は登山はせずに国道を歩き1000メートルの高さがある岩壁地帯一ノ倉沢を下から眺めにトレッキングに行ってきた。


一ノ倉沢へ

コースは単純で、谷川岳ロープウェイ駅からスタートし、国道291号線を歩いていく。5月中旬頃までこの道は車両の規制をしているため、気持ちよく歩くことができる。
周りにはブナの原生林があり新緑の道を進んでいく。

しばらく歩くと景色が開けてマチガ沢に出る。
沢というのは川の支流と主流の合流地点のことである。
過去に宿があり明かりが見えて街がある!と喜んだことからこの場所はマチガ沢と呼ばれるようになったという。
地名になるほど、街灯もない山深い山道は人の気配が嬉しかったんだろうと思う。
マチガ沢からは谷川岳の山頂オキノ耳、トマノ耳を見ることができる。過去に山頂には行ったことがあったので、見えた時は嬉しかった。 

谷川岳の双峰トマノ耳とオキノ耳が見える

一ノ倉沢はそのさらに先にあるので、どんどんとブナの森の中の舗装された道路を歩いていく。
ブナの葉は日光を受けるために重なることなく広がるのでブナ林は傘がいらないと言われるほど空を覆い尽くす。歩くにはちょうど良い木陰とキラキラと木漏れ日が差していてずっと気持ちの良い道が続いていく。

人間の手が入っていない原生林を歩く

1時間ほど歩くと今回のお目当て、一ノ倉沢に出る。高さ約1000mの巨大な岩壁が目の前に現れると、谷からは冷たく涼しい風が吹き抜けてきて気持ちが良かった。
この時期はまだ雪が残っており、新緑と残雪を同時に眺めることができた。
過去に一度雪の時期も来たことがあったが、初夏の姿もとてもかっこよかった。
いざ目の前にしてみるとあまりの大きさに怖さすら感じた。

谷川岳の遭難事故の多くがこの岩壁にある。
クライミングの聖地であり、クライマーの憧れの地となっている。
ただ、地質的に蛇紋岩や玄武岩といった脆い岩でできたこの山は崩れやすく、滑落する危険性がある。また、雪の多い地域でもあるので山からは常に水が染み出していて足元が滑りやすくもなっている。
これらの要因が谷川岳を魔の山とする所以である。

表面の模様が蛇のように見えることから
蛇紋岩と命名された。
風化作用を受けやすく脆く崩れやすい性質。

周辺には過去に滑落してしまった方々の追悼の碑が多くあった。
追悼碑には亡くなった方を偲ぶ一文があり、どの人も亡くなってもなお、山を愛しているように感じた。
愛していた壮大な山の厳しさで命を落とし、その山の懐で魂が眠っている。
この場所に行くことによって自然の美しさも残酷さもも再度確認させられた。

一ノ倉沢より先は未舗装の道となった。
ほんとうに国道かと疑うような道となっていた。国道291号は"酷"道(こくどう)としてもマニアの間では有名らしい。



日本海からの雪は谷川へ積もり、山を経て関東へ

新潟側から雲がぶつかり乗り越えてくる様子

谷川岳は中央分水嶺であり、利根川の始まりはこの谷川にある。
日本海側で発生した湿った大気は谷川岳にぶつかり雨や雪を降らす。
その水は山から染み出し大きな利根川となって関東に暮らす人々に潤いを与えている。
山から遠く離れて暮らす人たちにとって今回書いた谷川岳はすごく遠くの存在かもしれないが、実は生活の中に根深く関係をしている。
みなさんも利根川をみたらその川の故郷である谷川のこと、その山に眠る山に命をかけた魂のことを少しだけ考えてみてもらいたい。
そうしたら少しだけ山が身近な存在になるかもしれない。

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